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読書の森

子どもの頃の物語 その3

見出しは小学校6年の時、そろばん塾の前で母と写した写真です。この頃まで私は綺麗な母が自慢で大好きでした。小学校を6回転校して転々とした時期を経て、この二年前から父の商売も落ち着き、住居を定め、近所の子と遊びまわれるようにもなったのです。
この時期日本全体も、貧乏な時代から一億総中流の時代と変わっていました。
 
私を親戚に預けて、神戸で職探ししてからずっと母は一生懸命働き続けていました。怠け者の父を嘘みたいに信じて、一緒に行商のリヤカーを押したこともあったそうです。
親元に戻った幼い私にもこの母の純粋で一心な気持ちが通じて大好きな気持ちとつながってました。一方、家でゴロゴロ、大きな体を持て余してるような父とは殆ど会話もなく、一緒に外出した事もなく、「この不潔な男がいなければどんなにいいか」と本気で思ってたんです
(すみません、離ればなれにいた時一度だけ上京して自由が丘に連れて行ってくれました)。
 
ところが、生活が落ち着いてちょっとした贅沢もできるようになった頃から、母は次第に変化してきました。
豊かで恵まれていた独身時代の話、結婚後の経緯、身の回りに起きた事件を、そっくりそのまま12歳の私に打ち明け始めました。
 
今にして思えば、結婚を境にして母の人生は天国から地獄に堕ちたようなものだったのでしょう。これは友人や身内にも言えない夫の恥の歴史であり、二度と戻らぬ自分の青春の回顧でした。
私にだけ母は心を許す事が出来たのでしょうね。母の中では6年生になった私は唯一の同等の女性だったのかも知れません。
 
ただし、私にとってこれほど苦痛な話は無かったのです。それと同時に、興味津々の物語でもありました。
 

大垣の田舎の母の両親です。戦後残った昔の庄屋の家で細々と暮らしていました。

幼い頃の母と祖父です。要領が良くて甘え上手な母は大のお父さん子で、祖父もとてもかわいがってました。死ぬ前まで「お父さんがお父さんが」と祖父を呼んでいたのです。
ひょっとして、父のことかと思ってたら祖父です。
私は母がとてもうらやましかったのです。私の記憶の中で父に抱かれた事は皆無です。
と言って、父としては立派に私を愛してるつもりだったみたいです。父は動物や子供の喜ばせ方について全く無知のようでした。多分自分の両親がそうだったからでしょう。

これは60代の母と伯母が、戦前近所の友達だった人と集まって写ってるものです。(中央が母でその右が伯母)母はこの姉の悪口をしょっちゅう言いながら、伯母に頼るところがあったようです。
生真面目で働きものの二人の喧嘩はどこか浮世離れしたものがありました。


これが菩提寺で父の姉(伯母たち)と映った写真です。男性は全て一族ではありません。
向かって右端が私。三十を過ぎてやっと正社員として勤めていた当時です。
 
その左の二人が祖母違いの伯母、かなり聡明な婦人たちです。
左端が私が預けられた家の伯母です。太っ腹で人情に脆い人でした。
 
一体に父方は母方に比べ、混沌とした状態に慣れて、秩序以上に中身を重んじる人が多いようです。言い換えれば、個性が強いです。
それに比すと母方は勤勉で秩序を好みました。
体質がまるで合わない両家だったようです。
両家の共通点は女系家族という点です。母の6人姉弟は男一人、父の7人姉弟は男二人、妻も含めて女性陣は男性陣よりも能力が優れていたみたいです。
 
父の母は当時としては並外れて背が高い人でした。それに非常な劣等感を持っていたのです。祖父とは誰が見てもノミの夫婦でした。
その長女として生まれた伯母は、悪いのですが、両親の容貌の欠点ばかり受け継いだような人だったのです。頭が良く行動力のある人でしたが、見た目で女として損をしていたようです。
 
母の悲劇の一因は容姿にコンプレックスのある姑や小姑に恵まれ(?)た事です。おまけに母の母までが容姿にコンプレックスを持っていたらしい。それで理屈で浮気者の祖父を負かしたのです。
論戦になると必ず負ける祖父はむじゃきな母を余計に可愛がったらしいです。
母はこの無邪気さが災いして、婚家で相当な虐めにあったのですね。
 
この容姿コンプレックスを持つ子のない伯母から、青春期の私は「お母さんにはまるで似てない。私に似てる」と言われ続けてました。悪いけど、ものすごく嫌でした。
 
 
 

 
 
 

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