<曾根毅句集『花修』寸感> 写真は大阪千本松渡し近辺
曾根氏は「北の句会」で一緒であったこともある旧知の仲である。このたび句集『花修』をいただいた。若くして落ち着き覚めた句風である。断じて花鳥諷詠では済まさない。しかしものごとを詠嘆の一歩手前で抑えている。これが短い俳句の常法であり、盛り上げる短歌との違いであろう。特に印象に残った作に関して寸感を述べておこう。
◎ 暴力の直後の柿を喰いけり
この取り合わせ、暴力にとっても柿にとっても意想外だろうがよく合っている。硬い柿でなければならぬ。
心を鎮めるために齧るのだろうか。思い出すのは、大島渚『青春残酷物語』の硬いリンゴである。この場合は「鎮める」というよりも、「無意味なものに楯突く無意味なあがき」(川村清人氏)の恐ろしさを感じさせる。阿部嘉昭氏のサイト参照:
http://abecasio.s23.xrea.com/report/archive/r_repo_03/7.html
◎ 影と烏一つになりて遊びおり
ときどき濃と淡の黒が重なる。こういうときの烏はあどけない。見るものの心も。
◎ 銅像の影より長く石の段
ギザギザの輪郭を持った銅像の影が、石段の中途まで伸びているのを見下ろしている。その石段と影は何かの関係を表象しているかに思えるが、それを見つけ出しても無益である。そのままで何も起こらない。そんなことが句になる。
◎ 秋深し納まる墓を異にして
旧作を思い出した:ビーカーに二つのたましひ分かち置く(ロミオとジュリエット、虻曳)
◎ 山鳩として濡れている放射能
実体化すれば見えるようになる。コロンブスの卵だ。だが竦んだ鳩を選ぶのが技である。
◎ 中空を真闇と思う立葵
中空は「なかぞら」であろう。空は太陽光に満ちすぎてかえって黒く感じられる。その虚空に向かって立葵は思う存分伸びる。
◎ 獅子舞の口より見ゆる砂丘かな
極端な光と影、自由と拘束の対照。そして視線は拘束されている側から放たれる。そこは居心地がいいのか、脱出したいのか、俳句は答えない。
◎ 萍や死者の耳から遠ざかり
「萍や」は、俳句人のように意味を切り離して読むと上品になるが、「遠ざかる」の主語と見たほうがヴィジュアルに美しい。
◎ 威し銃なりし煙を吐き尽くし
爆音とともに吹き出した煙。風に拭われて綺麗に消え、静寂が戻る。そしてまた次の爆発に向けて、次第に緊張が高まってゆく。
◎ 夏の蝶沈む力を残したる
水に落ちた蝶が仰向けで、一、二度羽撃くと少し水面下に沈んだ、という景であろう。実景としてそんなことがありうるのかどうかは知らぬ。しかし詠まれているのは、水を離れようとしたことではない、沈んだのだ。それが蝶の意図するところであったか、逆であったか、あるいは何も意図しなかったか。詩としては、結果がネガティブだから励ましになる。
◎ 風もまた門より出でし釣忍
しっかりした構図で、緑の環境に涼風がたつ。
◎ 朝から見る溶接の火と轡虫
朝から見る溶接とは、らしくもない。「俳句的」連関を外す発見がとても良い。しかし轡虫はそのたてる音がメカニックで熱く、少し溶接に近すぎないか。溶接も轡虫もそれ一つだけで朝に対峙できる。
◎ 祈りとは折れるに任せたる葦か
祈と折、字の類似は折れた葦の形に及ぶ。折れたがゆえに祈るのである。無常に祈りがあるのであろう。
◎ 我と鉄反れる角度を異にして
やすやすと曲げられはせぬ、自負と敬意。
他に気に残る句:
◎ 滝落ちてこの世のものとなりにけり
◎ さくら狩り口の中まで暗くなり
◎ 爆心地アイスクリーム点点と
◎ 少しずつ水に逆らい寒の鯉
◎ 木守柿不法投棄に取り巻かれ
◎ 永き日や獣の鬱を持ち帰り
