土塊も襤褸も空へ昇り行く:北村虻曳

随想・定型短詩(短歌・俳句・川柳)・写真
2013/11/11開設

野ばら散る

2015-06-28 | 随想
<詩人の逝去>

近年友人の詩人を続けて喪った。いずれも因縁浅からぬ人たちである。主として自分との関係で述べることをお許し頂きたい。

まず何よりも、本日2015年6月26日に詩人の寺岡良信さんが亡くなられた。一昨日に家族で面会に行ったところである。彼はとても元気があり、自分で歩き、心は落ち着いていたようである。「身辺をすべて整理でき、病院の『緩和ケアセンター』という素晴らしいところを得て、自分も模範生として過ごしている」と語ってくれた。

彼は俳句にも詳しく、「北の句会」に投句し、元気なときは出席もしていた。詩人、大橋愛由等氏の経営する神戸のスペイン料理店「カルメン」によく姿をあらわし、そこを根城とする詩誌「めらんじゅ」の編集長を続けていた。彼の詩は、とても美しくしかもペシミスティックであった。言葉は端正で、自ら反時代的であると称していた。実際そういう点で彼を凌ぐ詩を見たことがない。
出版した詩集は『ヴォカリーズ』、『焚刑』、『凱歌』、『龜裂』(いずれもまろうど社)の4冊である。彼の詩の一端は、「北の句会」への最後の投句である次の句からうかがうこともできるであろう。
   波が来て人魚の檻をあらふ夏   寺岡良信
   石棺のミイラの吐息野ばら散る  寺岡良信

このように紹介すると、高踏派の選民意識のある人と思われるかもしれないが、事実はまったく逆であった。一昨日、彼の述べたところでは、父親は沖仲仕を仕事とし、家には喧嘩もいとわないあらくれの人々が出入りしていたという。自分も喧嘩早いと言って笑った。彼は神戸で育ち、詩は、海や港、船のイメージに満ちている。彼自身は高校の教師をしていたが、筋金入りの民主主義者であったと言えばよいだろう。

彼は一昨日、「むかし、北村さんが『寺岡さんはイデオロギーは異なるが、思想は同じだね』と言った」と述べた。たしかにペシミストという点で似ていると思う。そして、「いま、『水際の焚火操る偽空也(虻曳)』が好きだ」と述べてくれた。私の定型短詩集『模型の雲』(冨岡書房)を家の枕辺に置いていたそうである。

私の詩集を気に入ってくれる人は少ないが、もう一人は新しい詩的な川柳の流れを興した石部明さんである。流れを起こす大胆さを持ちながらながら、とても豊かな否定性、死のイメージを展開していた。そうしたところで、私とお互いに共鳴できたのだと思う。俳句作り始めのころ、「北の句会」でいろいろご教示いただいた。しかし、癌で危なくなった私を追い抜いて、2012年に亡くなられた。私はネットに短文に私から見た石部像を書いている。ちょうど書き上げた頃に亡くなられた。
   月光を浴びる荒野のめし茶碗   石部 明

そしてもう一人が若い時からの友人、社会学者村上直之さんである。彼は高校の頃から詩集を出す多才な人で、私の上述の詩集の「跋」を書いていただいた。八面六臂、とても元気であったが、1年前に急逝した。死の病が発覚した頃、急に「あなたの詩集の兄弟編のようなものを作り、書棚に並べたい」と言って、やはり定型短詩集とする『ゆきくれて』(冨岡書房)を苦痛を押してベッドでiPadを用いて書き上げた。同時に社会学のラベリング理論の定番であるカイ・T.エリクソン著『あぶれピューリタン逸脱の社会学』(現代人文社)岩田強氏との共訳で増補を行っている。これらの完成はわずかに存命中に間に合わなかったが。このブログの短文参照。
   浅き夜の夢の余白の花むくげ   村上直之

どの方も独自の流儀で生きる腹のすわった詩人であり、とても素晴らしい仕事を成し遂げた人たちである。でも幾分かは、同じ空気を吸うことのあった同志と感じるだけに、寂しい。今年亡くなられた俳人・化学者の和田悟朗先生を加えると、私の詩集に好意を持っていただいた数少ない4人が、この3年間で鬼籍に入られた。妙な因果を感じる。

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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
誠に残念です (有時秀記)
2015-06-28 17:20:54
寺岡良信さんの逝去は誠に残念です。その詩風の底には日本語で美しい詩を書くという強固な美意識があったと思います。
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誠に残念です (有時秀記)
2015-06-28 17:20:56
寺岡良信さんの逝去は誠に残念です。その詩風の底には日本語で美しい詩を書くという強固な美意識があったと思います。
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有時さんへ ()
2015-06-29 00:57:14
誰か読んでくれるかなと思っているので、コメントは嬉しいです。
友人に話すことには、それぞれ「この人でないと」というところがあります。それがだんだん欠けてゆくのはさびしいことです。
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まだ体から力が湧き出ません (キム・リバク(金里博))
2015-07-06 08:42:00
鋭く温かい「弔辞」に感激しています。寺岡君と僕は「詩想」こそ違えていましたがイデオロギーも思想も同じでした。僕は日本語が不調法で彼の詩を簡単には解読出来ませんが彼の詩は今も好きです。寂しくなりました。
まだ梅雨が続いています。くれぐれもお体を愛おしまれお元気でお過ごし下さい。
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