Annabel's Private Cooking Classあなべるお菓子教室 ~ ” こころ豊かな暮らし ”

あなべるお菓子教室はコロナで終了となりましたが、これからも体に良い食べ物を紹介していくつもりです。どうぞご期待ください。

タラゴン

2023年06月25日 | ハーブ

 

                      

Magyar főur a XVI. században. Thököly Sebestyén czimeres levelének miniaturejéről. Az 1572 október 7-ikén kelt oklevél eredetije az országos levéltárban. (16世紀のハンガリー貴族。 セバスチャン トコリ) 

セバスチャン オブ トコリ閣下のシェフ、Michael of St. Benedictによる1601/8/10著「Magyar étkeknek főzése:ハンガリー(マジャール)※ー料理の作り方」から;

 

鶏肉の辛いソース和え

別の小さな鍋にベーコンを入れ、きれいな水で強く煮る。その後、鶏肉を切り、ベーコンの入ったベーコンのスープに入れる。茹でた後、ベーコンを薄く切る。刻んだタマネギ、タラゴンを丸ごと、2〜3個のライムを入れて一緒に煮る。塩味を確認する。味付けする場合は、まず酢を入れてから、胡椒、サフラン、生姜を加える。

 

※ハンガリー人はアジア系の流れを汲む人種です。数人に一人は生まれたときに蒙古斑を持っています。背も日本人と同じか少し低いように思います。セバスチャン トコリの姿がそのことを如実に物語っています。どう見てもヨーロッパ人の姿ではありません。

1600,1700年代にタラゴンを料理に使うのはハンガリー、イングランドだけです。勿論それ以前にタラゴンを料理書の中にみることはありません。イタリア、スペイン、ポルトガルのイスラムとの接点を持つ国々にもタラゴンの料理は見つかりませんでした。1800年代に入ってやっと2カ国以外の国々にタラゴンが料理書の中に入るようになります。

 

                                   つづく

 


タラゴン

2023年06月23日 | ハーブ

ディグビィから3年後の1672年著のHanna WooleyによるThe Queen-Like Closetから

      

ハンナ・ウーリー(Hannah Woolley、1622 - ca1675)は、家事管理に関するさまざまな本を出版し,この分野で生計を立てた最初の人物です。母親や姉妹から医学や手術の技術を学び、学校の教師と結婚して教育や医療に携わりました。1661年に夫が亡くなってからは、料理、刺繍、手紙の作法、薬の処方、香水の作り方などを扱った本を出版しました。これらの本は非常に人気があり、そのため素人ながらも医師としての評判を得ました。1666年に再婚しましたが、夫は1669年に亡くなります。彼女のレシピは無断で他の本の中に引用され、しかもその本は何度も再版されています。そんな彼女のタラゴンのレシピから;

             

絵は Collard Green and Cornbread Stuffed Beef Tenderloin | It's My Side of Life (itsmysideoflife.com) からお貸ししました(Hannah Woolleyのレシピとは少し異なりますが)

 

カラードビーフ(Collar'd Beef)

良質な牛の腰肉を用意して、井戸水と塩、または硝石(硝酸カリウム)に1日と1晩漬けておく。次に、胡椒、メイス、ナツメグ、生姜、クローブ、タラゴンを少量準備する。スパイスを砕き、タラゴンを細かく刻み、これらを細かく砕いたスエットと混ぜて牛肉の上に振りかける。ぐるりと(肉を巻いてその周りにヒモを)巻いてしっかりと縛り、クラレットワイン(ボルドー産赤ワイン)とバターで、鍋の中で焼く。鍋は密閉しておき、鍋の中にはこの料理に相応しい食材を入れて肉が沈んで焦げないようにする。オーブンには家庭用パンと一緒に入れて焼く。焼けたら取り出して冷まし、食べる前に1晩煙突に吊るしておく(熟成させます)。必要であれば好きなだけ長く吊るしておくことができます。ベイリーフを添えて、マスタードと砂糖でいただきます。


括弧内に注釈を付けておきました。

硝石は発ガン性が心配ですので、水と海塩を使ってスパイスとハーブを使うと良いでしょう。脂を肉に巻いて加熱し、少し煙らせるとハーブ味の赤身肉を使った日持ちのするカラードビーフの出来上がりです。ワインはカベルネ・ソーヴィニヨンを使った少しヘビーなワインが合うと思います。Hannah Woolleyはただ者ではありません。料理以外の著述を見れば一目です。なお“Collar'd Beef” は肉片をくるくると巻いて調理するのでカラードビーフと訳しました。

 

                                     つづく

 


タラゴン

2023年06月22日 | ハーブ

つぎにタラゴンのレシピが現れるのは1669年出版Kenelm Digbyの(実際に書かれたのはこれよりも前) “The Closet of Sir Kenelm Digby Knight Opened” の中です。Kenelm Digby(1603/7/11 – 1665/6/11) は、イングランドの宮廷人であり、外交官、自然哲学者、占星術師です。ロンドンのNewgate Streetに眠る敬虔なキリスト教徒でもありました。時には私掠船(海賊船)の船長となりました。ハーブ、スパイスを使ったMETHEGLIN(蜂蜜酒)に異常な執着示す人物でもありました。

                   

Sir Kenelm Digby (1603-1665) and Lady Venetia Anastasia Stanley (1600-1633) with their sons Kenelm Digby and John Digby (1627-1690) Anthony van Dyckによる家族画です。(彼がただの郷士でないことはこれでわかります) 

 

彼のオレガノを使ったレシピは;

ローストシャポンの冷製サラダ(SALLET OF COLD CAPON ROSTED)

(ロースとしたシャポンを)薄くスライスして冷やし、Sibbolds(不明)、細かく刻んだレタス、ロケット、タラゴンを混ぜ、塩、胡椒、ビネガー、オイル、スライスしたレモンで味を調えます。オレガノを少量入れると味が良くなります。

 

シャポン(シャポンを去勢したニワトリとみなして)熱の1度、冷の1度としておきます。西ヨーロッパでは体に良い、取り分け貴人に相応しい食べ物であるとされていました。

レタス:冷で湿の2度

ロケット   :熱1度、冷1度

タラゴン   :熱2度、乾2度

塩         :熱2度、乾3度

胡椒        :(ブラックペッパーについてはTacuinum sanitatisには掲載がないと思われますが熱4度、乾4度と考えて良いでしょう)

オリーブオイル :熱1度、湿1度

ビネガー     :冷1度、乾2度

レモン      :冷2度、乾3度

オレガノ     :熱3度、乾3度

全体として4つの要素のバランスの取れたレシピになっていると思われます。

 

それでは「料理の科学」に残されたニワトリの料理とはどのようなものでしょう

13番目の雌鶏のサラダ

鶏肉を串に刺します。鶏肉を焼いている間、卵を固く茹で、パセリの葉を加えます。鶏肉が焼けたら、串から外し、スライスし、鍋に入れ、上から酢をかけ、卵をスライスして塩を加え、皿の上に置きます。パセリの葉にも酢をかけてサーブします。

 

雌鶏  :熱2度、湿2度 

卵   :熱、湿

パセリ    :熱2度、乾2度

塩      :熱2度、乾3度

ビネガー   :冷1度、乾2度

 

                                   つづく

 


タラゴン

2023年06月21日 | ハーブ

話が右往左往しますが例のトランシルバニア宮廷の「料理の科学」は非常におもしろい内容です。2例レシピを引用しておきます。

 

サーディンの調理法は次の通りです;

他の魚と同様に、サーディンを洗い、塩を振りかけます。ソースは次のように作ります。魚の塩を洗い流し、鍋に入れ、酢とワインを注ぎ、月桂樹を加えます。 月桂樹はトランシルバニアでは育たないので、トルコやイタリアから誰かに持ってきてもらいます。魚を調理する際には月桂樹を加えます。調理したらスプーンで取り出せるように鍋に入れます。スライスして提供する準備ができたら、煮汁は取り出さずにそのままにしておきます。牛肉や豚肉のように時間がかかりません。固まるのを待ちます。(煮こごりを作ります)

 

九つ目のナマズのグリーンソース和え

ナマズを下ごしらえしておく。ソースを作る。白いパンをワインに入れて、蜂蜜を加えてボイルする。ストレイナーを通す。タマネギ、パセリ、ホースラディッシュの葉、タラゴンを加えてすり潰す。ストレイナーを通してワインの中に入れる。魚についている塩を洗い、ソースの中に入れる。ブラックペッパー、ジンジャー、シナモンを入れる。野菜を入れて煮る。

(この料理書の、或いはこの時代の習いでしょうか。ソースは主材と一緒に煮た、或いはブロイルした結果出来た煮汁をソースとしていたようです。パンは小麦粉の製粉状態が悪くて粒が粗いので、一旦パンにした小麦粉をソースの材料として使っているのです。)

 

体液のバランスを健康維持の基本と定めたのは中世以降もヨーロッパ医学に大きな影響力を持った「サレルノ医学校」で、 『サレルノ健康規則』 の中に「医者は、食べ物として、いかなるものを、いつ、何処で、いかなる分量をで、何回与えるかを示さねばならない」 という文言がありますが、実際には浸透していなかった?のでしょうか。実に不思議です。何故でしょう。(ここで体液学説の説明を入れておきます。現在のヨーロッパ料理を考えるのに非常に重要だと思っているからです。少しお付き合い下さい。)

古代ギリシャ、ローマ時代にヒポクラテス(古代ギリシャ: BC460-370)によって提唱され、ディオスコリデス (古代ローマ帝国:BC40-90) のマテリア・メディカの影響を受け(体液学説に最も寄与したのは紀元前1世紀にギリシャ語で書かれたマテリア・メディカです。約500年後の6世紀にラテン語に翻訳され、9世紀にアラビア語に翻訳されました。)、ガレン (古代ローマ帝国 : 129-200) によってさらに体液医学理論は発展しました。

ところが、ローマ帝国滅亡のあと、体液医学理論は西ヨーロッパを離れ、ビザンチンと北アフリカに移りさらなる発展を遂げることになります。これらの地域でイスラム医学の影響を受けます。イブン・シーナ(アヴィケンナ:ペルシャ:980-1037)は、ガレンの体液医学をアリストテレスの哲学と統合し、アラビア医学にギリシャのヒポクラテスやローマのガレノスなどの医学を加え、さらにインド医学も取り入れて大書『アル・カヌーン・フィ・アル・ティッブ』(医学の正典)(Al-Qanun fi al-Tibb (Canon of Medicine) を完成させます。12世紀にはイタリアと南スペイン(かつてのアル・アンダルス)でラテン語に翻訳され、ヨーロッパ全体に急速に広まりました。

 

       

The Taqwim al-sihha for the son of Saladin (Salah al-Din), al-Malik al-Zahir (d. 1216), king of Aleppo. [British Library Or1347](大英図書館、東洋写本コレクション所蔵。1213年にサラディンの息子のアル=マリク・アル=ザーヒルのためにアラビア語で複製されたTaqwim al-Sihhaのコピー。)

11世紀に東方系キリスト教徒であるイブン・ブトラン(1001-1066)がバグダッドでイスラム医学を学んで280項目からなる体液の特性を表にまとめたのがタクウィーム・アル・シハ (The Taqwīm al-Sihha)であり、これをラテン語に翻訳写本したものが』 タクイヌム・サニタティス (Tacuinum Sanitatis) です。タクイヌム・サニタティスは北イタリアを中心にラテン語に訳されて写本となり、豊富な図版が添えられた「健康全書」となります。ここから体液学説が再び西ヨーロッパへと移入されるのです。

 

(先の綺麗な絵の付いたものがTacuinum Sanitatisで、下の幾何学模様と文字がThe Taqwīm al-Sihhaです。ラテン語訳は誰がしたのかは不明です。)

最初にラテン語に翻訳された時期は1200年中頃だとされています。その証がヴェネツィアのマルチャーナ図書館に所蔵されているラテン語写本No.315にあります。この写本は、「ここにタクイヌムの書物が始まります。科学愛好家である輝かしいマンフレッド王宮廷でアラビア語から翻訳されました」という碑文から始まっています(Biblioteca Nazionale Marciana, Venice, Latin No. 315, Cogliati Arano, 1976, p. 11)。

