ビンテージモーリスの第2弾、W-80に続き中級機種の代表格グレードW-60の登場です。前にも書きましたが当時の国産メーカーはシリアルナンバー管理などする気もなかったらしくこの個体のW-60はナンバーらしき識別可能なものはものはW-60とサインが書かれているシールのみ。製造年は当時のカタログ情報やパーツ等で探っていくしかありません。当時の中上級機種のほとんどが60年代からのマーチンD35スタイルの3ピースバックを継承しています。75年からの縦ロゴ「TF Morris」、78年のカタログからは指板インレイが6角メキシコ貝なることから76年のカタログにあるスノーフレークインレイと同じです。それらから76年から77年まで製造と予想されます。何故か当時のW-60あたりの一部のモデルにだけバックとサイドにハカランダ合板を使用していた形跡があり、バックは中心にフレイム入りのチェスナット(栗の木)が使われ、サイドは裏表の木目があっているソリッドハカランダのような感じもします。ネックはW-80よりファットなネックでダイヤモンドカットのボリュートがマーチンの忠実なコピーを再現していました。ゴトー製モーリスオリジナルペグの精度も素晴らしく国産パーツメーカーの成熟期に入ったのがこの時期だと確認できます。
今回はネックのリフレットとナット、ブリッジのチューンナップを「RUNT GUITARS」http://runtguitars.com/にお願いして細かな弦高調整までやっていただきました。フレットはミディアムハイ、ナットとブリッジは最近お気に入りのタスクでお願いをし新品の指板に生まれ変わりました。ローコードワークのトーンに重点を置いたトラッドなアコースティック設定ではなくハイポジションのシングルノートもサスティーンとトレブルをキープするにはかなりのローアクションで攻めないとなりません。しかもトラッドなトーンも実現するようにとわがままな注文です。1、2弦を1.7mmそれ以外を同じ1.5mmというのも美しくクリアしています。低い弦高にかかわらずテンションが思った以上にあったのでブリッジプレートの底面を少し摩って1.2~1.4mm設定してもおかしいポジションがどこにもないというのが恐ろしい。ピッキングのタッチでどうにでもトーンが変えられるゴキゲンなギターに仕上がりました。
グレードがワンランク違いのW-80とは同じブランドでも違うギターなのに気づきます。このW-60はOEM製造ではなくモーリス自社工場製のようで余計な倍音を出さないようなガッチリとしたつくりです。この42年以上の経年変化でいい具合に乾き、音量がかなり増しているのが分かります。これだけ弦高を低くすると1、2弦のハイフレットの鳴りは細くおとなしくなるのですが一番派手に鳴ってくれるリードギター向きなアコースティックに。W-80はトラッドで繊細なトーンがあるので使い分けするには塩梅がいいようです。
アコースティックギターは弦によっても弾き心地以上に響きが変化します。細いゲージにすると逆に音が太くなる場合もあるので一概には言い切れないところが奥深い部分です。これは弦高を下げてテンションを緩くして弦の振幅を上げるということです。アコースティックギターはこの力加減がトーンに与える影響が激しい分難しくなるのです。しかし、最近の音量重視にありがちなミッドレンジをブーストしたような鳴りとは違うアコギ独特なドレッドノートのドンシャリトーンが安心感を与えるのはマーチンを追い続けた70年代国産アコースティックギターの王道なんでしょうね。
しかし、生音にこだわってもピックアップ経由だとどれも同じ音になってしまいます。近年はマイクやプリアンプも高性能化した分みんな同じ音になってしまうのが悲しい事実。オベーション等のようにPUから再生するのを前提に開発されたものはライブやバンドアンサンブルでは強力な個性と存在感を放っていました。それもいいのですが生のアコースティック感を出すにはコンデンサーマイクが今のところ最高です。ギター本体に加工が無く、アコースティック楽器編成のバンドでマイキングと同じ質感のピックアップを研究しなくてはなりませんね。
大変助かります。
TF-801について、情報がなかなか少ないですが、TF-801の年式をご教授頂ければ大変助かります。W-80とW-60は縦ロゴにもTFがついているので、TF-801とどう違いますでしょうか、そしてどちらが上位でしょうか。
よろしくお願いします。
ありがとうございます。70年代後半の国産
アコースティックギターのスペック表示は製造工場によってシリアルナンバーが違ったりと確かな情報はオカルト化しているのも現実です。さて、TF-801ですが1980年まではTFモーリスシリーズの中でW+数字でランク付けされているように見えます。
TF-801が初めて登場するのが1981年のカタログからで定価50,000円と書かれています。このあたりから数字と定価表示が一致しない時代に入っているようです。当時の最高ランクはTF-850 定価300,000となっています。しかし、この頃の国産アコースティックギターの値付けも怪しいですね。
これだけの種類に合わせた材料を仕入れていたかは疑問ですね。
製造から既に40年以上経過していますし、それでいい音が出ていれば材料の経年変化とバランスがバッチリと合っているということだと思います。モーリスいいですよね。
ありがとうございます。
ご丁寧にご説明ありがとうございました。