曾根氏は「北の句会」で一緒であったこともある旧知の仲である。このたび句集『花修』をいただいた。若くして落ち着き覚めた句風である。断じて花鳥諷詠では済まさない。しかしものごとを詠嘆の一歩手前で抑えている。これが短い俳句の常法であり、盛り上げる短歌との違いであろう。特に印象に残った作に関して寸感を述べておこう。
◎ 暴力の直後の柿を喰いけり
この取り合わせ、暴力にとっても柿にとっても意想外だろうがよく合っている。硬い柿でなければならぬ。
心を鎮めるために齧るのだろうか。思い出すのは、大島渚『青春残酷物語』の硬いリンゴである。この場合は「鎮める」というよりも、「無意味なものに楯突く無意味なあがき」(川村清人氏)の恐ろしさを感じさせる。阿部嘉昭氏のサイト参照:
http://abecasio.s23.xrea.com/report/archive/r_repo_03/7.html
◎ 影と烏一つになりて遊びおり
ときどき濃と淡の黒が重なる。こういうときの烏はあどけない。見るものの心も。
◎ 銅像の影より長く石の段
ギザギザの輪郭を持った銅像の影が、石段の中途まで伸びているのを見下ろしている。その石段と影は何かの関係を表象しているかに思えるが、それを見つけ出しても無益である。そのままで何も起こらない。そんなことが句になる。
◎ 秋深し納まる墓を異にして
旧作を思い出した:ビーカーに二つのたましひ分かち置く(ロミオとジュリエット、虻曳)
◎ 山鳩として濡れている放射能
実体化すれば見えるようになる。コロンブスの卵だ。だが竦んだ鳩を選ぶのが技である。
◎ 中空を真闇と思う立葵
中空は「なかぞら」であろう。空は太陽光に満ちすぎてかえって黒く感じられる。その虚空に向かって立葵は思う存分伸びる。
◎ 獅子舞の口より見ゆる砂丘かな
極端な光と影、自由と拘束の対照。そして視線は拘束されている側から放たれる。そこは居心地がいいのか、脱出したいのか、俳句は答えない。
◎ 萍や死者の耳から遠ざかり
「萍や」は、俳句人のように意味を切り離して読むと上品になるが、「遠ざかる」の主語と見たほうがヴィジュアルに美しい。
◎ 威し銃なりし煙を吐き尽くし
爆音とともに吹き出した煙。風に拭われて綺麗に消え、静寂が戻る。そしてまた次の爆発に向けて、次第に緊張が高まってゆく。
◎ 夏の蝶沈む力を残したる
水に落ちた蝶が仰向けで、一、二度羽撃くと少し水面下に沈んだ、という景であろう。実景としてそんなことがありうるのかどうかは知らぬ。しかし詠まれているのは、水を離れようとしたことではない、沈んだのだ。それが蝶の意図するところであったか、逆であったか、あるいは何も意図しなかったか。詩としては、結果がネガティブだから励ましになる。
◎ 風もまた門より出でし釣忍
しっかりした構図で、緑の環境に涼風がたつ。
◎ 朝から見る溶接の火と轡虫
朝から見る溶接とは、らしくもない。「俳句的」連関を外す発見がとても良い。しかし轡虫はそのたてる音がメカニックで熱く、少し溶接に近すぎないか。溶接も轡虫もそれ一つだけで朝に対峙できる。
◎ 祈りとは折れるに任せたる葦か
祈と折、字の類似は折れた葦の形に及ぶ。折れたがゆえに祈るのである。無常に祈りがあるのであろう。
◎ 我と鉄反れる角度を異にして
やすやすと曲げられはせぬ、自負と敬意。
他に気に残る句:
◎ 滝落ちてこの世のものとなりにけり
◎ さくら狩り口の中まで暗くなり
◎ 爆心地アイスクリーム点点と
◎ 少しずつ水に逆らい寒の鯉
◎ 木守柿不法投棄に取り巻かれ
◎ 永き日や獣の鬱を持ち帰り
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