その日の午前、私は駅前まで買い物に行った。
首都圏にある小さな街は、いつもの平和な佇まいをしてる。
コバルト色の空、陽はうららかに差し、人々の顔は穏やかで、春が来たのを実感した。
金髪の外人が爽やかな顔で、自転車に乗っていた。
何で、あれほど平和な満たされた気持ちになれたのか。
春はいつでも、いい事が待ってる気がする。
帰宅して簡単なお昼を済ませて、私は掃除にかかった。
いつになく丁寧に洗面台を磨く。
ピッカピカと、喜んだ途端グラリと床が横に傾いだ気がした。
それは地面が揺れたというより、巨大なものがマンションの下から突き上げて左右に動かす感じだった。
「お母さん、地震よ」
当時85歳の母は年の割りに反応が早い。
素早くバックを肩にかけ、窓を開け、ドアを開け、外に出ようとする。
「ダメ!直ぐに出てはかえって危ない」
同じく飴玉を入れたバックを肩に私は大声で怒る。
購入したばかりのマンションは築年数は古いが、鉄骨鉄筋コンクリート建て、ここは6Fである。
海近い街、ここにいた方が安全と見たのだ。
いつもだと口喧嘩になるところだが、そんなことはしてられない。
棚のこけしも茶筒もコロンコロンと落ち、冷蔵庫はパクパク口を開けて前後に揺れた。
これはただの地震ではない、と悟った。
それでも、関東を震源とした強い揺れと思い込んでいた。
慌ててテレビをつけた。
優しい顔のアナウンサーは消えて、おもちゃの街が見えた。
おもちゃと見えたのは本物の東北の街で、画面も揺れた。
この地震は恐ろしく間合いが長く揺れる。
この世の終わりとは思わず、変な夢を見てる気分がしてる。
玄関の頑丈な手摺をしっかりと握った。
これを握ってれば、絶対大丈夫と思い込んだのである。
揺れる電車の中でしっかりと手摺を握り締めてる気分だった。
もっと正確に言えば、難破しかけた客船の中で窓枠にしがみつく気分だった。
その間も呪わしい強い揺れは何回も襲い、姿見がどうっと倒れた。
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