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深夜の教授室には、白髪の宮本教授に佳奈について相談する村上翔がいた。
「だからね。人命を救いたいのは誰しも同じだ。
しかしあのクランケの心臓は弱り切ってる。ステるのは時間の問題だ」
「移植する心臓はないのですか?じゃあ人工弁は?」
「君、カルテに目を通したのか?血管の弁を人工にしても修復不能にボロボロだ」
このままでは弱々しく動いている心臓も停止に陥るのだ。
必死になった翔の考えは飛躍した。
佳奈は俺だけのものだ。
絶対に彼女の命を甦らせるのだ。
そして俺の妻にする。
翔自身が病人の様に青くなって叫んだ。
「先生、人体の冷凍保存をお願いします。結果は僕が責任を負います。
そして年月を経れば必ず治療法が見つかる筈だ」
宮本教授は穏やかな目を丸くさせ、危険な生き物でも見るように翔を見つめた。
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人体の生きたままの冷凍保存は今まで誰も成功していない。
細胞も臓器も生きたままの状態で凍結する。
脳の働きも止まる訳だから、万一蘇っても正常な働きをするかどうか分からない。
しかし翔は諦めない。
1パーセントでも生きる可能性があればやりたい。
宮本教授の指示の許で、冷凍保存カプセルは実験的に作られ、改良を重ねている。
実際の使用に耐え得ると彼は信じたい。
いきなりの懇願に、宮本教授は当惑し切っていた。
しかし結局気違いじみた翔の熱意に負けて、条件付きでカプセルに佳奈を入れる事にした。
条件とは秘密厳守であり、カプセル内部の佳奈の世話は、翔と直属の看護師
だけに任された。
出世も他の研究もすべて犠牲にして、翔はカプセルの中の娘の世話をした。