昭和五年二月未明。香港の熱帯魚店で店主が、ピラニアの水槽に頭を押しつけられて溺死している事件が起きる。事件は白昼に起こり、死んだ店主は人身売買の容疑者だった。公安(中国の警察)が目撃者の、三〇代の女性店員に事情を聞くと、「イギリス人が『船から逃げ出すように指示しただろ』と言って怒ってたわ」と言う。人身売買は農村で「読み書きができない少女を、イギリス人が探してて、それらしき少女が行方不明」と言う情報が複数あって、公安が捜査していた。手口は水田や用水路にピラニアを泳がせて、興味を示した少女に、声をかけるという。公安が奥さんに事情を聞くと、「とりひきは全部主人がやってます」と言った。公安は別な熱帯魚店へ行く。公安が店主から事情を聞くと、「イギリス人から『イギリス留学の手つけ金を払えばいい』と持ちかけられたけどわけ前をもらえるほどの金額じゃなかったからことわった」と言う。イギリス人はピラニアの卸売り業者らしい。公安は港にある事務所へ行く。倉庫の外に、ピラニアのいけすがある。公安が倉庫に入ると、地面にじゅうたんが敷かれていて、一二~一五歳の少女が五人座っていた。公安が、長旅なのに手荷物がないことを不審に思いながら「どうして逃げないんだ」と声をかけたら、「殺し屋がいる」と叫ぶ。壁にランニングシャツを着た三〇代なイギリス人の男が立っていて公安にナイフを投げつけた。公安はよけたが左手の、指の間にあと四本持っている。公安がそばにあった直径七〇㎝ぐらいの丸テーブルを、楯にしたら顔と足へ交互に投げつけて、ナイフが四本テーブルに突き刺さった。男がマシンガンをつかんで公安に向けて発射する。倉庫のなかに、積まれていた水槽に命中してガラス片が飛び散った。公安がふせながらテーブルに刺さっていたナイフを投げつけると、銃口に突き刺さって男がマシンガンを落とす。公安が走って飛び蹴りを食らわすと、男は口から泡を吹いて足もとにあったうつぼの、水槽に頭を突っ込んで倒れる。事務所にいた中国人の男が両手を上げて出てきた。公安は二人を逮捕する。イギリス人の男は、熱帯魚店の店主を、殺したことを認めた。公安が中国人の男に、ピラニアのことを聞くと、「ピラニアは知能が高いんだ」と言う。男は新型華僑投資事業組合の支配人で、多くの企業に資金を供給している。人身売買によって華僑の新しい組合をつくるという構想は、経済界における台風の目だった。