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美郷の本棚の上にメキシコの人形が飾ってある。
明るい衣装を纏ったエキゾチックな顔の人形は、美郷にとって短かったが華やかな時代を思い出させものだ。
今は、コンビニのパート従業員として働くおばさんに過ぎない美郷には、外資系の一流会社に勤めた過去がある。
人形はその会社の営業マンのメキシコ出張のお土産に貰った。
美郷は営業所の事務をしていた。
颯爽としたハンサムで頭の良さそうな男たちの中で、野暮ったい美郷は次第に洗練されていった。
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高度成長期を経てバブルにさしかかった頃である。
会社がある繁華街には、キラキラした夢と微かに退廃の香りがしていた。
自由過ぎる雰囲気が社内に漂い、仕事さえキッチリこなせば、私生活にはノータッチだった。
美郷は、その街で初めて夜遊びに誘われた。
誘った相手は評判のプレーガールの梨加である。
スリムな美貌のセンスの良い人で、アンニュイな魅力を漂わせていた。
仕事は早いが手抜きが多いとやっかみ半分で言われていた。