土塊も襤褸も空へ昇り行く:北村虻曳

随想・定型短詩(短歌・俳句・川柳)・写真
2013/11/11開設

石を薙ぐ薔薇70句

2013-11-19 | 短詩
石を薙ぐ

ミジンコの臓腑の流れ春立ちぬ

π匹の蜥蜴歩いて酉となる

ひこばえにしがみついたる蝗霊

やわらかな牡蠣を噛み切るおそろしさ

牡蠣啜れば燃え落ちてゆくヴェスヴィオス

我が子なら咆哮返せミノトール

反芻や蒼空深く銀河棲む

伏す牛が眼を遣る森に神を見ず

星座から黒馬が抜けている

馬止まり一本の脚走り去る

   ★

バス停に気配殺して四季くぐる

反則だまっすぐ渡ってやってくる

また来たと次々飛び込む水の音

お預けに混迷深まるラーメン鉢

鰻泥獲物突き出す四方八方

ゴルゴンの髪が目覚めるわらわらと

疎まれて美しくなる白雪姫

いけず女の下着を抜ける星座かな

Dead Door 入りて羽音に包まれる

くたばった野菜畑に八雲たつ

   ★

褒められて深さのしれぬ雪を踏む

朝の海静かに湧きオムレツ不穏

山中にカラダ遺して淋しかり

滅びても脳裏を廻るミズスマシ

嬉しいかおまえも既に死んでいる

堅めたる拳の内より蟻零れ

頭頂にモンキースパナ踊らせて

カンダタが今日も糸を攀る部屋  (攀=よじ)

識閾の財布ゐざりてどぶに消ゆ

マスクしてみつめておりぬ浮き沈み

   ★

密談や桜は尾根に逃れけり

江戸の代を抜けて屋根に腰おろす

澄みゆけばタガメの縋る草の茎

泰山木鬼の背丈に花ひらく

電線を掻き分け掴む雪雷雲

神有月無蓋の貨車で来し神も

魂憑きて口かず尠き旅となる

たましひがふうわりこえる梁のうら

夢のなか探し残した針一本

一匹のオイルサーディン解脱する

   ★

空分けて黒雲下がり丘に触る

陽が昇る一木の影手繰りつつ

仏滅やラッキョウ一つ空を飛ぶ

空渡るオリオン星につかまって

霧はれて偏心顔貌顕れる

空奥の鰻の腹が裏返る  (空=うろ)

輪郭が電気となりし闇の犬

灯消え水母の返る検査棟

寝屋川の月を震わせワニ渡る

彼の川のハリガネムシに謎のこし

   ★

忘じたり雲霞の裾の六分儀

蜃気楼内より望む社稷かな

トンボきてへしと定まる石の上

枯山河あたま揺すればとよもすも

梅干しの破れてをりぬ美し国

崖づらの松の木どもの笑ふかな

白き天テグスを張って分銅吊す

巨椋池ささめききらめき月影領

蟻一匹 身を折る深手私有する

ヤジロベエ雲海の涯にゆれている

   ★

陽が昇る一木の影引き寄せつ

節を漏る光の棒は肩に折れ

薔薇をもて石を薙ぎたりしぶきして

さまざまの早さで沈む twin-tower

棒投げる首が咥える噛み砕く

特急のしりえに続く顔の渦

これにてと峠のところで岩に消え

虫あまた身にあそばせて桜朽つ

もうおしまい作って見せる煙の輪

外輪船茅花はいつも闌てをり  (闌=たけ)

(豈43,44,46,47,48号掲載より)

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