土塊も襤褸も空へ昇り行く:北村虻曳

随想・定型短詩(短歌・俳句・川柳)・写真
2013/11/11開設

句集「光速樹」(打田峨者ん著)寸感

2014-06-06 | 随想


力の季節、外向し、悪気(わるげ)である。尋常では済ますまいという意志を持って、事象を神話化している。
☆ 夏座敷 有翼蛇身を羽交い絞め
風通しの良い和室でそんなものをイジメてはならない。罰が当たりますよ。
☆ 牛糞に虹色の蝿 地平線
金蠅、銀蝿、どこともしれぬ遠景よりやって来て、馳走に酔う、もう遠景などはどうでもよろしい。
☆ 皺だみしペソ我を過ぎ汗の塩
ペソといえば、ブニュエルのスペインの極寒村の”ドキュメント”と称する「糧なき土地」を思うが、スペインのペソは1868年までだそうで無理。するとペキンパのメキシコを舞台とする「ガルシアの首」か。執拗に蝿が集まる麻袋を人が奪い合う話だ。中には大きな懸賞金がかかった腐った首が入っている。まあこれは私の勝手な連想。
とにあれ、汚いは綺麗、札片にまつわる苦労と汚さは結晶せねばならぬ。


さすがに風も立つ。
☆ 繕われ有刺線(バラセン)花野の風分つ
夏に切れて垂れ下がったり、くるくる巻いたりしていた有刺鉄線も繕われた。北からやって来た風は美しく層状に切り分けられる。
☆ 月に干す日の丸ピロリと風を誘(ヨ)び
そもそも国旗なんぞ日中にこれみよがしに掲げるものではない。月にひっそりと干すものだ。すると風が見つけてやってくる。垂下がっていた旗のひだがわずかに動く。それにしてもずいぶん重みのある生地だなあ。
☆ 銀河光昏(クラ)し葉うらに蟻の道
銀河の希薄な光の下、木の葉をよく見ると大群で進む蟻の列がある。大群がかすかな音を立てて働き続ける。地中と夜空を結ぶ尊厳に手を触れることも出来ず、ただ鳥肌を立てるのみ。


☆ 暮雪かな双乳(モロチ)いとしき非対
「いとしき非対称」こそ織部のような茶人が価値を見出した歪みであり「へうげ」であろう。「豊かな」という語に形容されるものとは異なる美意識である。季語「暮雪」によって、乳房に寒さと暖かさがせめぎあう。
☆ ふところを出で彷徨(サマヨ)へる右手かな
彷徨へるとは、行き先が何かわからないで出歩くのである。温かいところを離脱して。そういうことは・・・むろんよくある。
☆ みちのくや三遊間に鎌イタチ


☆ 佐保姫来(ク) 二月の沼を掻きまぜに
なんとも無邪気な姫である。やって来てほしい。
☆ 烏賊洗う男まぼろし春の暮
佐藤春夫「秋刀魚の歌」を思うね。でも生臭さと非実在の同居は情緒で収まらない。
☆ 春燈下 フォトジェニックな陰毛(ヘア)・亡骸(カバネ)
津波の惨害を悼んだ句と見る。centerhold of HEISEI との詞書がある。centerfold だと折込写真でわかりやすいのだが。

絵巻川
☆ 蛍道 未来圏より一旅団--------。」
蛍道は蛍取りに歩く道だから、細くて暗くて舗装はされていない。暗い道を足音だけを立てて無言の大軍がやってくる。良かろうが悪かろうが、未来からやってくる我々に対しては、なすすべがない。最後の横線はいいとして、」は何なのだろう。でもわからない間は気にすべきことではない。

作者は東京生まれであるが、幼少期に過ごしたという北海道、岩手が広い視界を与えている。幼い時に浸り、のちに離れた風土は、住み着いている人とはまた異なる強さを持って身に甦るのであろう。
夏に始まり夏で終わる「四季」と、核の冬、絵巻川を併せた「連作」からなる。
四季は同ページ数で割り振っている。力が入るから夏だけは繰り返される、むべなるかな。
全般に逆接のような順接を好む、モダンである。
さらに絵、楽を能くするという、いやアラマホシキことなり。
大変楽しく読ましていただいた句集であった。


                     句集「光速樹」打田峨者ん著(2014.2 書肆山田) 2014.6.6

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1 コメント

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2014-06-06 09:58:53
大井恒行さんも書いておられる。
http://ooikomon.blogspot.jp/2014/04/blog-post_10.html
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