佐代子にとって唯一無二の人であるのに、このしがらみを断ち切りたい。
彼女は守り刀を抜き、渾身の力を込めて夫の胸を刺した。
刀は夫の胸深く通ったが、ブルブル震えたことで急所を外れた。
激しい痛みで気づいた泰清は、枕元の刀で不届きな賊に斬りつけた。
彼は賊が愛しい妻とは夢に思っていない。
震えた次の刀の先が顔を刺して出血で目が見えなかったのだ。
震えた次の刀の先が顔を刺して出血で目が見えなかったのだ。
彼は最後の力を絞って声を上げて、妻を気遣った。
「佐代子!佐代子!私に構わず逃げよ、稚児を抱いて早う逃げ、、」
「佐代子!佐代子!私に構わず逃げよ、稚児を抱いて早う逃げ、、」
この瞬間、佐代子の心に激しい後悔が湧いた。
男を裏切った己に戦慄した。
「殿、安堵なさいませ。近くの者が気づいて賊は逃げました。
お気を確かにしてくださいませ!わらわは殿が命でございます!」
それがこの哀れな妻の真実の声だったのかも知れない。
佐代子は、最早物言えぬ身となっても刃を離さぬ夫を力の限りかき抱いた。
刀の先はそのまま彼女の胸を貫く。
熱い疼痛が胸から背に走った時、意識の薄れていく佐代子の目から一粒の涙がこぼれた。
熱い疼痛が胸から背に走った時、意識の薄れていく佐代子の目から一粒の涙がこぼれた。