土塊も襤褸も空へ昇り行く:北村虻曳

随想・定型短詩(短歌・俳句・川柳)・写真
2013/11/11開設

蝙蝠 I

2014-01-13 | 随想

蝙蝠 I


 子供が「蝙蝠が出てきた」と言った。窓もドアも閉じられた密室である。エアコンから突如出現したという。行ってみるとたしかに部屋を飛び回っている。お引取りいただくために窓を開けた。蝙蝠はパニックを起こし出て行けない。やがて疲れて壁に停止した。垂直のビニルの壁紙の上にぶら下がっている。目には見えないわずかな凹凸に片足を引っかけているようだ。我々は電灯を消して引き下がり、しばらくして戻ると退場なさっていた。


 さて彼はどのように登場したのか。むろんエアコンのパイプの内部は通過できないだろう。家の外から見ると、室外機と結ぶパイプがひしゃげて、壁に開けた穴との間に隙ができていた。ここからパイプの外側伝いに室内機に侵入したのであろう。


 蝙蝠は家の壁などの隙間に巣をもつという。翼をたためば二十日鼠ほどの大きさだから可能であろう。その後年、同じ穴に雀が出入りすることを、隣人に注意された。注意すると壁の中で音がする。産出物が壁の中に溜まるのをおそれ、二階の窓から危険な角度で身をのりだしてパテで塞いだ。中に閉じ込められた子雀がいたかもしれないが、まあすまん。


 蝙蝠がエアコンから舞い出る光景、いささか寒い。しかし部屋に潜り出た彼自身の驚きも如何ばかりであったか。やけに暑いところと寒いところを通り、トンネルを抜けるとまぶしい光の国だったなんて。


 それにしても最近の住宅は隙間がない。小動物の住宅事情は逼迫しているであろう。一方、彼らが増えれば蚊が減ってありがたい。蚊食鳥と呼ばれているのです。温暖化で心配されるマラリアやデング熱をいくらか抑えてくれるだろう。吸血コウモリではないから狂犬病の心配もない。別棟で小さな巣箱でも作ってやればいいのだ、などと妄想は広がる。でも四季の温度など、お好みの条件が難しいだろう。いや、何よりも我々自身が本やガラクタの置き場に困っているのである。そんな場所はない。


                                        (2008 豈47号改)

補遺: 上で妄想と書いたが、巣箱は実際に作られているようだ。bat house などでgoogle 図像検索を行うとわんさと出てくる。

http://webecoist.momtastic.com/2010/06/08/housing-on-the-wing-10-bitingly-bizarre-bat-houses/

などは如何。「10軒のチョックラ・キモイ・コウモリ館」といったところか。日本語で図像を検索するには「箱」「小屋」「巣」「家」等、言葉はいろいろあります。しかし検索の結果を比べると、実作では日本は遅れているようです。でも日本にも実際に住まわせている人もいました。

http://heartland.geocities.jp/kaguyakoumori/A2_1.htm

 


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2 コメント

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Unknown (細見晴一)
2014-01-17 23:51:28
雀のことで隣人の方に注意された、というのはなんだかわからないですけど。神経質な方なのでしょうか。そうだとすれば大変ですね。

うちは妻が神経質なので、近所が困ってますけど。(笑)
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ご一読ありがとう ()
2014-01-18 00:23:16
あ、これ私の説明不足です。お隣さんは私の家のことを心配してくれただけです。マタギの練習もやった人だから肝の座った人です。もっともイモムシは苦手だそうですが。
神経質といえば私の家族の方です。Bat house の図像を見て、意外に手軽そうなのでを作ろうかと思って、ちょっと打診してみると、我が奥方は全然ダメです。推測するにご子息の方はもっと気持ち悪がるでしょう。皆さん、小鳥だといいのでしょうが。コウモリは小さい時から憧れの的なのですが。
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