土塊も襤褸も空へ昇り行く:北村虻曳

随想・定型短詩(短歌・俳句・川柳)・写真
2013/11/11開設

バード・ストライク、レッグ・ラリアット

2015-05-25 | 随想
<レッグ・ラリアット>

バード・ストライクとは、建造物や交通機関などに鳥が衝突することを言う。人に衝突することも含まれるだろう。航空機や風力発電の風車への衝突は近年問題になっている。

私が見た最初のバード・ストライクは小学生の頃であった。目の前で乗用車のフロントガラスにツバメが衝突して路面に落ちた。気絶したように動かなかったが、外傷はなかった。家に持ち帰り虫籠に入れて一晩置くと、朝には気がついていた。外へ出すと何事も無かったように飛び去った。
この頃には、大きな屋敷の廊下の大ガラスの下に小鳥が死んでいるのも見ている。座敷に迷い込み、逃げようとして内側からガラスに当たることもあった。

しかしそんな事件は、次第に目撃しなくなった。鳥が飛び回る庭を持った大きな屋敷に入る機会も少なくなったこともあるが。車との衝突も近年には記憶が無い。こんな現象が無くなったということはありえないが、減少したと推測される。
その理由として、小鳥もガラスというものを学習すると思うのである。個体が学び、学ばない個体の系統は淘汰される。このような進化は、いろいろな動物で意想外に早く進むことがわかっている。この場合は用心深いほうが生き残るだろう。(でも最近、鳥類において都市に適応する種が増えている。この局面では冒険心に富んだ種が有利だろう。)
飛行機の場合は主に離着陸の際に起こるようであるが、飛行場はある種の鳥類の採餌、営巣の利点があるので、危険はそれでペイされ淘汰は起こりにくいのだろう。

バグ・ストライクとでも言えばいいのだろうか、昆虫が自動車や電車のフロントに衝突する数はおびただしい。その痕跡はとても汚くて鬱陶しい。また特急通過駅のプラットホームには、はねられた昆虫がバシッと音を立てて飛んでくる。でも昆虫の場合、増殖の早さに比べて、事故に遭う率は小さくて、上に述べた鳥のような淘汰は少ないだろう。

虫は、大事故は起こさないが自転車などでは危険である。一度ヨーロッパの森を抜ける道路で見たが、車はすべて時速100km以上で飛ばしているので、路肩にはおびただしい数の昆虫の死骸があった。サイクリング中であったので、それが眼に飛び込んだりしてふらつくと一大事と感じた。実際、甲虫などに眼を直撃されると慌てる。僕は日本で小甲虫に不意を突かれて自転車のハンドルの操作を誤り、ポールに衝突した。むろん大事にはならなかったが、衝撃を吸収してくれた取り付けの買い物かごが大きくひしゃげている。ウィキペディアには、顔面へのバード・ストライクを受けて事故が起こり死亡したF1レーサーの話も載っている。

近年、東京を電車で動きまわると、どこかの路線で人身事故があったのでダイヤが乱れているという知らせが始終出ている。いわばヒューマン・ストライクである。覚悟のあるところが鳥や虫とは異なる。東京では路線の総延長が長いのだろう、関西よりはるかに頻度が高い。そうした事故の巻き添えで講演者が遅刻することもあった。迂回路も多いが、重要な会合などでは十分な余裕をとっておかないといけない。
中国自動車道を走る長距離バスの運転手に休憩地点で、「運転席の上に大きな幕を張っているのはなぜか」と聞いた。すると「ハイウエイをまたぐ陸橋からバスに人がダイブする事件があり、同僚の運転手が3ヶ月職を休んだ。とても怖いし、衝撃を幕で少しでも緩和できないかと思って張っている」と答えてくれた。
最後に私が聞いた一番稀で、悲惨なものを紹介する。私の教えた学生が淡々と語ってくれた話である。彼の父親がプラットホームに立っていたとき、電車に飛び込んだ人の足がちぎれて飛んできて、その直撃を受け死亡したそうである。まさに死のレッグ・ラリアットである。

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