2025年1月1日
今でもはっきり目に浮かぶ。製壜課3号機ペケコンベアーの中にどうしてこんな大きな赤い布があるのかと思った。すぐにそれがつぶされた仲間の血だとわかったあの瞬間、あの時の驚愕。
全国の労働現場で殺される労働者はあとを絶たない。過労で死に追いやられる仲間も多い。うつ病で悶え苦しむ仲間たち。みな苦しかったろうな、痛かったろうな。家族や友人は悲しかったろうな。
1916年11月の根岸正吉の詩(うた)ったまま、その血痕は今なお決して落ちないのだ。
職場から過労死をなくせ ! 労災事故をなくせ ! 長時間労働をなくせ ! パワハラをなくせ !
おい経営者ども、資本家ども、これからも何万人殺したら気が済むのか ! いい加減にしろよ ! おまえ ❢
詩「落ちぬ血痕」 根岸正吉
ヒ──ッ アレ──ッ
女の悲鳴驚愕の叫び
機械は停まった。集える人は垣をなす。
されど されど
死せる工女がなぜ生きよう。
髪をシャフトに巻かれて振り廻された。
若い工女の死骸こそ
目もあてられぬ惨憺さであった。
骨は砕け肉は崩れ皮は破れて血汐は飛ぶ。
飛んだ血汐があたりに散った。
彼女の機台に織られた毛布の上にも
異様の形をなした赤い血痕が残された。
ふと見ると。
隣の機台にも
前のにも、後のにも、ずっと離れた遠方のにも
どれにもどれにも同じ形の血痕が見える。
それのみか
違った工場の違った台にもそれがある。
不思議な事には其血が落ちない。
抜いても抜いても残る
如何なる薬品如何なる技術も其血は抜けない。
その工場は軍用毛布を一手に受けて
暴利を貪って居たのだが、
その血が残って一枚も納まらない。
その事あって丁度一年
同じ月の同じ日に会社の組織は変った。
けれども
白毛布には変らず赤い血がつく。
その血が落ちない。
(『新社会』1916年11月号にN正吉名で発表)