むらやわたる57さい

千文字小説の未来について

超IQ研究所クラスター㊷

2019-08-07 10:30:01 | 小説
 昭和五年五月未明。北京の見世物小屋で経営者が、首を斬られた死体で発見される事件が起きた。見世物小屋は入り口におっぱいが見える首なし女のポスターを貼って、小屋の通路に、血だらけの人形を並べたお化け屋敷だ。公安は入り口の時計を見ながら「そろそろ思考描写の時間だな」と思った。気になるのは、九四歳な公安OBの話だ。 以前憑依してきた人物はやはり公安OBだった。九四歳になって人間の限界点を見ているという。それは自ぶんの年齢じゃなくて読み書きが、ままならない下級官吏がぞうの寿命ぐらいで、死ぬ境界のことみたいだ。読み書きがままならないと、若者につたえることが、なにかの痛みだけになって自ぶんから、痛みを求めるようになるという。事象の構造に、対する観察眼の、なんらかの代用物が消失して、代用物を動物のように追跡してそうなるらしい。現場は死んだ経営者が三五歳で男性従業員三人と美術学校の同級生。白骨死体や腐乱死体の人形があることからわりと繁盛しているみたいだ。昨日はレイアウトを経営者と、男性従業員三人で変えていたという。男性従業員は人形づくりの担当が二人と、舞台装置の担当がひとり。公安は切腹している人形がいいと、思ったが脳みそを食べている女と、食べられている男の人形もいいと思う。出口そばに太った女の、裸の人形があることも印象的だ。見世物小屋は人形だけで通常に営業している。公安が舞台装置の男に「ここは、なん年前からやってるんだ」と聞いたら、「一〇年前に銀行から資金を借りて四人でつくった」と言う。公安が「ずっとやるつもりか」と聞いたら、「将来はもっと大きな見世物小屋をつくりたい」と言った。そして「音響装置や光線が動きまわる装置をつくって満員にする」と言う。その日見世物小屋は異常ににぎわっている。公安は人形づくりの男二人を道具部屋に、舞台装置の男を従業員控え室に待機させて、事情を聞いていた。公安が舞台装置の男に「空中を飛びまわる装置はつくらないのか」と聞いたら、「骸骨が空中を飛びまわるしかけもつくろう」と答える。そのとき客が「トイレはどこですか」と言いながら従業員控え室に入ってきた。舞台装置の男が「出口のそばにあるよ」と言って客を案内する。公安は人形づくりのひげをはやした男に「本物だと繁盛するな」と言う。男は「社長に『血がつくり物に見える』と言われておれが殺したよ」と言った。公安は男を逮捕する。