土塊も襤褸も空へ昇り行く:北村虻曳

随想・定型短詩(短歌・俳句・川柳)・写真
2013/11/11開設

イカルス (20句)

2014-01-07 | 短詩

イカルス

古池やわずか飛び込むニュートリノ

反返りシコリのまなぶ浮遊術

霧の域こぼれてナイフのえら呼吸

幾万のくわがた纏いて墜落す

蜘蛛の巣と唾で紡ぐ羽衣は      (唾=つばき)

吊り服のひとつひとつが身動がず   (身動=みじろ)

窓の下破片が一つ留まりぬ

おおとりの飛び立つ姿勢とびたたぬ

テレビ殿笑い転げる威嚇する

編隊の花虻居間のホログラム

テレビから出てきた祖父も綱渡り

ビル跡に洗いざらしの矢車草

席はずし夜の窓から崖を呼ぶ

長雨にうち捨ておけばけものなり

突っ伏した夜空の上は櫓がゆれる   (櫓=やぐら)

はしきやし人間自転車坂に消ゆ

ザンブリと白い飛沫が暗渠を進む

恐ろしい水が抜けたマンホール

廃坑の羊歯よ進化の先に待て

カルマンやあくびの脇に蚊が生まれ

                 (1991 「船団」第12号 一部改)


コメント (3)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 双尾の人魚のいわれ - Melusi... | トップ | 蝙蝠 I »
最新の画像もっと見る

3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
「廃坑の」の句に。 (寺岡良信)
2014-02-05 00:04:16
廃坑の羊歯よ進化の先に待て

浅薄なアフォリズムではない、この確かな手触りは何なのだろう。化石も含めて羊歯という植物の、気の遠くなるような繁殖力がリアリティーをもって語られ、その繁殖力こそが、文明の墓標となり得ることが、廃坑の岩盤から永遠の規則性をもって滴る水滴のイメージを伴って提示されているからではなかろうか。
人の命など、いかほどのものか。大病を患っている私には、この、粗野にして不逞とも言える開き直りが分かるような気がする。
返信する
Re: 「廃坑の」の句に。 ()
2014-02-06 12:22:35
あの句は、塞がれた坑道の生き物は大変だなあ。大抵のものは滅ぶだろうけど、まれに過酷な条件を切り抜けるやつもいるかもしれない。未来において、そんな子孫と出くわすかもしれん。こちらも子孫のかたちで、なんてことを妄想して作りました。これまた転生ですね。ついでながら、羊歯は子供の頃から私の好きな植物です。
返信する
Re: 「廃坑の」の句に。 ()
2017-09-07 23:14:26
寺岡さんは2015年6月27日に亡くなられた。このコメントはその1年とちょっと前ということになる。
http://blog.goo.ne.jp/abunobu/e/afe87aa7689728e2b79851122b217b92
葬儀のことを次のところに書いた。
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=520560374768006&set=a.173153779508669.1073741825.100004421440423&type=3
返信する

コメントを投稿