もともとその日のうちに、ホテルに連れ込む気は無かったが、酔い潰れた上にとうとうゲロゲロ吐き出す愛をそのままに出来なかったからだった。
連れ帰って、薬を飲ませてベッドで休ませてしばらくすると愛の症状はすっかり良くなった。
しかし卓は帰らせたくなかった。
その翌朝の日曜日。
起き抜けに、愛は傍の卓を眩しそうに見つめて、急に泣き出した。
それもシクシクと言う感じでなく、大粒の涙をポロポロ流して声を出して泣くのである。
卓は狼狽した。
「ごめん。だけど最初からそんな気を持ってない。ただ君と飲みたいだけだった。
だからさ」
(後は君でも分かるだろう)と言う言葉を我慢して呑んだ。
この女は初めてじゃなかったみたいだけど、それは出血がなかっただけで。
物凄く嫌がった。身体が硬直して殺されそうな顔をしていた。
それを無理矢理犯す形でしてしまったんだ。
「責任持つから」
「責任って何なの?」
「その意味分からんのか?」
「、、、」
「つまり結婚するって事だよ」
「そう言う事なの?じゃあ未だ早いよ」
「何だ!」
「だからお試し期間を設けませんか?」
涙を拭った愛はうって変わった冷静な口調で言うのだった。
卓はしばらく口が効けなかった。この女なんなんだろう。変わり過ぎだよ。
高校時代はそんなんじゃなかった筈だが。
そして、そのまま卓と愛のちょっと奇妙な同棲生活が始まってしまったのである。
夏の長期休暇を利用して卓は愛と二人きりの海外旅行を試みた。
愛は極めて家庭的な女性で家事をせっせとして外出を嫌った。
ただし、卓が困ったのはベッドの中である。その気になった卓が手を出そうとすると愛の身体が硬直してくる。
しばらくして、愛の心が拒否してる訳ではなく、反射的に身体が受け入れづらいのだ、と卓は気づいた。
心療内科でカウンセリングを受けてみようか?と愛に問いかけるとひどく嫌がった。
彼女は心療内科だけでなく、病院をひどく嫌っているところがあったのだ。
夏の長期休暇を利用して卓は愛と二人きりの海外旅行を試みた。
思い切って、アラモアナストリート沿いのホテルで宿泊したのも、この旅行を特別なものにしたい卓の気持ちの現れだった。
案の定、爽やかな風の流れるその街で愛はイキイキしてきた。
まさか愛には出来ないだろうと思っていた行動をいとも簡単にしている。
海辺のリゾート地で卓とキスしたり、用意した水着姿で遊んだり、人が変わったように大胆な姿を見せた。
「どうした?ここだと自由な気分になれるの」
卓が聞くと、
「昔に戻った気がするのよ。ほら二年の時クラスの仲間で葉山へ行ったじゃない」
「よく覚えて無いよ。そう言えばそうだったか」
「あなたとても素敵だったよ。黒の海パンで」
「記憶力良いねえ」
「だって」
愛は息を一旦呑んで、その言葉を口にした。
「だって、私はあなたの事この世の中で一番好きだったから」
卓は次の言葉が出なかった。
ならば何故ベッドでお前の身体が大好きな筈の俺を拒否するんだ?