土塊も襤褸も空へ昇り行く:北村虻曳

随想・定型短詩(短歌・俳句・川柳)・写真
2013/11/11開設

麦の風景、米の風景

2017-11-29 | 随想
<麦の風景、米の風景>

乗り物に乗るといつも窓から外の景色を見ている。かって、デンマークのオーフスというところとフランスのストラスブールで続けてシンポジウムがあった。二日間の空きがある。ヨーロッパの景色はどんなものだろうか。この機会を逃すまじと、飛行機ではなく、わざわざ列車による移動を選んだ。主としてドイツを走るコースである。

都市を出ると、ゆるく起伏する畑が広がり、それを縁取る森があり、その一角に村落があって教会の塔が立つ。あるところは牛の寝そべる牧場となっている。何処まで行ってもそんな風景の繰り返しであった。日本の風景に比べてやわらで安らかな印象を受けるのは、その野畑(field)のスロープのせいである。牧場と小麦畑は、むろん人の手の入った光景なのだが、自然の起伏に忠実なゆるい傾斜地をなしている。

これにくらべると、日本の田畑は平面と直線に富んでいる。水稲耕作には、水を行き渡らすために凹凸の土地を削って水平にする必要がある。そして所有の境界を縁取る細い畔道と用水路が設けられた。広い平面が取れれば用水路は直線となる。里山や谷あいでは、水を行き渡らせるために細い用水路や用水橋が丘や谷の等高線を巧みにつないで、水平な曲線をなしている。結局、いずれも水平な平面と直線と平面曲線に富む地形が構成される。水田を基本とする風景である。条里制に始まる耕地整理がそういう風景を産んだのだ。

これらが、田毎の月、田に映る夜汽車などの景を生み出したのである。田植えの時期には田に水が張られて、鏡のように光を反射し、あたかも空が降りてきたかのように地表が明るくなり、小さな盆地に光がみなぎる。

「豈59号」より。(一部改)
写真は順に、生駒市小明、綾部市延、交野市傍示。延は由良川の脇、僕の生誕の地である。

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