<シカの難儀>
近年、京都周辺から、イノシシ、サル、シカによる食害などの被害を頻繁に耳にする。谷間の村で通電した柵などでイノシシから田畑を防衛しているのは昔からの風景であった(注1)。圓通寺の墓地では供物の食品は必ず持ち帰らなければならない。修学院の関西セミナーハウスではサルが入らぬよう戸を締めることを注意される。上賀茂や比叡平の友人たちも庭や畑を荒らされている。
シカの場合は、天敵のニホンオオカミが絶滅したために増えたと言われている。だから外国からオオカミを導入して食物連鎖を復活させれば良いという案がある(注2)。荒唐無稽のようであるが、米国のイエローストーンや、ドイツのラウジッツなどで再導入されている。生態系を元に戻すという意味で評価は悪くない。
日本でも再導入の意見がある。特にネットでは盛んである。しかし最近フランスで自然復活したオオカミの群による羊の被害が多数出て問題となっている。
幸い近年人を襲った事例はほとんど無いようであるが、山奥の池にまで「危険、近づかないで下さい」という掲示を出さなければ責任が追求されかねない昨今の情勢である。ロマンティシズムに気を動かされることはあっても、オオカミ導入のリスクを取る行政体は無いであろう。
私も人間が絶滅したオオカミに代ってどんどん狩って食べると良いと思っている。ジビエなんて言葉が流行れば気持ち悪がりの人にも取っ付き易い。(ただしサルは私も気持ち悪い。)でもどうもそんなことではシカの増殖には追いつかないようだ。
シカの増加で山林が荒れに荒れていると言われていが、統計を追うと、シカの増加をニホンオオカミの絶滅やハンターの減少に起因するとするのは単純すぎるという論考を見つけた。揚妻直樹さんの「シカの異常増加を考える」である。
まず、北海道では19世紀末4年間で44万頭のシカが狩られたという。当時のシカの頭数の多さと狩猟による数のコントロールの困難を物語る。
この論文によると、明治中期まではシカの数はとても多かったようだ。それから減少期を経て1980年頃から増加に転じたそうだ。シカの爆発的増加はオオカミの絶滅後100年経過してからであるとか、ハンターの数とシカの増減の時期はずれているといった指摘がされている。
『駆除や個体数管理による農業被害対策では,「駆除すれば個体数が減る」ことと「個体数が減れば農業被害が減る」ことの二つが暗に仮定されている.これらの仮定が正しければ,野生動物を駆除すれば個体数が減り,それにつれて農業被害も軽減するはずだ.これは単純明快な三段論法なので広く受け入れられ,各地の農業被害対策に取り入れられてきた.しかし,全国各地で何十年にも渡りさまざまな動物を駆除してきたが,被害問題が解決に向かった地域はほとんどない.このことは,野生動物による農業被害は駆除圧をかけさえすれば減るという単純なものではないことを示している.』
一因は、駆除の圧力をかけても食物資源があればすぐ回復するからだ。
揚妻さんはまた
『一見,異常で不自然に見える生物の反応は,異常環境に適応するための正常で適応的な反応なのである.』
『シカ個体群動態の歴史を見れば,現状のシカ個体数が自然ではあり得ない異常レベルかどうかは断定できない.・・・シカがいないことで成立できた植生はむしろ不自然だったとも言える.』
として、安易に野生動物の異常を唱えることを戒めておられる。
でもシカによる食害が原因で植生が変わるだけでなく、山林表土の流出まで起こっているとしたら、何かはしなければならないだろう。でもまだ名案はないということだ。
だが、狩猟事故を除けば、捕って食うことはマイナスではないだろうし、町おこしの一助になるだろう。機会があれば、せっせと食べよう。
付言すると、私はしゃがんで虫を長時間観察し、あるいはアリをなぶり殺す友人と喧嘩をしたりする、言うところの動物好きである。でも、コンパニオン・アニマルを偏愛する愛護家ではありません。
(注1)そういえば竹筒にカーバイトを入れて水をしたたらせ爆発させる威し銃は最近見なくなった。
(注2)ホンシュウジカとエゾシカは亜種の違い、ニホンオオカミと大陸のハイイロオオカミも定説はないがそれに近い違いのようです。
(写真)2014年10月の奈良公園。樹の幹をよく見て下さい。金網はシカ対策のものでしょう。
昔ここに連れてきたハンガリア人数学者は、とても抽象的な数学をやっており、陶器を見る眼力も外人離れしていたが、雨に濡れた森の小道をゴム草履で歩く野蛮人であった。シカを見て言った They look very delicious. 日本人には言えません。彼のくれた貴腐ワイン「トカイ」の味は今も記憶に残っている。
近年、京都周辺から、イノシシ、サル、シカによる食害などの被害を頻繁に耳にする。谷間の村で通電した柵などでイノシシから田畑を防衛しているのは昔からの風景であった(注1)。圓通寺の墓地では供物の食品は必ず持ち帰らなければならない。修学院の関西セミナーハウスではサルが入らぬよう戸を締めることを注意される。上賀茂や比叡平の友人たちも庭や畑を荒らされている。