 

体液学説のその後は、2つの文化圏内で異なった方向に進んでゆきます。

東地中海、南西アジア、北アフリカの文化はすべて、ヒポクラテスとガレンの既存の理論を構築し、さらに発展させ、知識が進歩するにつれて新しい方向性を構築する傾向がありました。

 

一方、キリスト教ヨーロッパの文化は、人の魂の状態に焦点を当てていました。第四ラテラン公会議(1215)の教会法22では、「医師が病人のベッドサイドに呼ばれたとき、彼らはまず患者に司祭「魂の医師」を呼ぶよう勧め、患者の精神的健康が回復した後に、身体的医学の適用 (Tacuinun sanitatisの指示に従った処方) が有益になる。つまり、原因(罪)が除去されると効果(疾患)が消えるとされ、これらの指示に従わなかった医師は破門されることがある。」と述べています。祈り、巡礼、聖遺物によって病状の改善がもたらされると考えていました。

 

                                   つづく

 


タラゴン

2023年06月18日 | ハーブ

ハンガリーの諸侯国の1つであるトランシルバニアの宮廷で1500年後半に料理長によって「料理の科学」という料理書が書かれました。約600のレシピに1603年の宮廷のメニューがあり、その中にはタラゴンの名の付いた料理が4つ、タラゴンを使ったレシピが10記載されています。料理書には1558年にアラブからヨーロッパに入った ”トラガカント(tragacanth)” の記載があり、このことからタラゴンもこの時期には既に移入されていたことが判りました。

(今のところ、タラゴンが最初にヨーロッパ大陸に入ったのはハンガリーのトランシルバニア地方ということになります。余談ですが、58年から僅か4年後にイングランドに入っていたことは瞠目に値することで、如何にイングランドがハーブやスパイスに敏感であったかが判ります。)

この時代はハンガリー王国がオスマン帝国に破れた頃と一致します。(あたらしい文化が移入されたということは、受け入れる側にもその文化を吸収できる様々な能力が備わっていたということで、)この事件はタラゴンがヨーロッパ入る大きな契機になったであろうと思われます。1558年は注目すべき年です。

1529年にオスマン帝国によって第一次ウィーン包囲が起こり、ハンガリーを征服したオスマン帝国のスレイマン1世がハンガリーを直轄地(オスマン帝国領ハンガリー)とし、トランシルバニアを保護領(トランシルバニア公国)としました。一方、ハプスブルク家はハンガリーの北部と西部を支配(王領ハンガリー)しました。これまでにも、この地にタラゴンが入る機会は幾度となくあったと思われますが、ハンガリーが150年近くにわたり支配された事が大きな契機となったことは否定できません。そのことを示すように1600年代になるとタラゴンを使ったレシピがイングランドの料理書の中に増えてきます。(タラゴンだけではないでしょう、おそらくその他のハーブも入って来たと思われます。ハーブだけではないでしょう、料理方法も。食生活の様式も。生活様式も。)

            

取りあえず、1620年著の「料理の科学」からレシピを抜き出してみましょう。ゲラルドの ”the Herball”  から23年後に出た料理書です。

 

                   

Beef and camel meat for sale from the Vienna Tacuinum Sanitatis (folio 74) (Courtesy: Österreichischen Nationalbibliothek, Austria).  これはウィーン写本だと思われますが、ヨーロッパでは必要としないラクダと成牛の図版が描かれています。理由については後に明らかになります。

 

The fifth with beef (5番目の牛肉料理) (仔ウシのレシピがこの料理書にはあるのでこれは本当に牛肉なのでしょう。西ヨーロッパでは成牛は骨髄を料理に使うか、ブロスの材料とするくらいでこのような料理はありません。このレシピがトルコ経由であることが判ります) から;

 

ローストビーフのタラゴン、セージソース和え(ROASTED BEEF WITH TARRAGON AND SAGE SAUCE)

肉を洗い、串に刺して塩を振りかけ、ローストする。よく焼けたら火から外して木で叩いて塩を落とす。鍋にスライス(この時代の牛は荷役のために飼っており肉は食用ではないので固くてスライスしないと食べられない)して入れ、ブロスを残しておき、味がしみるように牛肉の上にかけます。なければ、きれいな水をかけて火にかけ、(イヤな臭いが付かないように)洗い落とす。玉ねぎとセージを加えるが、セージの葉は切らずに半分または3分の1に切ってセージと判るようにしておく(タラゴンの葉が欠けているが料理名からここに入るべき)。ジュニパーベリーを少し加える。多すぎると苦くなります。酢を少し加えるが、多すぎないようにする。サフラン、黒胡椒、生姜を適度に加える。

 

ゲラルドは、タラゴンについて 『タラゴンは熱3、乾3度なので、レタス、スベリヒユ (レタスは冷、湿の2度)など他のハーブと一緒に食べることができる。それらの冷たさを和らげる。』 と述べています。

 

ゲラルドよりも少し後に生まれた、ニコラスカルペパー(1616-1654) もタラゴンについては同様の性質(乾で熱の3度)であると唱えています。ゲラルドはロケットの説明の中で 『ロケットとタラゴンは、性質が同じで、第3度の熱さと乾燥さがあるが、タラゴンは香りが良く、心臓に良いため、ロケットよりも優れている。辛味のある味のハーブの中では、特にタラゴンが優れており、その香りが良く、心臓に良いため、胃や心臓、頭にとても良い。ロケットもそうだ。それらは胃の粘液を切り裂き、食欲を刺激し、消化を助ける。サラダにも良いが、単独ではなく、レタス※やパースレーンなどの冷たいハーブと混ぜて食べるのが良い。そうしないと、肝臓を乱し、頭痛を引き起こす。サラダを作る最善の方法は、熱いハーブと冷たいハーブを混ぜることだ。胃や体の温度に応じて冷やすか温めるかを決定する。ロケットとタラゴンは、年配者や粘液質の人に適している。』 と述べています。これが四元素説を素とした体液学説の基本となる考えです。

 

※ この時代のレタスは恐らくロメインレタスでしょう。中世のレタスは下の絵のような姿をしています。

       

Ms 3054 f.10 Harvesting Lettuces, from 'Tacuinum Sanitatis' (vellum) 絵の下にはレタスの説明があります。(全ての 'Tacuinum Sanitatis' に同様の説明が付与されています)

    性質:冷で湿の2度

良質のもの:大きな葉でレモンイエローの色をしたもの

有用性:不眠症と精液過多を和らげることができます

危険性:性交と視力に悪影響を及ぼす可能性があります

毒性を中和するには:セロリと混ぜることで中和することができます

 
ゲラルドは体液学説を熱心に述べていますが、上の牛肉のレシピにはそのかけらも見あたりません。因みにこの料理に使われた材料を取り上げ、その性質を調べると;

 

『牛肉(熱2,乾2度)これに塩(熱2,乾2度)を振りかけてロースト(熱)を加え、

水(冷4,湿4度)で洗い、以下の材料を使ってソースを作り、

玉ねぎは熱4,湿3度

タラゴンは熱3、乾3度

酢は冷1,乾2度を加える。』 となります。

 

全体の食材のバランスが全く考慮されていません。体液のバランスを考慮する料理は1500年代には既に消えていた?のではとも思われる内容です。古代ローマ帝国からイスラムへと体液学説が引き継がれたのではと思っていたのですがどうしたことでしょう。

 

 

 

 


タラゴン

2023年06月14日 | ハーブ

この絵には気になるところが何カ所かあります。上から順に述べることにします。

絵の上の文字はいつ誰が書いたものなのか不明ですが、Doracoとはギリシャ語のdrakon (ドラゴン) から派生した言葉です。このことから想像できるように、このタラゴンもかつてはギリシャやローマ帝国内で料理に使われたハーブの一つのようです。ギリシャからローマに引き継がれたタラゴンは他のハーブやスパイスと同じように少しの時間を経て再び西ヨーロッパに戻ったのです。

 

ゲラルドが書いた ”Herbal” よりも前の、1562年に出版された、WILLIAM TURNERの, “Herball”, (1508? – 1568/13? 牧師、博物学者) がイングランドで最初にタラゴンに言及した植物誌だと思われます。ターナーはその中で 『タラゴンは、ハーブガーデンに比較的新しく入ったもので、初めて栽培されたのはチューダー朝の王室の庭園だけでした。』と述べています。そのことからタラゴンがイングランドに入って来たのは1500年代だろう思われます。

 

二つ目に気になるのは絵に描かれたタラゴンの葉です。絵のタラゴンは少し長さが短いようです。しかも小さなドラゴンの舌を思わせる切れ目のある葉がこの絵には見あたりません。

 

三つ目は花です。フレンチタラゴンが花を付けることは殆どありません。

 

四つ目は根です。ドラゴンの尾を想像させる、くねくねとした根が地面を這っていません。細い根があるのはゲラルドが言う通りなのですが。タラゴンは竹のように根茎を延ばしてその先に新しい芽を付けます。竹の根は地面の中に潜って目には付きませんがタラゴンのそれはしっかりと地面の上を這うのです。

 

サタンの化身であるドラゴンはご覧のように曲がりくねった尾に先の割れた舌を持っています。又、タラゴンの属名であるアルテミシアは、ギリシャの女神アルテミス (月の) に由来しているのでタラゴンの葉を月に例えているとの説もあります。     

    

この植物にはDoracoの特徴が何処にもない。この絵はタラゴンではないことになります。さてと、困ったことになりました。

 

                                     つづく

 


タラゴン

2023年06月11日 | ハーブ

        フレンチタラゴン(Artemisia dracunculus)

 

フレンチタラゴンは、まだ我々日本人には馴染みの少ないハーブです。熱い日本の夏に耐える品種も出てきたようですが、タラゴンが十分に活かされて使われているとはいえないようです。

世界的に見ても、フランス以外の国ではその浸透ぶりは浅いようです。フランスの伝統的なハーブミックス 「フィーヌゼルブ」 にも使われていますが日本人には使い方が判然としないせいでしょうか。

「タラゴン」 のすばらしさが心の中に刻み込んだのは1989年Mary Trewby著の、 “Herbs & Spices” でした。その中でMaryはタラゴンを 『フランスのハーブとして知られているのが細くてとがった葉のタラゴンです。他の国ではあまり使われていませんが、ユニークなほどに洗練された風味をもつこのハーブは、料理に使うと素晴らしい効果を発揮し、ハーブの中でも名だたるものと言えるでしょう。』 と讃えていました。

是非ともタラゴンを使った美味しいレシピを探し出し、しっかりとタラゴンを味わおうと思いました。

 

このところ一ヶ月間、色々な料理書の様々なレシピを当たったのですがこれといったものになかなか出会えません。『困ったときのゲラルド』 と以前にも書いたように、ここはイングランドの植物学者ジョン ゲラルドに登場いただいて、何らかのきっかけを掴もうと思います。

 

下の絵はJohn Gerard ( c. 1545–1612) の植物書 “the Herball”  (1597) から引用しました。

       

        

  

                                                                                                                                  つづく

 


新しい仲間

2022年01月04日 | ハーブ

寒いですねえ。

去年はこれほどではなかった様に思うのですが。

ハーブの芽がなかなか出てくれません。

そんな中で去年の秋に播いた 「ロシアンタラゴン ; (本当はフレンチタラゴンの種が欲しかったのですが、手に入らないようです)」 の芽が少し大きくなりました。

美味しいテリーヌを作ろうと播いたのです。

香りがフレンチタラゴン程ではないようですが、トライしようと思います。なにせ寒さには滅法強いようですから。

夏の暑い季節を迎える前に収穫出来ればと今から期待を寄せているハーブです。

大きく育った時にはレシピも合わせて御紹介できればと思っています。

 

