1976年製ローズスーツケース。鍵盤特有のヌメッとした感触が大きくなって、左右のぐら付きが出てきたのでついにメンテナンス。ローズピアノは2000年に他界した故ハロルド・ローズ氏曰く「ドライバー1本でメンテが出来る」ということなので早速トライしてみた。ローズのメンテと聞いただけで拒否する楽器店がほとんどの昨今、30年前の歓楽街全盛時大活躍したローズを直しまくっていたS氏に電話して極意を伝授していただいた。
アンプ部とPUは別として基本はアコースティックピアノに近い構造。鍵盤のアクション不良の90%はフエルトの劣化。パーツの破損が無い限りフエルト張替えでことが済む。しかし、鍵盤1本に対して2ヵ所、合計4個の張替えが必要なので合計292回作業が必要でテクニックより根気が勝負。これが完了するまで丸2日かかってしまった。パーツ代は裏にシールがある赤いフエルト250円。鍵盤を撤去すると30年前のホコリがタップリ。ビンテージ楽器のメンテとはクリーニングが大半なのである。フエルト交換後、タイトになった鍵盤だがかなり重く戻りも悪い。弾いていれば直るという次元でもない。急にテンションが下がって何気なく「You Tube」のローズピアノメンテを見ていたら鍵盤を支える金属棒に何か塗っている。シリコングリースだ。手持ちがあったので綿棒につけて塗ってみると素晴らしい!しっかり重さもあるが戻りは早い。ローズ特有の感触は残しつつスピード感が増した。さすがレストア大国アメリカだ。日本は専門店が数社しかないが米国は専門店、サイトのコアなこと。考えてみるとハモンドやローズを駆逐してきたのが日本のデジタルメーカーだがらしょうが無い。だが国内の情報が無さ過ぎには驚く。
大変だったがフエルト交換とグリスアップで鍵盤が別物になる。ローズにいい印象が無い人はそこが問題だったのだろう。本体持込でも業者にだしたら軽く5万円は請求される。だから劣化した鍵盤でがんばるしかなかったが80年代後半にはDX-7の登場により部室のテーブル化して物置に捨てられていた。
アンプ部以外はエレクトリックギターと同じ完全パッシブ。だからハンマーチップの設定や材質でトーンのタッチが変わるのである。年式によってはハンマーが木材だったり半分プラスチックだったりしてそこに違いを見出すマニアも多い。ピアノでいう弦の部分に当たるのがトーンジェネレーターといわれる鉄の棒。そこのコンディションでもかなりのトーンの違いがあるが今回わかったのがそのトーンジェネレーターの先とピックアップの距離と角度で大幅にトーンが変化するのである。ギターのPUと弦の距離の20倍以上の違いだ。当時の取扱説明書にもしっかり書かれているから正規なセッティングだろう。トーンジェネレーターの先をPUの中心に近づけるとコンプレッションが上がりアタッキーなオーバードライブしてくる。中心より左右や離すと音量とEQ調整になるのである。これでエフェクターを使わなくてもメローからファンキーまでカバーできるので年代によるオカルト的考察はローズにはマッチしないことが判明した。
ローズの年代判別は様々だ。いたるところにシリアルナンバーが打っているし、スペック情報も色々。60年代から75年までフェンダー社からリリースされていたのでフェンダーローズというネーミングが一般的だが、このローズはフェンダーネームが取れた初年度バージョン。スピーカーネットが銀色だったりスピーカーユニットがフェンダー、コントロールパネルもフェンダーのマークⅠを流用している過渡期のモノ。しかし、電源SW横に無理に張った「山野楽器」のプレートで電圧表示は117V 。これなら並行輸入と同じただ貼っただけだ。それならとステップアップトランスをかませるとアタックが強くなりローエンドがふくよかになり楽しみ倍増。
現在、ニューローズとしてローズマーク7という機構はビンテージと同じだが外観のデザインの新しいタイプがリリースされた。ステージピアノタイプで重さ39kgと重量級。この時代に需要があるのかどうか微妙だがスタイルはかなりカッコいい。しかし、日本の輸入代理店は無さそうだ。