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「幸田さん、夜の六本木を歩いた事ないんだって?」
美郷はドギマギした。
「はい」
「地元なんだし勿体無いわよ」
梨加は珍しく微笑んでる。
その日は金曜日だった。
「思い切り羽を伸ばそうよ、奢ってあげるよ」
見かけと違い梨加は、細やかに気を使ってくれた。
梨加が幾つか、美郷は知らなかった。
この会社は女性の年に介入しないところがあった。
「年なのに、年だから」と言う言葉は禁句である。
24歳の自分より、確かに10歳は上だと思うがそれ以上知らない。
年齢不詳の女性だった。
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昼の六本木と夜の六本木は表情を一変する。
オフイスと商業ビルが並ぶよそゆきの顔が、闇に包まれネオンが瞬く間に何が起こるかわからない街になる。
様々な階層の様々な人種が、自由に行き交う謎めいた街、美郷は吸い込まれそうな怖さがあって敬遠してた。
高級感溢れるレストランに梨加は席をリザーブしてくれていた。
メロンの生ハム巻きを優雅に食べながら、梨加は言う。
「六本木ってとてつもなく面白い街よ。人を酔わせるわ。
私も初めてこの街で遊んだ時、男に騙されちゃって」
「えっ!」
まさかクールな梨加がこんな事言い出すと思わなかった。