         ロシアンタラゴン   2022/1/4

2022/11/29  ロシアンタラゴンは大きくそだちましたが、噂通り香りが良くなく、料理には使えそうにありません。 残念です。

今日は2023/6/3です。やっと、本当にやっとフレンチタラゴンの絵をお見せできるようになりました。苗を入手して写真に撮れるくらいに育ちました。もうしばらくお待ち下さい。

 

 

 

 

 

 


バジル 

2021年11月30日 | ハーブ

                       9 バジル

 

            スイートバジル       ‎2021/5/‎16‎

 

バジルの生まれたばかりの、ふっくらとした葉を見ると、嬉しくなってきます。寒い冬を抜けて春を迎えたうれしさと、このバジルで何を作ろうかと先に光りが見える気がするからです。バジルにはたくさんの品種がありますが、今回はスイートバジルを取り上げました。丸みを帯びた柔らかそうな葉が特徴です。春先になるとたくさんのバジルの苗を見かけます。このブログを読んでいる方も育てておられるかも知れません。

 

寒くなりかけた時に、部屋の中に取り込んでやると2月頃まで葉を茂らせてくれます。

バジルの生の、葉の手に入らない3, 4, 5月には、代わりに私はオレガノを使っています。かつてはバジルの葉をオリーブオイルを使って塩漬けにしたり、葉にオイルを塗って冷凍保存したりと苦心していましたが、ふくよかな香りを保つことが難しくてこのところ代用のオレガノで我慢しています。この事項を書くことで良い保存方法が見つかり、皆様に御紹介出来ればいいなと思っています。さて、バジルのお話を始めましょう。

 

   一般名称          学名           原産                  

  スイートバジル    Ocimum basillicum L.       熱帯アジア        

       

                       Ocimum basillicum L. (スイートバジル) 2021/7/16

スイートバジルは手に入れやすく、育てやすいハーブです。春から夏に、水切れ、肥料切れを起こさなければカンカン照りの太陽に向かって大きく葉を伸ばしてくれます。芳香あふれるハーブは夏の暑さに負けない料理を提供してくれます。

 

バジルという名前の由来は不明です。 唯、ジョン パーキンソン (イギリスの薬剤師、ハーバリスト, 1567-1650) の言によれば、「その香りは王に相応しく、非常に高貴である。しかも、王室で豪華な軟膏または薬として使われており、ギリシャの王バシレウス ( Basileus) の名に由来する。」との説を挙げています。 後述する、プリニウスの言葉とも符合するのですが、あの「バシリスク:basilisk」の名を縮めてバジルの名が生まれたという説もあります。植物とサソリを結びつけた、恐らくプリニウス以前の古い言い伝えから生まれたのでしょう。

占星術師カルペッパーは、「優しく扱うと心地よい匂いがするが、傷つけるとサソリを産む。また、サソリはバジルが植わっている鉢や器の下によくいることから、 バジルの小枝が鍋の下に残された場合、それはやがてサソリに変わる。」と煽ります。迷信はやがて、「バジルの匂いを嗅ぐだけで脳の中にサソリが入り込む。」という内容に変化するのですが、これまでも人の心の中に深く入り込みます。心の迷いはいつの世も、常に深くマイナスの方向に潜行するのが習いです。

 

「つまらん!」と言いながら、次の絵を見てください。この絵は、

               

ウリッセ アルドロヴァンディ(Ulisse Aldrovandi、1552/9/11 –1605/5/4, イタリアの博物学者)"ヘビとドラゴンの歴史;Serpentum et draconum historia", 1640 から引用したものです。顔はオンドリで体は蛇です。王冠を戴いているところが、悲しいというか、ばかげているというか。どうやら本気で描いていたようで、冗談ではなさそうです。バシリスクもここまで想像を膨らませて描かれれば本望でしょう。妄想もここまでくれば本物に成長するのです。カルペッパー24歳の時の出版本ですから、当時のこのような考えに取り囲まれていた彼の頭は、チョウツガイが外れていたのも当然といえば当然です。

 

プリニウスの言葉を信奉していた事に加え、新大陸から流入する新事実にプリニウスの説を無理矢理合わせようとしたことがこのような怪物を生み出したようです。(トウガラシの時にも同じような事が起きました)事実を事実として見詰める科学の目が誕生し始めた頃の初期の産物です。

     

 

 

熱帯アジア原産、別名メボウキ(目箒)は、江戸時代、漢方として入ってきたバジルの種を水に浸し、乳白色のゼリー状の粘膜に包まれたものを目に入れて目に入ったゴミを掃除したことに由来します。粘着性があってゴミはよく取れるようです。茎は4稜形で、直立して、よく分枝します。植物全体に高い香りがあり、葉は先が尖った卵形〜長卵形で、光沢があり、内側や外側に反り返ります。葉柄があり、浅く粗い鋸歯があり、対生しています。7~10月頃、茎頂に穂状花序を作り、白い唇形の花を咲かせます。果実は4分果になります。耐寒性が弱いため、日本では一年草扱いです。強健で肥沃な土、日当たり、排水のよい場所でよく生育します。

 

ディオスコリデスがバジルに関し『2-171. OKIMON』で述べています。

『Ocimumは一般に知られたハーブです。たくさん食べると、視力が鈍くなり、腹が柔らかくなり、鼓腸が動き、尿が出て、乳の出が良くなります。 消化しにくいです。ポレンタの粉、ロザセウム(rosaceum)、酢と混ぜて使うと炎症や有毒な魚やサソリの毒を和らげます。目の痛みにはキアンワイン(Chian;エーゲ海のヒオス島産ワイン)を単独で、或いは一緒に使います。バジルの汁は目の薄暗さを取り除き、目の余分な水分を乾燥させます。 種を飲み物に入れて飲むと、うつ病、頻繁な痛みを伴う排尿、鼓腸に効きます。嗅ぐとかなりくしゃみを引き起こします、そして葉にも同じ効果があります。くしゃみが続く間は目を閉じなければなりません。一部の者はそれを避けてしません。』

 

プリニウスからの引用はここではしばしば行ってきました。プリニウスはディオスコリデスよりも20年ばかり後で生まれたのですが、バジルに関してはその内容をさほど参考にしていません。プリニウスの言い回し、特有の大げさな表現がここでは目につきます。真偽についてはコメントするまでもありませんが、その内容は、後のヨーロッパの人達に大きな影響を及ぼしました。「バカバカしい」と捨て置けばそれまでですが、あらゆる場面で見聞きしますので・・・・有名な誤った、しかし、見捨てられない事柄なので全文を引用しておきます。(中でもサソリとバジルのお話しは特に有名?です。バジルの葉の鮮やかな緑がこの時代は悪魔を象徴する色であるところから、サソリを結びつけたのだろうと思われますが。後のヨーロッパ文化に大きな影響を与えました。)

『クリシッポス(Chrysippus of Soli, ca.280–ca.BC207)は古代ギリシアの哲学者)は、オシムニ(Ocimuni : バジル)は狂気、嗜眠、肝臓のトラブルを引き起こす。胃、尿、視力に有害であると厳しく説いた。だからこそ、ヤギはそれに触れることもしない。男もそれを避けるべきであると付け加えました。』

   

その後、ヤギはそれを食べるし、人の心はそれによって影響を受けることはない。そしてワインと少量のビネガーに入れたものは陸のサソリの刺し傷と海の毒を治すといったオシマムの強力な擁護者が現れます。

経験から、失神には酢に入れたオシマムの臭いを嗅がせると良い、また、嗜眠、そして炎症を冷やす事がわかりました。頭痛には、ローズオイル、マートルオイル、ビネガーと一緒に塗布剤として使える。“目やに”にはワインを使う。

胃に有益である、酢を摂るとげっぷが出て鼓腸を鎮める、外用して腸の緩みを止める、利尿剤であるため、黄疸と水腫の両方に良いと言われています。コレラの下痢ですら止まる。したがって、フィリスティオン(Philistion、BC427-BC347 )は、疝痛の訴えや激しい下痢にも、オシマムを処方しました。プリストニクス(Plistonicus、古代ギリシャの医師、ca.BC400-ca.BC300)の処方に反対する者は、しぶり、吐血、重い心気症に対してバジルをワインに入れて処方しました。

乳房に塗布すると、乳の出がよくなります。特にガチョウの脂と併用すると、赤ちゃんの耳に非常に有益です。鼻孔に砕いた種を吸い込ませるとくしゃみを促進し、塗布剤として使うと頭からの粘液の流れを促します。酢の中に入れて食物として取ると、それは子宮を浄化します。cobbler's blacking(黒い靴墨 ?)と混ぜたものは、疣を取り除きます。媚薬であるため、時には馬やロバにも投与します。』

   

 

 主な有効成分  エストラゴール リナロール  シオネール  オイゲノール   

                                       

バジルの匂いの主成分であるエストラゴール、シネロール、オイゲノールは水には溶けませんが、エタノール、エーテルには溶けやすい性質を持っています。有機溶媒にも溶け込む性質があります。ワインビネガーには酢酸(有機溶媒)が3-5%含まれていますからこの中にバジルを漬すと酢酸の中に溶け出します。匂いの主成分は脂溶性ですからオリーブオイルの中にバジルを入れるのも勿論いいのですが、口の中に入れたときにより香り立つのはどちらなのか。言うまでもないことです。苦味を持つサポニンは抗酸化作用をもち、老化予防や血圧やコレステロール値を下げる効果があります。

   

 

 栽培          種子を3月下旬~4月上旬に種蒔き          

『バジルを蒔く適期は、パレスの祭りの日(4/21)であると言われている。そして秋にも。冬に蒔くときは酢で種を湿らせるように勧める者もいる。』とプリニウスは説いています。(「バジルの種を酢で湿らせる」という考えは、これ以降に出版された書物で見つける事が出来ませんでした。真偽の程はわかりません)

 

バジルの種の発芽には20℃以上の温度が必要です。種まきは4月下旬から5月の遅霜がない頃に蒔きます。バジルの種は光発芽性なので覆土はせずに十分に水を与えます。暑いのが大好きなハーブなので5月以降に、保水力の高い有機質に富んだ土に定植します。草丈が20cm程度まで生長したら地面から2~3節目を切ると脇芽が出て大きく育ちます。花の開く前にも1/2-2/3を切り戻すと収量が増えます。夏に葉が黄色くなるのは肥料切れです。

 

                                  2017/8/17

 

  キッチンカウンターから      バジルの風味を活かす                        

 

ビネガーが入っていたボトルを取っておいて、バジルビネガーが出来上がった時点で、漉してボトルの中に戻すとそのまま冷蔵庫に保管できて便利です。出来たビネガーはビネグレットソースに使うと他の材料を簡単に追加ができて味の変化がつけやすく、重宝します。

これなら、バジルの無いときにでも気楽にバジルの風味が楽しめます。冬から初夏にかけて活躍してくれるでしょう。バジルの香り成分が、全てビネガーの中に溶け込んでします。口の中に入れると適度に蒸散して香りを出してくれそうです。

 

 


トウガラシ

2021年10月31日 | ハーブ

               8  トウガラシ

      シシトウの花   Capsicum annuum var. grossum   2021/8/16

 

「トウガラシ」と聞いて、その他の呼称をいくつ挙げることが出来るでしょうか。

レッドペッパー、チリ、カイエンペッパー、ピメント、パプリカ、ペペロンチーノ、辣椒(ラージャオ)・・・・・。国が違えば更にたくさんの名前が出てきそうです。トウガラシが今まで歩んできた長い時間と歴史がその名前の中に刻まれているにちがいありません。今回は時間を追いかける旅になりそうです。

 

そして、私は「トウガラシ」と聞いて、七味唐辛子を思い出しました。ズーッと昔からあったような気がします。トウガラシはすっかり日本に馴染んだハーブといえるでしょう。しかし、いろいろなかたちで利用し始めたのは最近の事のようです。唐薯(カライモ)、唐黍(トウキビ)、唐茄子(トウナス)の例を挙げるまでもなく、唐唐辛子という名から、唐から伝搬したとは思われないでしょうが、外国から伝えられた植物である事には同意していただけるのではないでしょうか。

  

