80年代中盤からのブルースブームの再燃から当時、巨匠たちが使用していたチューブアンプにも再注目されたのが80年代も終わる頃、小さな工房からや大手メーカーがこぞってチューブアンプのリイッシュに着手した同時期にオリジナルのケンタウルスは開発されました。当時、歪系ペダルは大手メーカーなどのハイゲインペダルが主流で今でこそ一つのジャンルになったブースター的ローゲインペダルは少数しか存在しません。また、チューブアンプ自体も大型化しプリがチューブ、パワーはトランジスタというハイブリット型が主流になっておりそのどことなく冷たい割れるようなクランチに満足しないギタリストは多かった状況です。開発者のビル・フェネガンも手持ちのフェンダーアンプをホットにするためにケンタウルスを作ったらしく当時の機材環境の影響が大いに関与していたようです。90年前後の大手メーカーからのビンテージリイッシュアンプも50~60年代当時のモノとはかけ離れたソリッドステートの歪でしたのでツイードやブラックフェイスフェンダーのシンプルなチューブディストーションを手軽に再現できるペダルを求める声は確実にありました。
さて、伝説的になってしまったケンタウルスですが万能な歪ではなく実際は意外と難しいオーバードライブ。キレイな倍音は少なく一台で完結できるペダルではありません。チューブアンプの飽和状態はキャビネットやスピーカーユニットやパーツのコンディション等で様々なので実は雑味や奇数倍音が豊富なのです。故に太くドライブしてくるのです。そのあたりもケンタウルスはアンプ的な肌触りを感じることが出来ます。
ケンタウルスはアンプの前段に配置しコンプレッションを適度に加えトーンを滑らかに修正するのに最適。しかし、あくまでもブースターではないミッドレンジにボリュームを持たせたオーバードライブです。最近のハイエンドローゲインペダルやブースターのみずみずしいコード感は素晴らしいのですがシングルノートは平たんになってしまう傾向にありますがケンタウルスの力強いミッドレンジのシングルノートはギタリストを虜にしてしまう魔法があります。しかし、ミッドブーストの歪を目的とした当時のオーバードライブとは明らかに別物でそのシングルノートはディストーションだけでなくクリーンを太く肉付けするところはケンタウルスしかありません。クリーンブーストといっても音量だけを上げるのではなくピッキングのアタックにまとわりつく小型チューブアンプの飽和寸前の太い倍音が完全にオリジナルなのです。チューブアンプのみならずJC等のスリッドステートアンプもチューブライクな質感に変えてしまう技も持ち合わせています。それは特殊なバッファーや内部で18Vに昇圧しているなどマニアックな仕様がそのトーンに関与しているのかは専門家にお任せしましょう。
オリジナルケンタウルスの実際の製造は1994年から2009年で終了し後継機種のKTRに移行しましたが現在もオリジナルケースで開発者が生産しているようです。価格は現在の中古相場と同額。それによってケンタウルスクローンなるもう一つのジャンルが登場し大手から個人製作家まで多様なモデルが存在するようになりましたがどれもオリジナルよりモダンで高品質、実用的で使いやすくわざわざ高額になったオリジナルケンタウルスを入手する必要ない程。
既にここまでくるとビンテージギター並な価格帯になった本家本元に拘るのがその外見だけになったような気がしますがそんな矢先に同じルックスの新商品がリリースされていました。マレーシアのクローンアンプ製造に特化したセリアトーンというメーカーからでた「センチュラ」。どうせクローンをつくるなら外見から手を付けないとと聞こえてきそうなルックス。このためにつくられたアルミダイキャストケースはかなり本物に迫っています。こだわりは裏蓋シールデザインや取説など細部にわたって作られています。表面塗装の質感は違いますがギターを持ってしまったイラストやネーミングロゴに笑いがこぼれます。基板も忠実に再現されていてパーツ違いがあっても線材の色まで同じ、違いは樹脂で基板をマスクしていないくらいです。このふざけた感が今までのクローンモデルには無かったわけでシャレで購入してみようとするオジサンも多いでしょう。サウンドはシャレではなくオリジナルとほとんど同じというのがこれまた驚き。なんのヒネリも加えないそのまんまのクローン。ケンタウルスと比べると重箱の隅的な違いでオリジナルのほうが若干ザラつきと高い周波数のトレブルが混ざりローゲインでもザックリ感を感じますがアンプや別のペダルが混入すると判別不能なレベル。ノブの位置とエフェクトのかかるポイントまで同じようになっています。定番のクリーンブーストは滑らかで健在です。
同じモデルの自作バージョンもあるのでケースはケンタウルスで中身はファズフェイスなんていう冒険もできますね。