むらやわたる57さい

千文字小説の未来について

超IQ研究所クラスター55

2019-08-20 10:22:55 | 小説
 昭和五年二月未明。長春で穀物ブローカーの男が、小売店の倉庫で、調味料のびんで頭を殴られて死ぬという事件が起きた。死体を発見した小売店の奥さんは「昼食を食べてたときは生きてましたよ。倉庫にある穀物と調味料はあの、男の物です」と言う。公安(中国の警察)が穀物ブローカー仲間から事情を聞くと、「豊作のときは生産者が高値で先物を買うから、もうけが出るけど、今年は不作の品目が多くてもうかってない」と言った。先物が売れないと現物を引きとって、倉庫の保管料と手数料を引いた値段で、小売店に少しずつ売るしかないという。公安が「豊作のときは、小売店の倉庫に、誰の物があるんだ」と聞いたら、「とり引き単位を間違えたやつの物で、びっしりの場合がある」と答えた。公安は不作の、場合のことを聞こうとして胸が苦しくなる。男が見かねたように「とり引きはすべて電話注文だからときどき間違えるやつがいるんだ」と言う。公安が死んだ男を調べると男は四〇代で独身。貸倉庫を経営していて小売店よりも保管料が安いようだ。貸倉庫には三〇代の従業員が二人いた。公安が倉庫の従業員に事情を聞くと、「相場が高くなれば、高値で売ることもできるがまずありません」と言う。公安が「どのぐらい安く買いとるんだ」と聞いたら、「収穫時の、四ぶんの一ぐらい。不作のときは、二ぶんの一くらいだけど」と答える。公安が「生産者はどうして収穫時に売り切らないんだ」と聞いたら、「買い注文を出さないと安くなるからですよ。小売店には前年の在庫で対応できますから」と言う。公安が「生産者は倉庫を持ってないのか」と聞いたら、「生産者が倉庫を持ってると、直売して相場が下落するんですよ」と答える。もうひとりの従業員がバケツを持ってきて、穀物が積まれたパレットの前に塩をまき始めた。公安が「なにをやってるんだ」とさっきの従業員に聞いたら、「今日は相場が高くなってるからおまじないですよ」と答える。公安が、社長が死んだことをもういちど説明すると、「えっ。本当に死んだんですか。一日勝負で相場に、参加する人にもうけられると、『死ぬ』と言うんですよ。そういえば『倉庫作業を手つだうから、保管料を安くしてくれ』と言いにきた小作人の男がいましたけど」と言う。公安がその男から事情を聞くと、「ためた金で買った穀物が、『小売店に売れる』と言ってたが自ぶんの在庫ばかり売ってたから殺したよ」と言った。公安は男を逮捕する。