                 鷹の爪             ‎2021‎/6‎/29

 

 記録に残る年代(伝来)  日本   朝鮮   インド    ドイツ                          

              1542   1613    1540以前    1539                            

1542年にポルトガル人宣教師が大友義鎮(宗麟)にたばこやトウガラシを献上したとの記録があります。又、1552年にはポルトガル人宣教師バルタザール ガゴ (Balthasar Gago) が大友義鎮にその種を献上したと文献にあり、ポルトガル人宣教師ルイス フロイスは1577/8/10付けの手紙で、日本の貴人が珍重する品々の一つに 「酢漬けのトウガラシ」を挙げています。しかし、このことで豊後の国から日本全域にトウガラシが広まったとは思えません。物品が広く行き渡るにはそれを受け止めるための下地や、大きな出来事やきっかけがなければ成立しません。大友義鎮が行った対明、対朝、対カンボジア貿易では確かに物の交流はあったでしょうが日本全体を揺さぶるほどの影響力は無いように思います。ポルトガル人たちの手で16世紀半ばに日本の九州に伝わったトウガラシは、豊後周辺で時を経た後、16世紀後半に朝鮮に伝わり、そこから、秀吉の朝鮮出兵に従事した日本軍兵士たちによって再び京、大阪など日本の本州へ流入したとみる説が今のところ有力です。トウガラシに「唐=外国」の文字が付いていることに納得です。

朝鮮には、勿論中国からのトウガラシの流入もあったに違いありません。元来辛いものを受け入れる下地があったからこそキムチへの転用がスムーズにいったと推察します。インドへのトウガラシの受け入れもその下地が既に備わっていたからこそ短時間で成り立ったのです。(胡椒、山椒、辛子等の刺激物を多く使った料理が既にあり、唐辛子がそれに置き換わったとみるのが穏当な考えだと思います。こういった交代劇は今までの歴史の中で幾たびか繰り返されてきたことです。)翻って、日本をみると、日本には辛いものを受け入れる下地が無かったので、早い時期に伝わったにもかかわらず、その利用法も薬用、防虫、薬味等、限られた範囲だったのです。

 

トウガラシが朝鮮の文献に初めて記載されたのは、李光が1613年に編集した『芝峰類説』の食物部の中にあります。『南蛮椴には大毒がある。倭国からはじめて来たので俗に倭芥子 (わからし)というが、この頃これを植えているのを時々みかける。酒屋では焼酒(焼酎)に加えて売っており、これを飲んで死んだものも多い。』

この文章は反日的色彩が濃いですが、これは秀吉の侵略をうけてから間もない時代の朝鮮人の文書としては当然のことでしょう。 

 

又、トウガラシと言えば、インド料理が思い浮かびますが、インドには、1540年以前にポルトガル経由ルートで、1570年代にフィリピン (ルソン)-マラッカ経由の、二つのルートで伝えられたと言われています。日本にはインドとほぼ同じ時期にトウガラシが入っていたのです。日本には随分と早い時期に到達していたのにはちょっとびっくりです。(ポルトガル人が直接持ってきたのですから、当然といえば当然ですが。)

 

 名前の変遷  プリニウス   フックス      ジェラード       ベスラー    

        Siliquastrum  Siliquastrum   Guinea pepper  Chilli pepper     

ヨーロッパにはドイツの医師、植物学者であるレオンハルト フックス(Leonhart Fuchs1501/1/17 – 1566/5/10)が『 植物誌:Historia Stirpes commentarii insignis 』にSiliquastrum(下図参照)の名で1542年にトウガラシを初めて登場させました。しかし、フックスは、プリニウスがNATURAL HISTORYに記述している植物をトウガラシであると思い込み、そこに記されていた名を使いました。南アメリカから来たことに気づいていなかったのです。それはフックスの後で編纂されたDodoen's Cruydeboeck(レオンハルト フックスの影響を受けた草木本、レンベルト ドドエンス著、フランドルの医師、植物学者1551刊)とHenry Lyteの翻訳(ヘンリーライトによる1554年のレンベルト ドドエンのクルードベックの1575年の翻訳;Cruydeboeck (1551) and Lyte's translation (1557))にもみられ、「熱で乾の3度である」との注意書きが付いています。

クルードベックは肉のソースに良いと推奨し、それが「胃を温める」こと、そして喉の痛み、腺病に良いこと、そしてシミを取り除くことを指摘しました。

ジョン リンドリー(John Lindley , 1799/2/5 -1865/11/1、イギリスの植物学者、園芸家、蘭研究家)が、『 それは、キナの木と組み合わせて使うと、慢性衰弱、栄養不良による痛風, 消化不良、鼓腸, 中耳炎、麻痺等に効果がある。 悪性喉頭炎(重度の喉の痛み、窒息を伴う悪性猩紅熱)に対して、うがい薬として又は服薬として投与する。しかし、その主な用途は痛みの緩和と、筋肉損傷、消炎鎮痛剤として局所的な適用である。1838 』と書き残しています。

  

                           シシトウ                        2021/8/31

シシトウも完熟すると赤くなります。甘く、料理に使うとアクセントになります。

 

 

 主な有効成分     カプサイシン         βカロテン                          

          アドレナリンの分泌を促進     抗ガン作用                           

辛味の主成分はカブサイシンで、果実の胎座 (種子を付着させている部分)で作られ、胃液の分泌を促進して、食欲を促す働きがあります。脂溶性の無色の結晶で、アルコールには溶けやすく冷水にはほとんど溶けません。カプサイシンは摂取すると内臓感覚神経に働き、アドレナリンの分泌を活発にさせ、発汗及び強心作用を促す働きがあります。唐辛子の刺激は胃腸をも刺激し、消化液の分泌を促し消化を進めます。トウガラシにはビタミンCが多く含まれています。風邪の予防や疲労の回復、肌荒れなどにも効果があります。βカロテンは抗発ガン作用や免疫賦活作用があるといわれています。

 

カプサイシンは、痛みと熱を感知するニューロンに作用して、体温で痛みの感覚を教えてくれますが、

 

湿布薬には普通、次のような注意書きが添えられています。「トウガラシエキスは温感刺激を与える事に優れています。これらの総合的な作用により、慢性的な炎症と痛みを緩和します。」成る程その通りなのですが、慢性の症状に継続して使う事は薦められません。当初、消炎作用を発揮していたカプサイシンが翻って炎症作用を引き起こすようになります。又、カプサイシンは、実験的に、癌細胞のミトコンドリアを攻撃することによって細胞を殺すことが示されています。特に関心が集まっているのは、膵臓と前立腺の腫瘍サイズを縮小する能力です。

          

          Fuchs, De Historia Stirpium (1542) : siliquastrum tertium

        “siliquastrum tertium(第三の胡椒)” と左下に書かれています。

 

フックスよりも少し前の、ヒエロニムス ボック (Hieronymus Bock、1498 – 1554/2/21、ドイツの植物学者、医師、ルター派教会の牧師) が、teutschem Pfeffer(ドイツの胡椒)という名前で“Kreutterbuch 1539年刊”にトウガラシを載せていますが、挿絵が入ったのは1546年になってからでした。

 

プリニウスの説明を引用しておきます。

『 LXVI。 私がシリクアストラムとも呼んでいるピペリチス(Piperitis:胡椒)は、てんかんのために飲む。キャスター(アントニウス キャスター:Antonius Casto、1世紀の古代ローマの先駆的な植物学者および薬理学者)はそれについてさらに説明している。茎の節は接近し、赤くて長い茎、月桂樹のような葉、コショウのような味の白い小さな種。歯茎、歯、臭い息、げっぷに効果がある。』

 

これを読んで、フックスはトウガラシをsiliquastrumと判断したのでしょう。

 

「すでに存在する呼称を利用して新大陸の新しい植物の名を付けている」ところに注目です。例えば、月から何か新しいモノを地球に持ち帰った場合、既に地球上にあるモノの名を借りてそのものの名前を付けるといった思惟です。

そんな訳で、(どんな訳かと問われれば、「長い説明を必要とする理由が潜んでいそうです。」と今回はお答えしておきましょう。)伝来当初の日本では南蛮胡椒、その省略形としての蕃椒、高麗胡椒、のちに ”唐辛子” 即ち、”外国から来た辛子” の名が一般化します。イギリス人のジェラードはギニアコショウ――伝搬経由地を引用しました。イタリアでは 1578年に はダルシャンが 「インド コショウ」あるいは 「ブラジル コショウ」と呼んでいました。

フランスは17世紀になってから、ラテン語の pigmentum (染料の意) から、後期ラテン語では 「香料、香辛料」の意味で用いられたpimentを採ります。その他の国でもトウガラシには同じような「借名」現象が見られます。

 

 

  一般名称        学名             原産地           

  トウガラシ    Capsicum annuum L.         中央、南アメリカ          

        

         Capsicum annuum L.  (鷹の爪) 2021/6/29

種を蒔いても播いてもナメクジに食べられやっと3回目にここまで育てた苗。

6月も末になってしまいました。今から育てて実は生ってくれるだろうか。

 

英名はchili pepper(チリ ペッパー)、仏名はpiment commum(ピモン コムム)、伊名ではpeperoncino(ペペロンチーノ)、独名ではPaprika(パプリカ)、中国名では辣椒(ラージャオ)、韓国名では고추(デンチュ)といいます。いずれも ”pepper” 由来の言葉です。“Chilli” はメキシコ中部に住むインディアンの部族、ユト・アステカ語族 ( Uto-Aztecan ) に属するナワトル族がトウガラシを指して言う言葉です。紀元前4,000年からメキシコで栽培され、紀元前7,200年から料理に使用されていました。初期の綴り(chian、kayan、kian)は、南アメリカのトゥピ人 (Tupi) の言語で、彼らはそれをkyinhaと呼んでいました。それが、フランス領ギアナの主要な町であるカイエンヌの名前に同化します。学名のCapsicumはラテン語のcapsa=pod like fruit(鞘状の実)の意。annuumは一年草の意です。

   

             甘長トウガラシ              2021/8/16

 

     

 

トウガラシは、その野性種が未発見のため、原産地を確定することはできませんが、メキシコ中部ラワカン渓谷では、BC6,500 -5,000年代の遺跡からトウガラシが出土しており、ここが発祥地の一つとみられています。また南アメリカ西部のペルー海岸地域では二千年以上昔の多くの遺跡からトウガラシが発掘されていて、ここも古い栽培地の一つであると考えられています。

 

コロンブスが第1回目の航海 (1492-93 ) の際に記した航海誌 『コロンブス航海誌』には、1493//1/15の条に『また彼ら (エスパニョ-ラ島住民) の胡椴であるアヒ (axiおよび agi) も沢山あるが、これは胡椴よりももっと大切な役割を果しており、これなしで食事する者は (遠征したキリスト教徒の中には) 誰もいない。彼らは、非常に健康によいと考えているのである。これは年間カラベル船50隻分を、このエスパニョーラ島から積み出すことができるだろう。』 と記述しています。ここにみえるアヒ (axi) が、アラウカ族の言葉でトウガラシを指す語だと考えられます。 このアヒについては、続いて1493年に行なわれたコロンブスの第2回航海の際に医師として参加したチャンカ博士がセビリヤ市へ送った書簡にも『この地方の島々の住民はその主食は木と草との中間のような作物の根から作ったパンと、さきに述べたアへ (つくね芋、あるいはヤム) という大根のようなものですが、このアへはなかなか滋養のある食料であります。そしてこれの味付けにはアヒというものを香辛料として倣っていますが、魚や、そして肉に、ある時には鳥にも、これをつけて食べます。』と紹介しています。この axi、agiなどがヨーロッパ大陸にもたらされて、スペイン語でトウガラシを指すachiあるいはagi, ajiとなったようです。

  

レオンハルト フックスは、1542年著の本草書『植物誌』(De Historia Stirpium Commentarii Insignes )で、植物について、ディオスコリデス、プリニウス、ガレノスなどギリシャ、ローマの古典に基づいて薬効を説明し、植物の形態に注目して、薬草以外の植物も取り上げ、植物学の確立に貢献した事で知られています。しかし、トウガラシについてはコメントのしようがありません。何とか言ってくれていたら良いのですが。無理を望んでも仕方ありません。いつもとは違う方向から切り込もうと思います。

