読書の森

アガサクリスティ『杉の柩』後編



この作品で私が気付いたのは、アガサクリスティの恋愛観の変化である。

作品を上梓したのは、クリスティが50歳の時だ。

以前の炎の様に熱い女はここには登場しない。
主人公は、知的で複雑な感情を持つ女性である。

殺したいほど憎い相手への気持ちを冷静に自己分析も出来る。

正直言って、情熱に任せた一途な恋、思い切り悪徳に沈む恋の方が魅力的である。

しかし、エリートの感覚とはこんなものかと思わせるリアルなミステリーではある。



実は、私がこの小説をご紹介するのは、次の文章を引用したかったからだ。

「ロードさん、真相を認めたらどうです?あの人はロデリックを恋している。だが、それが何です?
あの人を幸福に出来るのは、あなただけなんですよ」

これはポアロの言葉である。

薄情な男ロデリックに心を奪われたエリノア、彼女をひたすら擁護する医者ロード。
彼は彼女の心に残るロデリックの影を厭わざるを得ない。
ポアロはロードに「それでも彼女を幸せにする愛を持っているだろ」と語りかけるのだ。

私としては此れ程寛大な男がいるかどうかは疑問である。

むしろ、クリスティ自身の希望をここに示したのではないか?

ロマンチストの男も女も、報われない愛を追いがちである。
しかし、特に女は、内心自分をまるごと受け止めて愛してくれる男を待っているものだ。

そんな女の心理をクリスティは代弁する様だ。

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