読書の森

薫の危機 その4



「薫に頼まれてた届け物をしに来た」と予め用意した嘘を伝えると、門は開いた。
ここでヨシミは門の陰にいた。
何せ機密情報のスパイと話をするのだ。
和也が戻らなければ、予め連絡しておいた和也の叔父に電話する。
叔父は警視庁に勤めていた。


ダークブラウンで統一された玄関には、ゆったりと笑みを浮かべた恰幅の良い夫婦が出てきた。
「初めまして、海南高校一年長浦和也です」


「いつも薫がお世話になります。で、つかぬ事を聞くが、薫はいつ連絡してきたのですか?」
「三日前です。それをこの焼き菓子と一緒に箱に入れてあります。何せ秘密だそうですから」

夫婦の表情が一変して険しくなった。
柔らかな仮面が剥がれると残忍な目つきに見える。



「君も知ってるのか?」
「全然、何しろ封印した袋を渡されただけです」
「本当だね」
「はい」
そう言って和也は菓子箱を夫婦の手に渡した。
「お大事にとお伝え下さい。じゃあ失礼します」

言うが早いか、門に行く。
さっと門を出るとき間一髪のところで閉まった。

ヨシミが心配そうに近寄った。
その手を取ると和也は一目散に駆け出した。

息を切らした二人が着いたのは交番である。
「怪しい夫婦が、他所の家に侵入してます」
和也は一気に言った。
「僕の友達が3日前から学校を無断で休んでます。
多分閉じ込められてると思うんです。僕の見たご両親と違う夫婦が家を占領してます」

警官だけでなく、ヨシミも目をパチクリさせた。
「君、もっとゆっくり順序立てて話してください」

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