 

新大陸に1572年から87年まで滞在した、スペイン人宣教師ホセ デ アコスタ(José de Acosta,1540-1600, 博物学者、アメリカ大陸の初期記録者の一人であるスペインのイエズス会士。)が1590年に著したHistoria natural y moral de las Indias『新大陸自然文化史』に『アヒ、または新大陸の胡枚について』と題し、トウガラシについて次のように述べています。

 

Historia natural y moral de las Indiasから、

『西インド諸島では、コショウ、クローブ、シナモン、ナツメグ、生姜などのスパイス、又は珍しい種類のスパイスは見つかりませんでしたが、私たちの会社の1つは多くの旅行をし、さまざまな場所で過ごし、イアマイク島の砂漠で、コショウを見つけたと言うのですが、いまだ確かめられてはおらず、インディーズの間でのこれらの香辛料の取引もないようです。生姜はインディーズからイスパニョーラ島まで運ばれ、今日では手に負えないほどの有り余る量となりその量は倍増しました。

1587年の間に彼らはセビリアに数100kgもの生姜をもたらしました。しかし、神が西インド諸島に与えられた野生のスパイスは、インドではアクシ(Axi)と呼ばれているもので、私たちは征服した島から名付けた言葉でカスティーリャ インド ペッパー(Castill, Indian pepper)と呼んでいる。クスコではUchuと呼ばれ、メキシコの言語ではチリと呼ばれています。この植物はよく知られており、インディアンの間ではそれが育たないところでは商品として非常に高く評価されているようです。

それはペルーのシエール(Sierre)のように寒い土地では育たず、雨の多い暑い土地で産します。このAxiには緑、赤、黄色などのさまざまな色があり、そして燃えるような色のものは非常に鋭くて噛むカリブ(Caribe)と呼ばれ、噛むと非常に刺激のある味がします。又別のものはそれほど鋭くなく、甘く他の果物と同じように食べることのできるものがあります。甘くて口一杯に入れて食べられるものもあります。小さくて、口に入れると、蔚香のような香がするものもあり、とても味がよい。このAxiで、辛いのは葉脈と種だけで、残りの部分はそうではありません。彼らはそれを生のままで、或いは乾かして、丸ごと又は潰して、鍋の中に入れて、ソースにします。このAxiを適度に摂取すると、消化のために胃を助け、楽にしてくれます。しかし、摂取しすぎると、悪影響を及ぼします。何故なら、それ自体は非常に辛く、霧のような浸透性をもつからです。従って、若い人々の健康に悪く、特に精神に影響して肉欲をおこさせます。

そして奇怪なのは、アヒ自身には火がひそんでいることは周知の事実で、入るとき出るときに燃えると誰もが言うにもかかわらず、少なからぬ人びとが、アヒは辛くなくて、爽快で充分おだやかな味だと主張したがることです。

私に言わせれば、胡椴についてもそう言えよう、この点に関しては人びとの経験は異なるまいと思う。だからアヒが極端なほど辛くはないなどというのは、笑止千万である。 アヒを和らげるには塩を使う。これは性質が反対で互いに相手を抑えるため、大いに味を変えてくれるのである。彼らは塩を使ってこのAxiを和らげ、それを修正するための優れた経験によってお互いを和らげます。彼らはまた、冷たくて(冷の性質を持つの意)非常に健康的なトマトを使用しています。果汁がたっぷり入った穀物の一種で、ソースの味が良く、食べても美味しいです。この新大陸の胡椴(アヒ) は、あらゆる地方にあまねく産し、島峡部、ヌエバ エスパニヤ (メキシコ)、ピル (ペルー)、その他発見された全ての地域に見られます。したがって、玉萄黍 (とうもろこし) がパンのための最もふつうな穀物であると同様、アヒはソースや煮物のための最も一般的な香辛料なのです。 』

 

Historia natural y moral de las Indiasの挿絵の一枚、(カリブ海を望む地図)を引用しておきました。絵の下に、『オルテリウス(Abraham Ortelius)の地図の助けを借りて描いた1570年にドレイク(Sir Francis Drake)によって覆われたマゼラン地域の地図』と説明があります。1570年はドレイクが西インド諸島のスペイン船や町を襲う海賊活動を始めた年に当たります。

     

もう一編、トウガラシの情報を手に入れておきましょう。インカの王女とスペイン人との間に生れたガラシラソ デ ラ ベガ(Garcilaso de la Vega、1539/4/12 – 1616/4/23)が、1609年に出版した「インカの生活について」と「ペルーの征服について」の2つのセクションからなる 『 Comentarios Reales de los Incas:インカ帝国史 』の中で、トウガラシについて次のように述べています。『コメンタリオス レアーレス デ ロス インカ』は彼が子供の頃いたクスコで、彼のインカの親戚が語った物語と口述の歴史に基づいて書かれています。

 

Comentarios Reales de los Incasから、

『 私たちが見てきたインカ人はインカの土地と太陽の土地を耕し収穫しました。 彼らはこれらの土地で育った農作物を収穫しました—主なものはスペイン人がアジ(aji)、またはピメントと呼ぶウチュウ(uchu)です—そしてそれらを穀倉と王室の倉庫の両方に保管しました。アコスタ神父が彼の著述、第6巻の第15章で述べているように、彼の家来が収穫のすべてを彼ら自身のために受け取ったので、これはインカによっておくられた主要な貢ぎ物であったということです。』

 

現在の、トウガラシを指す言葉は、当時中央、南アメリカを支配していた“宗主国” がトウガラシの呼称を引き継いでいる事が、・・・・・・・・当たり前のことですが、わかります。

 

スペイン人宣教師ホセ デ アコスタが「トウガラシはとても味がよい」と言ったには、理由があります。「トウガラシのうまさの秘密」;公表されていることなので、秘密でも何でもないですが、・・・・・を見ていただきましょう。

 

日本食品標準成分表2015年版(七訂) アミノ酸成分表、“アスパラギン酸、アルギニン、グルタミン酸等を含む、アミノ酸合計量“ から;生の野菜100g当たりのmg数を抜き出しました。含量の多い野菜から順に取り上げました。

 

落花生 1,3000、枝豆12,000、 そら豆 9,400、グリーンピース 5,700 ここまでは豆類ですから納得ですが、

次から並ぶ面々は少し趣が異なります。

ヨモギ 4,900、 芽キャベツ 4,600、 ニンニク 4,500、 和種なばな 4,200、

モロヘイヤ 4,200、 アサツキ 3,400・・・・・ハーブと言っていいでしょう。 次に唐辛子がきます。これもハーブですが。

ピーマン(果実)3,300、 ピーマン(葉、果実)2,900、シシトウ 1,500と続きます。

いずれも生の野菜のアミノ酸量ですから、乾燥、調理したものは格段にその量は増えます。旨味成分が多いと言われているトマトが570mg、ミニトマトで900mgですから

「唐辛子が旨い」という言葉には納得です。

 

 キッチンカウンターから    唐辛子の辛味と旨味を活かすと料理に         

                幅が出ます。                           

日本でのトウガラシの使い方は、トウガラシの持つ辛味に重点が置かれているように思います。ホセ デ アコスタが言っているように、トウガラシ特有の ”香りと旨味” を利用すると料理が更に美味しくなります。そのためには乾燥唐辛子ではなく、生のそれも青い内のトウガラシを使うことをお薦めします。胎座と種を取り除けば、辛さを気にせずに使うことが出来ます。昔から我が家で作っている唐辛子の簡単、美味しい、日持ちの良い料理を2種御紹介します。アッという間に出来上がります。

  

 

シシトウの甘辛煮は、素材の善し悪しが出る料理です。材料はできるだけ良質のものを選ぶ必要があります。日持ちがいいのでたくさん作っておくと重宝します。シシトウは1/2-1/3に切って水の中で押し洗いすると種が取れて辛味が抜けると共に口当たりの良い仕上がりになります。     

 

絵は取れませんでした。気付いたときは食べてしまったあとでした。来年ということになります。申し訳ないです。(トウガラシ料理の中ではこれが一番おいしいのではないかと思っています。今からでは、どの地域も間に合わないですが、機会があれば一度作ってみてください。)

           ---トウガラシの葉の佃煮---

材料;トウガラシの葉、醤油

トウガラシの葉をよく洗って、水を切って鍋に入れる。火が通ったところで醤油を入れて煮詰める。醤油以外は使いません。トウガラシの実は入ると辛くなるのでなるべく入れません。入ったら入ったでアクセントになるのでそのままにしておきます。鍋の縁が少し焦げる手前まで火を入れます。粗熱を取ってから密閉して保管します。矢鱈日持ちします。おにぎりがお薦め。

 

 


イングリッシュラベンダー

2021年09月23日 | ハーブ

            7  イングリッシュラベンダー

 

イングリッシュラベンダーは、いや、総じてラベンダーは他のハーブと同じように取り扱えない、切り口を変えて切り込まなければならない大きな問題点があります。

 

問題に入る前に;

「ラベンダー」といえば「ヨハネによる福音書 第12章」の中の一シーンが思い浮かびます。何故なら聖書の中の「過越の祭の六日まえに、イエスはベタニヤに行かれた。そこは、イエスが死人の中からよみがえらせたラザロのいた所である。」に続く文言の中の「ナルドの香油」に「ラベンダー」が繋がっていることを思い出すからです。

ギリシャ人はラベンダー(Lavandula latifolia:スパイク ラベンダー)を、シリアの都市(ナアルダ)に由来する名前で「ナルド」と呼んでいました。福音書の中でベタニアのマリアがイエスの足に注いだ「ナルドの香油」は、高価なスパイクナードのオイルではなくラベンダーの香油である可能性があります。ギリシャ人は二つを取り違えていたのです。この頃から既にラベンダーは正しく? 認識されていませんでした。

 

香油には保湿、抗炎症作用があり、長旅でひび割れを起こしたキリストの足の指には適切な処置だったのですが、水蒸気蒸溜法で抽出する「ナルドの香油」はスパイクナードであれ、ラベンダーであれ、当時の精油方法からすれば、賞味期限が短いオイルであったろうと思われます。ベタニヤに「過越の祭」の当日ではなく、6日前に着いた、キリストの足にタイムリーにオイルを塗るには前もって連絡を取っておく必要があります。

ひび割れたキリストの足に香油を塗り、足の指から垂れる香油を自分の髪で拭き取ったマリアはキリストにとって唯の女性であったとは思われません―――このシーンは有名で、いくつもの絵画に写し取られているので、皆様も記憶にあることでしょう―――気になるところです。

Christ in the House of Simon  Dieric Bouts 1440s 画(ディルク ボウツca1410/142 - 1475)

 

お話を戻すと、古代ギリシャ時代から、既にラベンダーは他の植物と取り違えられていたとは驚きです。更に、詳しく調べるとヒポクラテスもテオプラストウスもカトもプリニウスもディオスコリデスも、これまでたくさんのハーブの知識を提供してくれていた人達が、一片の情報すらこのラベンダーに関しては書き残してはくれていないのです。いつも通りの方法ではラベンダーを料理できないようです。どうやってこのラベンダーに切り込んでゆこうか。頭を使わなければならない展開となりました。

 

Tim Upson & Susyn Andrew の ”The Genus Lavandula, 2004.” によれば、ラヴァンドラ属にはラヴァンドラ亜種【ラヴァンドラ節(3種)、デンタータ節(1種)、ストエカス節(3種) 】、ファブリカ亜種【(プテロストエカス節(16種)、スブヌダ節(10種)、カエトスタシス節(2種)、Hasikenses 節(2種) 】、サバウディア亜種【サバウディア節(2種)】の計3亜種(39種)があると言います。それに産地により抽出される精油の成分組成や香り、効能が異なる事から、ラベンダーの同定は困難を極めています。それではどうやってイングリッシュラベンダーの過去を探り出せば良いのでしょう。

