塩見岳(3,052m) (1のつづき)
「~ 私たちの宿屋の反対側の、谷川の左岸にあたる狭い峡谷には、いくつかの塩類泉がある。この泉は三十メートルくらい下から湧き出てくる。鉱泉の水は、竹の歯と幹を積み重ねたものの上までポンプで汲み上げられる。これは笊の恰好になっていて、水はそこを通って下の釜に流れる。それからその水を沸かして、次に蒸発させるという過程をとるのである。 ~」
(『日本アルプス 登山と探検』ウォルター・ウェストン著・岡村精一訳(平凡社))
道路沿いに「国鉄コンテナ」が2個置かれています。どれだけ色褪せても、緑色は緑色のままだなと思います。
バスは最後のトンネル、大鹿トンネルをくぐると国道152号線に出て、鹿塩バス停に着きました。
2年前、塩見岳の登山バスに乗りました。ダムを見上げて走り、このまま山へと向かうのかと思うと、もう一休みするように小さな町へ着きました。そこが大鹿村でした。
バスを降りた場所、国道沿いを流れるのは鹿塩川です。地図を見ると、大鹿村には「鹿塩」と記された場所がいくつもあり、他にも「大塩」「小塩」「塩原」「塩河」という地名が出てきます。
大鹿村の人口は992人です(2020年4月現在。「広報おおしか」(大鹿村役場)より)。小学校は全校生徒がおよそ40人で、下の学年にいけばいくほど多いそうです。
鹿塩川の支流、塩川沿いを歩き、今日の宿・山塩館に着きました。さらに上流へ遡れば、塩見岳への登山口の一つ・塩川土場に至りますが、この登山道は現在通ることができません。
玄関では、立派な木彫りの鷲が出迎えてくれます。ロビーの椅子には毛皮が敷かれ、そこに座るのは恐れ多い感じがします。
2階の「山桜」という名前の部屋でした。「~ 気がついた時にはすでに130年近くここにあった桜の木。 ~」と書かれていました。
「特に春になると、お部屋指定が増える部屋のひとつ」だそうです。まだ桜は咲いていませんが、風景は素晴らしいものでした。
今年は温暖で、これでも「今2月なの?」と思うような気候で、雪かきをしたのは2回しかなかったそうです。
温泉の源泉は「1号」と「3号」があり、地中27m、10m掘ったところにあるとのことでした。昔は温泉が自噴し、地面が湿っているところもあったといいます。
ここでは源泉を煮詰めて作った塩も買うことができ、白い塩と茶色い塩の2種類があります。塩辛さを感じない、とてもまろやかな塩でした。茶色い塩の方の源泉は、浴用にはしていないそうです。
源泉をシダの葉に通して濃度を少しずつ濃くする製法もあったとのことです。
「温泉の成分は季節によって少しずつ変わる。中には特定の成分がほとんど出てこないこともある。その中では、塩分は年間を通して安定しているんです。」というお話を聞いた時は、塩の力そのものに引き込まれるような面白さがありました。
温泉は、加熱した温泉(大きな浴槽)と、源泉と同じ温度の温泉(小さな浴槽)がありました。源泉は15度しかなく、湯口から注がれている温泉はまるで水のようです。しかし、隣の大きな浴槽から温度が伝わるせいか、15度よりはずっと温かく入れたと思います。
じっと浸かっていると、やはり塩の力が少しずつ全身に伝わってくるようでした。
夕食はとても美味しく、中でも鯉の煮物と鹿肉のカルパッチョが絶品でした。
翌日帰る前に、塩の結晶を見せてもらいました。鹿塩温泉から作られた塩の結晶は、和傘の形か、ホタテ貝を切って2つ横につなげたような形をしていました。
海水由来の結晶は、決してこの形にはならないそうです。
なぜこの地で塩泉が湧き出るのか、その理由は今も解明されていません。
ぜひまた入って、泊まりたい温泉です。