常念岳(2,857m)・蝶ヶ岳(2,677m) ((1)のつづき)
「胸突八丁」を過ぎて、岩の折り重なった沢を横切り、標高2,250mの「最終水場」に着きます。
常念乗越・常念小屋まではもうすぐですが、標識は細かく、「第一ベンチ」「第二ベンチ」「第三ベンチ」と続きます。小屋までの残り距離が800m・500m・300mと表示されています。
一の沢登山道の標識には標高が書かれているものが多いので、今どの辺りまで登っているかの目安になり、歩きやすい道のりでした。
「~ それはわが友人だけではない。六十年も前にウェストンが言っている。「松本附近から仰ぐすべての峰の中で、常念岳の優雅な三角形ほど、見る者に印象を与えるものはない。」と。 ~」(『日本百名山』深田久弥(新潮社))
今や「優雅な三角形」の頂上が眼前に迫っています。2,450mの常念乗越まで登り切ると、一気に眺望が開けました。ハイマツに覆われた常念岳の斜面に真っ白な雲がかかっているのは、空気の動き方が目に見えるかのようです。やがてその小さな雲も取れました。そして槍ヶ岳が大きいです。驚くような場面の転換があります。
槍ヶ岳はどこからでも全く同じに見える山ではありません。双六岳から眺めた槍ヶ岳は頂上が鋭角的で、「槍」の字そのものでしたが、常念乗越からの槍ヶ岳は、すり減った鉛筆のように先がやや丸くなっていました。
実際の槍ヶ岳の頂上は、確かに狭いものの、20人は立てそうなくらいのスペースはありました。常念乗越から見る槍ヶ岳の姿の方が、より本物に近いと言えます。
「穂先」と呼ばれる頂上に向かって、飛行機雲が稲妻のように伸びていきました。目指す方向がわずかにずれているのが惜しいと思いました。飛行機に搭乗している人達にはこの様子は見えませんが、もしかすると槍ヶ岳が見えたという歓声が、たった今機内であがっているかもしれません。
何年たっても、とても印象の強い景色です。写真を撮るのは風景を記録に残すだけではなく、瞬間瞬間の記憶をたしかなものにするためでもあります。
双六岳からの槍ヶ岳(2012年7月)
(登頂:2013年7月中旬) (つづく)