                              2021‎/7‎/4‎

 

世の中がどれほど変わっても、イングリッシュラベンダーは穂状の花や葉、茎から芳香を発散させて心の安らぎを提供してくれます。何とかするしかありません。出来るところからイングリッシュラベンダーのお話に突入することにします。

 

 

  一般名称        学名            生息地         

  ラベンダー  Lavandula angustifolia Mill.     地中海地域                         

    Lavandula angustifolia Mill. ( イングリッシュラベンダー )        2021/8/2

花が咲くと根元から数センチのところで刈り込みます。来年の花を咲かせるためなのですが、1ヶ月もするとこのような優しい葉が次から次へと伸びてきます。

 

ラベンダーは交雑種を生みやすく、学名が間違って付けられている場合もあれば、学名が同じものでも違う名称で呼ばれていることもあります。ここでは一般に呼称されているところの、いわゆる「ラベンダー」を取り上げます。

学名Lavandula angustifolia Mill.(Lavandula officinalis)には、イングリッシュラベンダー、ラベンダー、真正ラベンダー、コモンラベンダーの日本名があり、英名では、English Lavenderの他、 True lavender、Garden lavender、Narrow-leaved lavender, Lavandula pyrenaica、 Lavandula spica、Lavandula vera、Common lavenderと呼ばれています。 

ラベンダーの分類に関しては現在も整理の付かない状態で、混乱しています。すっきりと整理が付くにはあと数年はかかるでしょう。ラベンダーはまわりの環境で形態を変化させやすいハーブだから名前と種類がたくさんあります。長い人間とのつきあいの中で今の様になったのです。乱れた状態は数千年前からのことで、さすがの古代の知識人も為すすべがなかったのかも知れません。それに無理をしてでもラベンダーを区別する理由もなかったからです。ラベンダーは精油さえ採れれば種類はさほど問題ではなかったことにも理由があります。しかも、栽培して刈り取り、精油を得るのではなく、野生の、自然に生えているものを採取するだけの作業がつい最近(1930-1940年頃)までなされていたからです。品種にまで注意を向ける存在ではなかったことも一因です。古代に、唯一ラベンダーに触れているディオスコリデスでさえもフランス、スペイン、ポルトガル、イタリア、ギリシャの地中海諸国で自生している Lavandula stoechas, Spanish lavender, French lavender (U.K.) (全て同じ種です) には興味があったようですがその他のラベンダーには言及していません。

 

イングリッシュラベンダーは、地中海に自生し、背丈は低く、花は紫だけではなく白、ピンクがあります。lavandre の語源には様々な説がありますが、中世ラテン語のlavindula 「青みを帯びた、青みがかった」に由来するという説が有力です。英語のlavender は古フランス語のlavandre に由来しています。

種名のangustifoliaはラテン語で「狭い葉」の意で、以前は、薬効のあることからLavandula officinalisとして知られていました。他の種類よりも香りが強く、高温多湿が苦手です。日本では育ちにくいからでしょうか、私は余り見たことがありません。

最近よく目にするのは、赤紫色のウサギの耳のような花を咲かせるフレンチラベンダーです。4枚ほどの苞葉が花穂の先端についており、「ウサギの耳や小さなパイナップルのように見える」と言えばわかるでしょうか。古来よりSTOICHASの名で呼ばれていたのは上で述べたとおりです。

 

 

 

  

 

イングリッシュラベンダーは地中海原産の多年草です。シソ科のラヴァンドラ属に属し、半耐寒性の小低木です。寒さに強いが高温多湿に弱い。鮮やかな紫色の花と芳香が特徴です。高さ1-2mになる常緑低木。古くから香料植物として有名です。茎は灰緑色で4稜があり、葉は対生し、披針形~線形で全縁、厚みがあり、縁は裏側に巻きます。

 

イングリッシュラベンダーに関する情報は1597年刊のジョン ジェラードのGeneral Historie Of Planets辺りまで待たなくてはなりません。厳密にはこれ以前にもあったかも知れませんが、この本を取り上げようと思います。(固執することにさして意味はありません。単に好みの問題です。)“General Historie Of Planets”の583ページにその姿があります。

  

字が判読出来るように画像操作してあります。全体が緑っぽいのはそのせいです。

 

ラベンダーはヨーロッパ人が古くから利用してきたハーブですが、種の判別をする術を持っていなかったのでしょうか、フレンチラベンダーとその他のラベンダーくらいの区別しかしていなかったようで、書物の中にイングリッシュラベンダーの名を見つけることは容易ではありません。名前でイングリッシュラベンダーを見いだせなければ、絵でその存在を確かめるしかありません。恐らくイングリッシュラベンダーであろうという絵がジェラードの時代にまで下ってきてやっと現れました。木版画なので、詳細までは確認できませんが、ページの上にLavander Spike の文字が、絵の上に1. Common Lavanderと2. White floured Lavanderの文字があります。説明文には;

『 1. ラベンダースパイクには、たくさんの木質の硬い枝があり、ほとんどの場合、灌木状に成長し、数多くの灰色の長い葉が対生に付いています。心地よい強い香りがします。 青い色の花が穂状花序(spike fashion)の上部に咲きます。 根は固くて木質です。』とあります。Lavander Spike 或いはSpike Lavanderの名は 花の付き方 ”穂状” に由来している事がわかりました。上のラベンダーは恐らくイングリッシュラベンダーでしょう。続けてジェラードは、

『 2. 二番目は花の色が乳白色で最初の青のものとはこの点で異なります。』

『 3. 私たちのイングリッシュガーデンには、他のラベンダーよりも小さなラベンダーがあり、花は紫色が濃く、短い穂状ですが、素晴らしい香りがします。 葉はまた、通常の種類のものよりも少なく白です。 ホワイトホールにある陛下のプライベートガーデンでは大きく成長すると思います。 これは単にスパイクと呼ばれており、時にラベンダースパイクと呼ばれています。そしてこれを蒸留したものは、広くOleum spicæ (Oil of Spike) またはスパイクのオイルと呼ばれています。』と書いています。

 

先に「イングリッシュラベンダーは、地中海に自生し、背丈は低く、花は紫だけではなく白、ピンクがあります。」と述べたように、絵の2つのラベンダーは同じ種です。この頃はまだハッキリとラベンダーの全体像が把握されていなかったのでしょう。

1596年以前、ジェラードはロンドンのストランド(Strand)とヘルトフォルスディレ(Hertforsdhire)で庭の管理を任され、ホルボーン(Holborn)に自分の庭を持っていました。 イギリス国王ジェームズⅠ世の下、17世紀初頭のロンドンには多くの庭園があり、ロングエーカー(Long Acre)にはジョンパーキンソン、ラルフタギーの庭園が、ホルボーンにはジェラードの庭園が、そしてプリムラ家に従事するエドワードモーガンの庭園がホワイトホールに向かって並んでいました。)ジェームズ1世の母親、ヘンリエッタ マリア オブ フランスが 好んだのがこの白いラベンダーで、ラベンダーの砂糖漬け、ラベンダー水、ラベンダーワイン、ラベンダーオイル、ラベンダーティー と様々な方法でこのラベンダーの香りを愉しんだと言われています。 

 

ここでもう一つ。助っ人を頼みました。1200年代のシチリアの、東西文化の交わる地で刊行された、当時のヨーロッパ最先端の料理書(An Anonymous Al-Andalus Cookbook)からラベンダーに纏わるレシピを引用しました。古代ギリシャ、ローマの文化は帝国崩壊後一旦、西ヨーロッパを離れ、アラブ、イスラムに移ります。再びヨーロッパに、真っ先に戻ったのがシシリーです。古代の文化そのままではありませんが、古代ギリシャ、ローマ文化のおおよその雰囲気くらいは知ることが出来るでしょう。これしか手がないと言うのが本当のところですが。取り上げたレシピはアラブ社会では有名だったようでこの時代のそこらここらの料理書の中に同じものを見ることが出来ます。

 

Sicily's Arabo-Sicula Cuisine (シシリーのアラビア-シシリー料理)

ラベンダーシロップハルハル (Halhal)

ラベンダー1ラトル (ratl= 468g / 1lb) を取り、鍋に入れ、水を被るくらい入れて加熱する。次に、漉してその透明な部分を取り、蜂蜜を1ラトル入れる。シロップになるまで加熱する。これを1 1/2ウキバ(1 uqiya = 39g / 7tsp) 取り、その2倍のお湯で薄めて飲むと、脳と胃をきれいに、体を軽くし、黒胆汁をゆっくりと乾かし、活力が戻ります。元気づけの為の飲み物に適しています。

 

 ( Halhalはラベンダーの意。レセピの中の ”乾かす“の意味は、神秘家ヒルデガルト フォン ビンゲン;1098-1179がラベンダーを、神の啓示と称し、熱で乾の4度と評価した影響です。さしたる意味はありません。四元素説で言えば、冷で寒の性質を持つ黒胆汁気質の者には、熱で乾の性質を持つラベンダーを与え、正常な体液-体質に戻そうという考えです。(ヨーロッパ中世の思考は、生活の全てがキリスト教にどっぷりの状態ですから、呪縛、秘儀、黒魔術・白魔術の世界観の中に浸った状態と言えます。)

 

このレシピは、効果の理由付けは誤っているものの、効果は確かなもののようです。

ラベンダーに含まれる香り成分である水溶性の酢酸リナリルを蜂蜜の中に溶かし込み、ホッコリ感を提供してくれるこの薬湯は様々な症状を和らげてくれることでしょう。ラベンダーの薬効に特別のものはありません。あるのは香り成分の「酢酸リナリル」によるものです。酢酸リナリルは水溶性なので水で煮るとその中に溶け込んでくれます。ラベンダーの香りが精神を安定させ、頭痛、生理痛、筋肉痛、神経痛、腹痛などの痛みを和らげてくれるのです。香りにはまだ理由の説明できない力が眠っているのです。

 

虫除けの目的でラベンダーを使うときは、アルコールにラベンダー成分(リナロール)を溶かして噴霧します。リナロールは脂溶性で水には溶けないからです。

 

主な有効成分       酢酸リナリル    リナロール               

              癒しの香り    防虫効果                     

 

ラヴァンドラ属は、古くから万能薬として利用されており、不安、不穏、不眠、うつ症状、精神安定、鎮痛、胃のむかつき、脱毛、防虫、殺菌などに効果があるとされ、民間療法または伝統療法として使われています。種によって成分組成は異なり、香りだけでなく薬効も異なります。

 

イングリッシュラベンダーは、酢酸リナリル、リナロール、オシメン、テルピネン、酢酸ラバンジル等を葉や茎に含んでいます。(このうち水に解けるのは酢酸リナリルだけです。その他はアルコール、脂に溶けます。)繰り返しになりますが、イングリッシュラベンダーを特徴付けているのは、酢酸リナリルとリナロールを多く含んでいることです。そのため、鎮静作用や神経のバランス作用が強く働く「癒し」の香りと言えます。強い鎮静作用は、神経だけでなく、炎症や火傷を起こした肌にも効果的です。

ラヴァンドラ属の精油は、皮膚への感作性を除けば、比較的安全性の高い精油です。

 

ラベンダーの開花前の花には、リナロールが 80%も含まれていますが、精油を採る為に水蒸気蒸溜したとき、リナロールの半分程度が酢酸リナリルに変化すると言われています。

 

花の咲いた後、地面から10cmのところで切ると1週間目に出てきた新芽

 

 

  栽培           春又は秋に挿し木                     

  

     

---ハニーラベンダーシロップ(約1½カップ分)---

 

蜂蜜1/2カップ、グラニュー糖1/2カップ、水1カップ、新鮮なラベンダーの花大さじ1

蜂蜜、砂糖、水を鍋に入れ、沸騰させ、砂糖が完全に溶けるまで煮ます。 鍋を火から下ろし、ラベンダーを加え、蓋をして30分間浸します。浸したシロップを濾し、ラベンダーを捨てます。シロップは冷蔵庫の密閉容器に入れて最長1ヶ月間保存できます。

