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読書の森

おかしなストーカー その2

「申し遅れましたが私は事情があってずっと独身で某企業に勤めてました。親の介護で退職せざるを得なかった為、年金は少ないのです。
それでもある程度の貯えがありましたので、何とか不自由無く暮らしておりました。
その頃クラス会がありまして、彼と再会したのです。それまで淡い恋心を抱く事はあっても特別な人と意識したことはなかったのですが。親しく話す内にだんだん、、」
雪は打って変わった態度で明確な説明を始めた。

「はいはい。分かります。つまり特別な感情を抱くようになったと言う事ですね」
(よくあるケースだけど、二人とも相当な爺さん婆さんだろう?みっともないと思わないのかね)
その内心の呟きが聞こえたかのように、雪は睨んだ。
「その時は二人とも50代だったのですよ」
「はああ」(なんだ、ナーバスな婆さん!相当やりにくそう)

「彼は既婚者で二人のお子さんがいる人です。最近まで大企業の重役を勤めてました。
一方社外でも交友関係が多くてさばけた大人の男性になってました。
ただ、このような肩書きと全然別に高校時代と全然変わらない面を持っている人だったのです」
と、晴夫のしかめ面に知らないふりして彼女は話続けた。

「ほう」(ホントかよ)

「外見や実際の行動とは別に、彼って凄いシャイな一面を持ってるのです」
「純情な一面はあなたにだけ見せるって事ですか?(次は惚気(のろけ)か」
「いいえ!」
雪は怒ったように首を振った。
「実は高校生の時、私から彼をデートに誘った事があったんです。
ちょっと大人の雰囲気があってそこがカッコ良くて、好きだったからなんですが」
「、、、」
「ところが見事に振られちゃって。今お互い受験生だからそんな時期じゃないという理由だったの。
それで、、
笑い話にするつもりで、その誘いを彼が覚えてるかって聞いたんですね」
「そうしたら?」
「そうしたら、あの頃自分は両親の不和で悩んでて早く自立したかった。アルバイトで水商売のバーテンみたいな事やってたんだよって。彼が」
雪の頬がだんだん紅潮してきて、あたかも高校生に帰ったような目つきに変わってきた。
「それで、、君を傷つけたくなかったよって」
「そこからお互い熱くなって、、という事でしょうか」
「そんなとこです。そういうほのぼのとした気持ちだけで終われば良かったんです。ただ問題は」

「男女の事で、特に私は過保護な生い立ちだった為か幼い部分がありまして、世間常識に疎くて。彼もかなりおバカで」
(きなすった。配偶者にないとこが好きで男女の仲になったって訳)
思わず薄笑いを浮かべた晴夫を又雪は睨む。

「よくある不倫はお互い抵抗があったんです。そういうんじゃない、学生時代の純な気持ちに帰りたいという一点が二人を結びつけてたのです。ただ心で触れあってたかった。昔の仲間とSNSを始めて、そこを借りておしゃべりしてたのね。
しかし」
雪は急にそこで口をつぐんだ。

それから低いトーンで話始める。
「ここ最近私は頻繁に転居を繰り返しております。
その理由が彼とのネットやチャットの交流にあるんです。二人しか知らない昔話をしたりしてね。密かな楽しみは長く続かず、その内に二人とも書き込みやチャットをハッキングされました。当時のおじさんおばさんにとって全く訳がわからない内に、ある事ない事二人の噂が広がってしまったのです。リアルな不倫してるけしからん爺婆という噂です。
馬鹿正直に住所や写真、履歴をそのまま載せてましたから。それで私はSNSをやめたのです」
「、、、」
「その内何者かが私のストーカー行為を始め出したみたいなんです」
「SNSに悪戯書きされたり、チャット中の写真をネットで流されたり、盗聴行為をしたり、、?もしかして電話を盗聴してたかも知れない」
晴夫は頬を真っ赤に染めた老女を面白そうな目で眺めた。

「いやらしい事をしかけたりするのですか?例えば夜中に変な言葉を囁いて忍び込んでこようとしたり」悪戯心がムクムクわいてわざと晴夫はささやくように言った。
「いやらしい!そんな事言うあなたがです」
しおらしく項垂れてた彼女は、急にキレてしまったように机をドンと叩いた。
晴夫は思わずのけぞった。唐突過ぎる。
(変な婆さん!)
「あっ、ごめんなさい」
顔色が見る間に白く変わって雪は項垂れる。

「それで、、こちらがメンタルやられて(婆の癖に言葉知ってるんだと晴夫は又心の中でちゃちゃを入れる)同じマンションの人に変な噂は立てられる、弱ってる私と母に宗教団体の方が来て相談しなさい、と熱心に言うのです。
親友にも言えなかった複雑過ぎる家庭の事情をこんな場合打ち明けるのに抵抗感が強すぎて。相手に大声で必要ありませんと怒鳴ってその団体の方から睨まれてしまったり。
要するにすごくナーバスになってその地域に居られなくなってしまったのです。
バカみたいに何回も転居してしまいました。
その結果母の認知症は進んで、もどかしくとっても辛い思いを抱えながら昨年亡くなりました。貯金もごく僅かになりました」
雪はガクッと項垂れた。


「すみませんがね。ウチは人生相談はしておりません。
一応相談料はいただく事になってますが、管轄外の問題は扱いかねるんです。相談出来るお友達の方いないんですか?」
「聞きたくもない身の上話はもうやめてほしいという事ね」
その通りと言いかけ、晴夫は急いで言い直した。
「失礼ですが、ウチはこう見えてもそれなりの料金を払って頂かないと仕事できないので」

努めてしれっと言った。
彼は、要領を得ない今困窮してるらしい老婆の話にキレかけていた。気の短い彼はそれを必死に抑えるだけでやっとだったから。
(こっちは慈善事業じゃないからさ)

(水谷雪は痴呆老人じゃないか?存在しないストーカーを妄想してるだけかも知れない。
よくある話だよ。
早く役所で適切な対処をして欲しい)
空腹も手伝って、晴夫の心の声はワンワン叫んでいた。

「誠に要領を得ない話で申し訳ありません」
「、、」
「あなた、何でも屋の探偵さんだという広告出されてますね。それを見込んで依頼してるんです。
有り体に言えば、私の住処であるボロアパートですがね、私が二部屋借りた形になってます。空いている方にあなたが入っていただきたいのです」

「???」




読んでいただき心から感謝です。ポツンと押してもらえばもっと感謝です❣️

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