「紫陽花の花って大きいわよね。手まりみたい」
陽子は大振りの傘を斜めにして花の前で座り込んでいる。
「違うと思うな。一つ一つの花が重なって咲いているんだ」
「あら、花に詳しいのね」
陽子は嫌みを言う。
僕だって自信はない。
けれどこの紫陽花寺の紫陽花は、とんでもなく広い範囲で咲いている。
「有り難う、連れてきてくれて。それも二年続けて」
それは去年彼女に約束させられたことだ。
僕は約束は守る。
「ねえ、ここの紫陽花の手まり、いくつ有るのかしら」
「さあ、お寺の人に聞いてみたら?」
「そんなのつまんない。自分で数えましょうよ。
ここからあなたは向こう側へ、私は逆向きに」
やれやれ、思いつきでいつも行動するんだから。
僕は数え始めた。彼女もまた。
しばらくすると、陽子の姿が見えなくなった。
もしやと思い、僕はバス停に駆けていった。
はたして、陽子はいた。
「どういうつもりなんだ」
「紫陽花に包まれて別れるのって良いなと思ったの」
「僕のどこがいけない?」
「あなたは優しすぎるわ。これじゃ、私、我が儘になって
あなた以外の人とやっていけなくなる」
「良いじゃないか僕の優しさはここの紫陽花の花以上にあるんだぜ。
僕が一生君の相手だ。不満かい?」
陽子は傘を放り投げて僕に抱きついてきた
柔らかな雨が僕たちを包み続けた