読書の森

宮本輝 『二十歳の火影』後編



珠玉の様なエッセイの中でも表題と同じ『二十歳の火影』が切ない。

父は彼が21歳の時亡くなった。
70を出たばかりで悲惨な死に方をしたのである。

最晩年の父は35歳の女と暮らしていた。
家に一銭の金も入れられない状態だった。
それでも我が子の顔見たさに会いに来た。
二人は屋台で昔話をしながら酒を飲む。




彼は足元のフラつく父親を女のアパートに送り届けた。
女はその時留守だった。

ふとした弾みで、ハンガーにかけた真っ赤な女の長襦袢が落ちてきた。
フワリと立つ女の匂い。

その瞬間、父に対する憎しみがスーと消えたと言う。

父の持つ業が自分にも流れる事を本能的に悟ったのだろう。
そして、彼は不思議な幸福感に満たされた。

親子、特に同性の親子とは愛憎半ばする感情を持つ場合が多い。
切っても切れない縁を疎ましく思う事もあろう。

その親の血が子に流れている。
親の持つ欠点が子の中にもある。
それは確かな事実である。
子どもが親との血の繋がりを自分の中で肯定出来た時、安らぎと幸福を感じると私は思う。

ただ、この作品はそうした解釈や理屈抜きに語られている。
何もかも失って死んでいく老いた父に対するありのままの感情を記してある。
その感性の柔らかさが作品の身上なのかも知れない。

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