 

 


タイム

2021年08月31日 | ハーブ

             6   タイム

 

冬から目覚めたばかりのヨウシュイブキジャコウソウ  2021/3/5                                                             

タイムはこんなに細い茎と、小さな葉の中にチモールという強力な抗菌、消毒作用をもったモノテルペンのフェノール誘導体が含まれています。チモールの効果は強力でも、その作用は刺激が少なく肌に優しい化学物質です。そのためタイムは利用範囲の非常に広いハーブであると言えます。風邪による咳止めや胃のむかつき、皮膚の消毒から、抗菌作用があることから食品の保存、スープの香り付け、石けんの香り付けと、皮膚(外皮)に接する生産物まで幅広く利用されています。

 

イタリアンパセリやローレルと組み合わせた「ブーケガルニ」は、皆様よくご存じの利用方法の一つです。「ブーケガルニ」は日本料理の「お出汁」に当たります。昆布と煮干し、椎茸、鰹節の組み合わせに似て、合わせて使うことも出来るし、料理の最後に加えて、香りを強調することも出来ます。ブーケガルニをお出汁と置き換えると、ハーブがより身近になったと感じられることでしょう。

 

春先には茎だけだったタイムも4ヶ月経つとこんなに大きくなりました。‎2021/7‎/8‎

 

ところで上の写真のタイムは、タイムの主な3つの種;タチジャコウソウ(コモンタイム)、シトラスタイム、ヨウシュイブキジャコウソウ(ワイルドタイム、クリーピングタイム)中のヨウシュイブキジャコウソウに属し、匍匐性(クリーピングタイプ)のものです。Thymus serpyllum L. (タイム セルピルム) が学名です。和名が、ヨウシュイブキジャコウソウ(洋種伊吹麝香草)で、別名がエルフィンタイム。それに英名をそのまま呼んだ、ワイルドタイム、クリーピングタイムがあります。英名では、Breckland thyme、Breckland garden、Creeping thyme、Mother-of-thyme、Wild thyme、 Elfin thymeがあります。「タイムの名前も相当に混迷を深めているな。」とお思いでしょう ?

 

ややこしいお話ですが、イブキジャコウソウはヨウシュイブキジャコウソウと同じイブキジャコウソウに属する種です。イブキジャコウソウ属の下にイブキジャコウソウとヨウシュイブキジャコウソウソウがあります。解説書によっては、イブキジャコウソウがジャコウソウ属に属しているとあるのは、勘違いです。ジャコウソウ属はタイムとは異なる植物です。(属名と種名が同じというケースがあるというのは植物に限らずいろんな場合に見られます)

 

ここでイブキジャコウソウについて述べると、混乱するかも知れませんが、この機会を逃すと” イブキジャコウソウ“ についてお話しする機会がなさそうなので書いておくことにします。

 

東海道新幹線の米原から関ヶ原を過ぎるあたりに、上り車窓左手(北側)に伊吹山が見えてきます。夏を除いて山頂に雪を頂いていることと、高さ(1,377m)以上に偉容を誇る山容ですのですぐにわかる山です。この伊吹山のイブキが和名に付いた植物が数多くあります。イブキジャコウソウの他、イブキアザミ、コイブキアザミ、イブキコゴメグサ、イブキスミレ、イブキトラノオ、イブキフウロ、イブキトリカブト、イブキレイジンソウがあり、伊吹山が唯の山では無いことはこれで想像出来るでしょう。

 

『小倉百人一首』に、『かくとだにえやは伊吹のさしも草さしも知らじな燃ゆる思ひを(恋の熱い思いはさながら伊吹山のもぐさのお灸ようだ『後拾遺集』)藤原実方(生年不詳-没年999/1/3)という歌が納められています。その頃から既に伊吹山はハーブ(オオヨモギ)で有名だった事がわかります。歌のお相手は恐らく清少納言でしょう。この時代に詠まれた歌です。

 

薬草が生えていることと、山岳信仰が結びつくことは容易に考えられます。

伊吹山の神は「伊吹大明神」とも呼ばれ、『古事記』では「牛のような大きな白猪」、『日本書紀』では「大蛇」とされ、室町時代後期には織田信長が、ポルトガル人宣教師フランシスコ・カブラルの希望を聞き入れ、山上に野草園を造らせ、西洋からもってきた薬草3000種類を植えたと伝えられています。

 

遡ると、伊吹山は約3億年前に噴火した海底火山で、地層には約2億5千年前の古生代に海底に堆積した層(サンゴ礁による石灰質の地層)があり、中腹より上部は、古生代二畳紀に形成された石灰岩が分布し、山頂部では、カレンフェルトや巨大な裸出カルストなどのカルスト地形が見られます。ヨーロッパのハーブを生育するには最適の場所だった事がわかります。

 

さて、霊験あらたかなイブキジャコウソウの血を引く ? ヨウシュイブキジャコウソウのお話の始まり始まりです。

 

 

   -般名称            学名         生息地       

ヨウシュイブキジャコウソウ  Thymus serpyllum L. ヨーロッパとアジアの旧北区    

   Thymus serpyllum L. (ヨウシュイブキジャコウソウ)    2021/7/8‎

 

ヨウシュイブキジャコウソウは、木質の茎と直根性の根を持つ匍匐性の矮性常緑低木です。角張った、しなやかな茎の節から根を出し、密生して生えています。葉にはほとんど茎がなく対生に付き、線形の丸い先端をした歯のない縁があります。夏に直立した開花芽をつけます。通常ピンク、白または藤色の花は、管状の萼と不規則な直管の毛深い花冠を持っています。上部の花びらは切り欠きがあり、下部の花びらは2つの側面の花びらよりも大きく、唇弁を形成する3つの平らな突起があります。各花には、4つの突出した雄しべと2つの融合した心皮があります。果実は乾燥した4室から成る分離果です

 

くりかえしになりますが、ヨウシュイブキジャコウソウはシソ科イブキジャコウソウ属 (Thymus) に属する植物です。自生地は薄い土壌であり、砂質土壌のヒース、岩の露頭、丘、土手、道端、川沿いの砂の土手等に生えています。

ヨーロッパ、北アフリカ、アジア北部に自生し、樹高15~40 cmほどの常緑小低木です。タイムは多くの種がケモタイプです。立性と匍匐性の2タイプがあり、5月から8月にかけて、愛らしい花を咲かせます。花が咲く頃に、葉の芳香が強くなります。

 

 

       

 

タイムは古代エジプトではミイラを作成する際の防腐剤として使われていた様です。学名にある“Thymus”は、死体の洗浄や燻蒸に使っていた古代エジプト語の ”タイム” 即ち“tham” または “thm” に由来します。

ギリシャ人は入浴時や神殿で焚く“香”として使っていましたが。ヨーロッパにタイムを広めたのは、部屋を清めるため、更にはチーズやリキュールに芳香ある風味を付けるため、料理に用いるなどタイムを重宝していたローマ人だと考えられます。ギリシャ語の ”thumos” が、ラテン語では ”thymus” になりました。“vulgaris”はラテン語では“common” の意味です。ラテン語 “fumus” は煙、動詞 “thyein” は ”煙らす”、”治癒する”の意で、いずれもタイムから派生した言葉です。

種小名の “ serpyllum” は、“ゆっくり匍匐する”、”ヘビの様に地を這う“の意があり、ヨウシュイブキジャコウソウの姿を表しています。

プリニウスはタイムの花から得られる蜂蜜を次のように愛でています。

『タイム蜂蜜は満月の時に沢山得ることができ、晴天時には濃くなる。 すべての蜂蜜の中で、マストやオリーブオイルのように流れ出す状態のもの(蜂蜜酢)が最も称賛に値する。 夏の蜂蜜は、比較的乾燥した時期に作られているため、すべて赤みがかっている。 タイムのあるところに白い蜂蜜はないが、タイムで作られた蜂蜜は目や潰瘍に最も適していると考えられ、金色で非常に心地よい味がする。 スミレのコクのある蜂蜜やローズマリーの濃厚な蜂蜜は凝縮しているように見えるが、濃厚な蜂蜜はあまり賞賛されてはいない。 タイム蜂蜜は凝縮せず、触れると非常に細い糸を引く。これは質の良い証拠だ。 滴がすぐに壊れて元に戻るのは、品質が悪い証拠と見なされる。 香ばしい香りと甘い味が舌に残り、粘着性があり透明であることも良い蜂蜜の条件だ。』

 

病気の兆候が見られた後、腐蛆病を予防および治療するために使用されている抗生物質オキシテトラサイクリン(テラマイシン)に耐性を持った腐蛆病が既に報告されています。一部養蜂業者はテラマイシンを、蜜を採取する前にも巣箱の中に噴霧しているようです。安価な蜂蜜は特に注意が必要です。

 

プリニウスは更に言を進めます。(一部分、他の内容と重複する文章は割愛しました)

『タイムは開花中に集め、日陰で乾かす必要がある。タイムには2種類ある。どちらも、食物として摂取するか薬に使用するにかかわらず、視力を明るくするのに非常に有益である。慢性の咳にも、酢と塩で舐薬にして摂ると喀痰を和らげる。蜂蜜と一緒に摂取すると血液が凝固するのを防ぐと考えられている。喉の慢性カタル、および胃と腸の愁訴にはマスタードと一緒に外用する。腸に対して収斂性がある。潰瘍化した場合は、1セクスタリウスの酢と蜂蜜にタイムを1デナリウス追加する必要があります。これは、体の側面、肩甲骨の間、または胸の痛みにも同じです。

酢と蜂蜜と一緒に摂取すると心気症を治す、そしてそれは精神の異常または憂鬱の場合にも投与されます。てんかん患者は、発作に襲われると、その匂いによって蘇る。てんかん患者は柔らかいタイムの上で眠るべきだとも言われています。喘息、呼吸困難、月経の遅れにも効果があります。更に、子宮内の胚が死んでいる様なとき、水で3分の1に煮詰めたタイムが役にたつ。又、男性にも役立つことがわかる。鼓腸、腹部や精巣の腫れ、狂いそうな膀胱の痛みに蜂蜜と酢と一緒に摂取する。ワインと一緒に摂ると、腫瘍や炎症を取り除き、酢と一緒に摂るとカルスや疣を取り除く。坐骨神経痛にはワインと一緒に摂る。羊毛に油と一緒にたたいて振りかけ、関節の異常や捻挫に使う。ラードと一緒に火傷に使う。また、酢と蜂蜜3カップ(cyathi)にタイム3オボール(oboli)を入れて関節異常の初期段階で投与する。食欲不振には塩を加えて使用する。』

 

随分と詳しく、多方面にわたってタイムの効用を記しています。これらを現在の「タイム」の知識と比較してみます。(現在のタイムに関する知識は古代ギリシャ・ローマ時代に比べてはるかに貧弱です。)

 

古代ローマ帝国時代の料理書、”アピキウス” から料理書には珍しい医療処方の1つ-ハーブを使った医療処方を御紹介します。1処方の中に10以上の成分が入っていること等からネロに仕えていたローマ在住の医師マルセンス(Marcellus)の処方箋に似ているとの指摘があります。

 

多くの病に効く塩の販売用件

これらのスパイスを入れた塩は、風邪の予防その他、消化不良、害虫、腸の動き、万病に効きます。働きは非常に穏やかで、あなたが思っているよりも効き目があります。

(処方):挽いた普通の塩1ポンド、塩化アンモニウム2ポンド、 挽いたホワイトペッパー3オンス、ジンジャー2オンス、アミネのホップ1 オンス、タイムシード1オンス、セロリシード1オンス)。セロリシードを使いたくないときはパセリ(シード)を3オンス使って下さい。オリガニィ3オンス、サフラン1オンス、ブラックペッパー3オンス、ロケットシード1 1/2オンス、マジョラム2オンス、ナードの葉2オンス、パセリ(シード)2オンス、アニスシード2オンス。

 

 

 主な有効成分       チモール        カルバクロール                                                      

          防腐剤、殺菌剤、駆虫剤      防腐、殺菌剤                  

 

