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ベートーヴェンの交響曲の名演 交響曲第4番(3) ムラヴィンスキー~レニングラード・フィルの日本ライヴ

2020年04月21日 | 名演奏を聴いて思ったこと


((2)のつづき)

 モノラル録音のフルトヴェングラーに次いで、ステレオで交響曲第4番の演奏を聴き比べてみたいと思います。


 ◆ムラヴィンスキー~レニングラード・フィル(Altus ALT001)
 ◆モントゥー~ロンドン交響楽団(DECCA 480,8895)
 ◆クリュイタンス~ベルリン・フィル(EMI 0946,367530,2,7)
 ◆クレンペラー~バイエルン放送交響楽団(EMI TOCE-9795)
 ◆朝比奈隆~大阪フィル(キャニオン・クラシックス PCCL00479)
 ◆スクロヴァチェフスキ~読売日本交響楽団(DENON COGQ-90→1)
 ◆ヴァント~ベルリン・ドイツ交響楽団(キング(セブンシーズ) KICC869/70)

 最初のムラヴィンスキー盤は、1973年5月26日に東京文化会館で開かれた演奏会の記録です。第4番の感動を最も深く捉えた名演だと思います。(1)と(2)で挙げたフルトヴェングラーも好きですが、ベートーヴェンの第4番のCDを1枚だけ選ぶならと聞かれれば、迷わずムラヴィンスキーのCDを選びます。名演がいくつもある第4番でも、これは自分にとって一生変わることのない一丁目一番地の演奏なのです。

 「~ ムラヴィンスキーは手兵のレニングラード・フィルを率いて初来日し、ベートーヴェン、チャイコフスキー、ショスタコーヴィチなどを指揮した。どれもこれも完璧無類だったが、とくにベートーヴェンの交響曲「第四番」のすばらしかったこと!ワルターやフルトヴェングラーのレコードの印象も一瞬にして吹っとんだほどである。
    異常に速いテンポ、仮借のない一直線の進行、鋭く切れるリズム、痛烈で厳しさの限りを尽くしたダイナミック、まさにリアリズムの極致であった。 ~」(宇野功芳著『名演奏のクラシック』(講談社現代新書))
 という評論を読んだ後、同じ日のライヴ録音がCDになって発売されると聞けば、すぐに買いたくなるというものです。
 「鋭く切れるリズム、痛烈で厳しさの限りを尽くしたダイナミック」とありますが、初めて聴いた時は、想像していたよりとても柔らかい感触だと思った記憶があります。
 第一楽章の(2:27)など、新しい時代の扉を切り拓こうとする雰囲気が伝わってきます。
 (2:51)~ 余分な響きを切り詰めた和音の緊迫感。この緊迫感が、音楽全体を支配しているのです。
 (4:15)を決して力まず奏した後、(4:25)で一気の盛り上がり。振幅の大きさを最大限に生かし切った対照の妙。
 (4:51)や(6:15)では、極限のピアニッシモを逃さず聴こうとする聴衆の様子まで伝わってくるようです。


 第二楽章では、(0:08)で主題に入る前、最後の「シの♭」でぐっと音量の下がるところが意味深です。
 (3:06)~ 低弦の弱音が耳をそば立てます。気を付けて聴いていないと、目の前から消えてしまいそうな音です。流れ星が淡く光ったと思ったら、次の瞬間には消えていたという音です。ほとんど光っていないように見えて、実は鋭く光っているという音です。
 
 第三楽章は、テンポが速く、音量は全体的に抑えられています。第4番の第三楽章を速く演奏した演奏は数あれど、どの演奏にも、合奏の分厚さが速さに追い付いていない部分がどこかにあるものだと思います。しかしこの演奏には全くありません。指揮者の統率力がスピーカーから伝わってくる貴重なCDです。
 そして、演奏は速く淡々と流しているようで、実は全然淡々としていないのです。ひとくくりの旋律の中にフォルテ(強く)とピアノ(弱く)があれば、フォルテの中に何種類も強さがあり、ピアノやピアニッシモ(とても弱く)の中に何種類も弱さが現れます。
 また、(3:09)~のオーボエが、さらっと聴き流してしまえばそれまでですが、一続きの短いメロディーの中に、色々なニュアンスが散りばめられています。
 
 第四楽章でも、ムラヴィンスキーの統率力に気迫があいまって凄い演奏になっています。冒頭から、(0:04)の音量を抑えめ、(0:18)で圧倒的なフォルテ、(0:52)で激しく叩かれるティンパニ、そして(1:19)のメゾピアノ(やや弱く)で驚くほどソフトな響き。
 振幅の広さが音楽のあちこちに生きています。
 ヴァイオリンの、細かい音の一つ一つが鮮明なのも驚異的です。ジャンルは違えど、ホロヴィッツが「革命のエチュード」で聴かせた、ペダルをほとんど踏まない左手の繊細なタッチを思い出します。
 きっと、本当のところは演奏会を聴かなければ分からないのでしょう。
 しかし、素晴らしい名演奏だと思います。フルトヴェングラーの演奏同様、今こうしてCDで聴くことができるのも幸せです。
 しかも、この演奏会は日本で開かれたというのです。聴衆の拍手も収録されていますが、「こんなものは今まで聴いたことがない!」という感動でしょうか。
 
 聴くたびにもう一度聴きたくなる興味に満ちているのが第4番の本質だとすれば、その本質に最も近い演奏がここにあります。


 ムラヴィンスキーの指揮した第4番のCDは、この他にも1972年1月のモスクワでのライヴ録音(BMG(メロディア) BVCX-4029)、1973年4月のレニングラードでのライヴ録音(BMG(メロディア) BVCX-4001)を聴きました。それぞれに特徴があって、3枚ともすべて価値があります。
 録音は1972年のものが一番鮮明だと感じます。一方、演奏会の臨場感やムラヴィンスキー独特の振幅の広さ,あるいはピアニッシモの響きを最も聴き取れるのは、東京のライヴ録音だと思います。
 1972年のCDには、同じくベートーヴェンの運命が、(4番同様)ステレオ録音で収録されているのも聴きものです。

 (つづく) 



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