読書の森

甦り その5



村上教授は長身だが、20年間常に身を屈めてカプセル内で作業した為か猫背である。
心持ち前のめりで、厚いメガネがいかつい顔に掛かった様子は近寄り難い。
未婚であるばかりか、恋愛歴が皆無という専らの噂である。

彼が佳奈を愛してるという事実を知っているのは、もはや彼一人しかいない。
宮本教授は早くに他界してカプセル技術の第一人者は村上一人だ。

今こそ佳奈は自分一人のものだ。
溢れる思いを隠して彼は無表情に、ユックリと病棟の廊下を歩く。
行く先は佳奈が居る特別室だ。
ワンルームマンション位の広さと設備を備えている。


若さの欠片さえなくなった自分が、匂い立つように瑞々しい佳奈と話す。
あくまでも医者と患者としてだ。

哀しいけどときめく瞬間である。

読んでいただき心から感謝いたします。

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