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読書の森

小林信彦『笑いごとじゃない』

小林信彦さんは、1932年生まれ、『ヒチコックマガジン』編集長を経て作家になり、芥川賞候補になった実力者です。
今では数少ない戦中派の作家です。なんとおん年88歳、長い長い現役生活を続けた方です。


週刊文春に1998年より掲載されていた名物コラムが今年7月8日を持って惜しまれながら閉じました。
「数少ない読者へ」と最終号のタイトルにありましたが、「ご冗談を」という感じで愛読者の数は多かったようです。

生きた戦中戦後史の語り部だった方で、かっての文壇や芸能界に詳しくて、興味深い記事が満載でした。

あの江戸川乱歩と交流があったそうですよ。
乱歩は180センチ近い大男で(当時としては図抜けてたんですね。意外だと同時に、ああそれで目立つので人目を避けたのかとも思いました)顔面神経痛の気があったそうです。又とても細やかな気配りをする人だったそうです。
小林さんは、「お宝」のような体験をいっぱいされた方なのです。

さて、そこで購入した文庫本、中で一番古き昭和時代を感じた作品を紹介します。

『降りられんと急行の殺人』は昭和51年(1976年)6月雑誌『太陽』に掲載されたものです。
あきらかにアガサクリスティ-の「オリエント急行の殺人』をもじってます。

ぐっとローカルに、新宿発千葉の銚子行き急行グリーン車。
その車輌の乗客は探偵や警部を含む十三人のみ。

列車が錦糸町を過ぎた頃、案の定殺人事件が起こりました。被害者は柄の悪い網元の波野六兵衛(浪六)というおじさん。
トイレで首を絞められて死んでた。

そこでメイ探偵の推理が始まり、抱腹絶倒の面白いやりとりが展開するのです。

さて真犯人は誰なのでしょうか?



ここからバラすべきではない真相をお話致します。傑作の中の一編ですので、後の作品を読む気になっていただきたくて。
(^ω^)
実は犯人は誰もいませんでした。
自殺でもありません。

鬼熊は運行してる車中トイレに入ったのであります。

今と違い、車中トイレは非常にお粗末でした。垂れ流し式で下は地面です。そしてこの場合、便器が壊れてた。
しかも鬼熊さん、長い六尺ふんどしをはいてた、用を終え、ふんどしを締め直した時列車の揺れでそのまま倒れてしまった。
そこで、肩からふんどしが滑って首に巻きつき、その端が便器に吸い込まれる。
下は地面ですから、長いので車輪に絡まってぐいぐい首を絞められあえない最期を遂げたそうです。ふんどしはそこで千切れた。

鬼熊はトイレの鍵を掛けずに入ったので、心配になって駆けつけ、発見した子分は、こんな死に方をした事が世間に知られるより、謎の絞殺死体として発見される方がましと、凶器(?)のふんどしを捨てたのです。

「汚〜い、不潔、冗談にならない」とお叱りの声をいただくの覚悟のネタバレです。

でも、昭和51年のローカル急行ってこんな話が生まれる程、オンボロだったみたいですよ。

私自身の経験を申しますと、昭和20年代昔昔のSL(現役)はドアは手動で(だから車内でゆうに別れを惜しむ事ができた)、しかも石炭が燃料なので景色を見ようと窓(自由に開閉出来る)から外を眺めると煤で顔が真っ黒になっちゃうのです。
これは岐阜県大垣市、大垣駅より東京行き準急列車での体験です。

1世紀も経ってないのに、はるか昔の話みたいでしょ。


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