シカの場合は、天敵のニホンオオカミが絶滅したために増えたと言われている。だから外国からオオカミを導入して食物連鎖を復活させれば良いという案がある(注2)。荒唐無稽のようであるが、米国のイエローストーンや、ドイツのラウジッツなどで再導入されている。生態系を元に戻すという意味で評価は悪くない。
日本でも再導入の意見がある。特にネットでは盛んである。しかし最近フランスで自然復活したオオカミの群による羊の被害が多数出て問題となっている。
幸い近年人を襲った事例はほとんど無いようであるが、山奥の池にまで「危険、近づかないで下さい」という掲示を出さなければ責任が追求されかねない昨今の情勢である。ロマンティシズムに気を動かされることはあっても、オオカミ導入のリスクを取る行政体は無いであろう。
私も人間が絶滅したオオカミに代ってどんどん狩って食べると良いと思っている。ジビエなんて言葉が流行れば気持ち悪がりの人にも取っ付き易い。(ただしサルは私も気持ち悪い。)でもどうもそんなことではシカの増殖には追いつかないようだ。
シカの増加で山林が荒れに荒れていると言われていが、統計を追うと、シカの増加をニホンオオカミの絶滅やハンターの減少に起因するとするのは単純すぎるという論考を見つけた。揚妻直樹さんの「シカの異常増加を考える」である。
まず、北海道では19世紀末4年間で44万頭のシカが狩られたという。当時のシカの頭数の多さと狩猟による数のコントロールの困難を物語る。
この論文によると、明治中期まではシカの数はとても多かったようだ。それから減少期を経て1980年頃から増加に転じたそうだ。シカの爆発的増加はオオカミの絶滅後100年経過してからであるとか、ハンターの数とシカの増減の時期はずれているといった指摘がされている。
『駆除や個体数管理による農業被害対策では,「駆除すれば個体数が減る」ことと「個体数が減れば農業被害が減る」ことの二つが暗に仮定されている.これらの仮定が正しければ,野生動物を駆除すれば個体数が減り,それにつれて農業被害も軽減するはずだ.これは単純明快な三段論法なので広く受け入れられ,各地の農業被害対策に取り入れられてきた.しかし,全国各地で何十年にも渡りさまざまな動物を駆除してきたが,被害問題が解決に向かった地域はほとんどない.このことは,野生動物による農業被害は駆除圧をかけさえすれば減るという単純なものではないことを示している.』
一因は、駆除の圧力をかけても食物資源があればすぐ回復するからだ。
揚妻さんはまた
『一見,異常で不自然に見える生物の反応は,異常環境に適応するための正常で適応的な反応なのである.』
『シカ個体群動態の歴史を見れば,現状のシカ個体数が自然ではあり得ない異常レベルかどうかは断定できない.・・・シカがいないことで成立できた植生はむしろ不自然だったとも言える.』
として、安易に野生動物の異常を唱えることを戒めておられる。
でもシカによる食害が原因で植生が変わるだけでなく、山林表土の流出まで起こっているとしたら、何かはしなければならないだろう。でもまだ名案はないということだ。
だが、狩猟事故を除けば、捕って食うことはマイナスではないだろうし、町おこしの一助になるだろう。機会があれば、せっせと食べよう。
付言すると、私はしゃがんで虫を長時間観察し、あるいはアリをなぶり殺す友人と喧嘩をしたりする、言うところの動物好きである。でも、コンパニオン・アニマルを偏愛する愛護家ではありません。
(注1)そういえば竹筒にカーバイトを入れて水をしたたらせ爆発させる威し銃は最近見なくなった。
(注2)ホンシュウジカとエゾシカは亜種の違い、ニホンオオカミと大陸のハイイロオオカミも定説はないがそれに近い違いのようです。
(写真)2014年10月の奈良公園。樹の幹をよく見て下さい。金網はシカ対策のものでしょう。
昔ここに連れてきたハンガリア人数学者は、とても抽象的な数学をやっており、陶器を見る眼力も外人離れしていたが、雨に濡れた森の小道をゴム草履で歩く野蛮人であった。シカを見て言った They look very delicious. 日本人には言えません。彼のくれた貴腐ワイン「トカイ」の味は今も記憶に残っている。
房総は高い山はないけどやはり山地が多いのですね。獣の跳梁の理由は、杉の植林説、オオカミ絶滅説、過疎化説、ハンター減少説などあるようですね。
鹿は一度食べたけど普通の肉で、使いやすいという感じですね。安くて手に入ればどんどん食べると思います。一般の人も、羊より抵抗を覚えないのではないかな。僕は羊肉が特別好きですが。中国では亀、蛙、犬続けて食べました。
こちらも、猪、鹿、猿が増えてます。猪の肉は
一部で販売するようになりました。実際美味しいです。
鹿も脂肪が少ないから、現代人の食肉としてもっと
広めても良いのですが。ハンタ-達も鹿と猿は撃ちたく
ないらしい。知り合いのレストランで秘密裡に猿を
食べた、と言う噂は聞きますが。
「ジビエ料理」大都会の一部でリッチな趣味人たちが
食味してはいるらしい。香港じゃ犬も食べるし、中国は鰻より蛇だし・・・