一般に精油成分は地理、気候および遺伝的要因によって大きく変動しますが、タイムの精油の主成分はチモール(36–55%)、p-シメン(15〜28%)、リナロール(4.0–6.5%)、γ-テルピネン(5〜10%)、カルバクロール(1.0ー4.0%)、β-ミルセン(1〜3%)、テルピネン-4-オール(0.2–2.5%)のモノテルペンとその誘導体です。その他にフラボノイド、またロースマリン酸などのタンニンがタイムに含まれています。

 

因みにヴィックスコフドロップ(のど飴)にはチモールを接触水添したdl-メントールとチモールが入っています。

 

HMPC(ハーブ医薬品委員会)は、EUにおけるハーブに関する科学データの編集と評価を担当する欧州医薬品庁(EMA)の委員会です。

(HMPCは第一回のレモンバームのところでも参考意見として取り上げました。世の中を見渡して、今のところ一番真っ当な意見だと思います。)

 

HMPCは少なくとも30年間(EU内で少なくとも15年間を含む)タイムが安全に、有効に使用されたことから、臨床試験のエビデンスが不十分ではあっても、長年の使用に基づいた風邪に伴う胸の咳にタイムは使用できると結論付けています。

(タイムまたは他のシソ科の植物にアレルギーのある患者には、タイムを使用してはなりません。 胃に障害が起きる可能性があります。)

挽いた生のタイム1〜6オンスをシロップと混ぜたものは、毎日飲用する百日咳の安全な治療法として採用されています。 乾燥タイム1オンスを沸騰した1パイントのお湯に加え、砂糖または蜂蜜で甘くしたものも同じ目的で使用され、カタルや喉の痛みの場合にも、1日数回を大さじ1杯以上の用量で与えます。

タイムティーは胃の発酵を止めます。 けいれんや疝痛、風邪の始まりの発汗を促進するのに役立ち、一般的な発熱や熱性の愁訴に効果があります。タイムは一般的に他の治療法と組み合わせて使用します。

 

服用した結果をお話しすれば、1回や数回の適用で効果が現れるものではありません。鎮咳作用を期待して飲んだのですが、効果が現れるまでには2-3ヶ月間続けて服用する必要がありそうです。働きは穏やかですが、何時のまにか直っていたというのが、本当のところです。 

 

プリニウスが唱えている、視力、てんかん、精巣の腫れ、膀胱の痛み、血液凝固、やけど、カルス、疣についての効果については言及がHMPCにはありません。今後の研究が待たれます。

 

イギリスのハーブ研究家モード・グリーブ夫人(Sophia Emma Magdalene Grieve、1858/5/4 –1941/12/20)の著述 “A Modern Herbal 1931” は今も色褪せない内容で我々の心を揺さぶります。その “A Modern Herbal” の中で、彼女は次の文言で “ タイムの使用方法” を語っています。(一部分割愛しました)

 

『香水として、タイムのエッセンスが化粧品や米粉に使用されています。また、死体の防腐処理にも使用されます。』

続けて。『(イギリスでは)ドライフラワーは、リネンを虫から守るために、ラベンダーと同じように使います。タイムは主に、スタッフィング、ソース、ピクルス、シチュー、スープ、ジャグドウサギなどの風味付けに使用します。スペイン人は、オリーブを保存するピクルスにタイムを入れます。タイムとマジョラムのすべての種(シュ)は、石鹸の香り付けとなります。又、乾燥粉砕して匂い袋に入れます。』

 

 

ヨウシュイブキジャコウソウは、ヨーロッパとアジアの旧北区の広い範囲で自生しています。薄層土で生育する植物で、砂質土壌のヒース、岩の露頭、丘、土手、道端、川沿いの土手等で生えているのを見つけることができます。タイムは寒さには強いので、関東以南では防寒対策はほとんど必要ありません。寒さにより地上部が枯れても根は生きていて春になると芽を出します。タイムは肥料が多すぎると香りが薄れるので注意が必要です。花が終わると、株元で切り戻します。タイムは生育旺盛なので根詰まりしないように気をつけます。

            春が過ぎて葉を茂らせ始めたタイム     2021/6/22

 

グリーブ夫人;

『チモールは、内服および外用の両方で使用できる強力な消毒剤です。また、デオドラントや局所麻酔薬としても使用されています。外科用包帯用のガーゼやウールの薬用に広く使用されています。作用は炭酸に似ていますが、傷への刺激が少なく、殺菌作用が大きくなります。したがって、それは包帯手当用品として好ましく、近年、最も広く使用されている消毒剤の1つである。

チモールは、スウィートタイムの香りのよい揮発性エッセンスの本質です。T. vulgarisのオイルには、チモールとカルバクロールがそれぞれ20〜30%含まれています。 ----中略---- カルバクロールはこれまで医学に使用されていませんでしたが、主にカルバクロールからなるオレガノオイルとフェノール自体の防腐特性が調査され、最近ではヨードホルム(カルバクロールのヨウ化物)が使用されています。 湿疹およびその他の皮膚疾患の治療におけるヨードホルムの代わりの消毒剤として。 ----中略----                                                                                                           

チモールは皮膚への刺激が少なく、皮膚や粘膜への局所的な刺激物や麻酔薬として作用します。薬用ローションやうがい薬として使用されます。白癬、湿疹、乾癬、しもやけの破れ、寄生性皮膚および火傷の;軟膏として。ラベンダーで香り付けした軟膏はブナや蚊を寄せ付けません。油性のチモールは、喉頭炎、気管支、百日咳で生じた鼻カタルにたいしてスプレーします。特に猩紅熱に、敗血症性咽頭痛に対して有用です。寄生虫、特に鉤虫を駆除するために、大人にはカプセルで駆虫剤として大量に経口投与され、糖尿病や膀胱カタルにも使用されています。』と続けています。

 

 

カトは説いています

『ブドウの色が変わり始めたら、毎年牛の健康を維持するために薬を与えます。 ヘビの皮を見つけたら、つまんで取っておきます。そうすれば、必要なときにヘビの皮を探す必要がなくなります。 ヘビの皮、スペルト小麦、塩、タイムをワインに浸けて、すべての牛に飲ませます。 牛は夏の間は常にきれいで澄んだ水を飲むことができ、このことは彼らの健康にとって重要です。』

 

学術雑誌Molecules. 2020 Sep; 25(18): 4125. から;

チモール (2-isopropyl-5-methylphenol) とタイムのエッセンシャルオイルはどちらも、主に上気道系の治療上、粘液溶解剤、抗炎症剤、抗ウイルス剤、抗菌剤、および消毒剤として伝統的に使用されてきました。タイムエッセンシャルオイルとチモールという既知の構造の天然植物物質に対する新しい方向性の探求が進められています。新規の研究は、タイムエッセンシャルオイルとチモールの抗バイオフィルム構造体、抗真菌性、抗リシュマニア性(サシチョウバエにより媒介される寄生虫疾患)、抗ウイルス性、および抗癌性の特性についてです。しかも、これらの成分を含むナノカプセルなどの新しい治療用製剤は、医療行為に有益であり、それらの広範な使用の機会を生み出す可能性があります。ヘルスケア分野でのチモールとタイムエッセンシャルオイルの広範な適用は非常に有望でさらなる研究と分析が必要とされています。

 

 

 栽培      春、秋の(15-25℃)に種蒔き、株分け、挿し木、取り木                                          

 

日当たりのよい場所を好むが、強い日差しで温度が上昇しすぎると枯死するので注意。

水はけや風通しのよい場所、弱アルカリ性の土壌で栽培する。乾燥気味の場所がよく、春に刈り込むと、香りの強い若葉が出て美しい姿を保ちます。夏の終わりに、株が木質化するのを抑えるために再度刈り込み、冬前に地際で切り戻し剪定をします。

 

 キッチンカウンターから                               

 

殆ど1年を通じて収穫でき、チモールの強い防腐、抗菌作用が期待でき、加熱しても風味が落ちにくいので、肉類、スープ、シチューの香り付け、煮込み料理などの加熱調理、その他、ソーセージやサラミ、塩漬けの肉などの保存食に用いられます。

タイムの葉は、脂肪の多い食品の分解を助け、消化を促進してくれる効果があり、生でも加熱調理後でもα-アミラーゼ、α-グルコシダーゼに対して、顕著な阻害作用を示すので、糖尿病予防への可能性も示唆されています。

 

 

1ヶ月するとチンキは褐色に変化します。濾過をして密閉保管します。

うがい液には、コップに水を入れ、小さじ1/2のタイムチンキを入れる。

虫刺されに蚊やブヨなどの虫刺されには、スプレー容器などにタイムチンキを希釈して入れておき、蚊に刺された箇所にふきかける。 

ケガをした時には、原液を吹きかける。

鼻づまりには、カップにタイムチンキをたらして、ゆっくりと吸い込む。タイムの香りと成分は呼吸器系に効果的。

 10~20mlをお風呂に入れると、リラックス効果があります。

 

 

 

 


オレガノ

2021年08月10日 | ハーブ

             5   オレガノ

 

         春になって芽を出したばかりのオレガノ   2021/3/30

 

マジョラムにはスイートマジョラム(ノッテドマジョラム)、ポットマジョラム、オレガノの3種類あります。ここではその内のオレガノを主に取り上げています。

オレガノは別名でワイルド マジョラム、コモン マジョラムと呼ばれています。オレガノは古くから様々の地域で使われてきたハーブで、其の分名前は複雑です。植物書を見ているとマジョラムを指すのかそれともオレガノの事を言っているのか判断に迷うことがあります。こういうときは生半可にウジウジしているのではなく「助っ人」を頼むにかぎります。整理の良い植物学者と言えば、何故か評判はよろしくないのですが、ジェラードがいます。ジョン ジェラード著の「ジェラードの本草書、1597」から「オレガノの名前」についての説明を(取りあえず)参考に取り上げました。(彼が生きていた時代は怪しげな占星術師が多数跋扈していましたが、彼なら大丈夫でしょう。内容に気を配りながら以下に引用することにします)

 

『バスタードマジョラムはギリシャ語でオレガノと呼ばれ、Heracleoticum、Origanos Erakleotikonの異名があります。Cunila又は、Origanum Hispanicumとも呼ばれています。スペインではOrgany。我々の英国ではワイルドマジョラムと呼んでいます。ギリシャのディオスコリデス、ガレン、プリニウスはOnitis、或いはAgrioriganum、Sylvestre Origanumと呼んでいる。イタリアではOrigano。フランスではMariolaine bastarde。英国ではOrgany、Bastard Marjoram。即ち、Wild Marjoram、Grove Marjoramはオレガノを指している。』流石!凄い知識量です。そこらじゅうの植物書から寄せ集め、盗用だけの「ジェラードの本草書」と悪口を言う植物学者がいますが、「それならあんたやってみろよ!」と私はいつも思っています。「ジェラードの本草書」には植物に対する気構えが他の植物書とは異なります。

 

古代ギリシャではオレガノをOnitis、或いはAgrioriganum、Sylvestre Origanumと呼称していたとは大きな収穫です。他の本を当たってみても内容に間違いはなさそうです。これからの手掛かりを掴むことが何とか出来ました。これで安心して以降の文章に臨めそうです。それにしても、ギリシャではタイムにギリシャ神話最大の英雄「ヘラクレス」の異名をつけていたとは驚きです。オレガノの薬効にも期待が持てそうです。

         Origanum vulgare ( オレガノ )    ‎2021/6/‎29

オレガノは真冬のごく一時期を除いて、年中葉をつけているハーブです。

バジルのない冬場に、その代わりのハーブとしても、味と香りは全く異なりますが役目を果たしてくれます。肥料は殆ど必要のない、耐寒性のある丈夫なハーブです。誰にでも栽培出来ます。

 

ディオスコリデスは、”3-3. AGRIORIGANOS” で次のように説明しています。

『Wild Marjoram, Organy Origanum sylvestreはoriganumに似た葉を持っているが、細い茎の高さは20cmで、その上にディルに似た房がある。 花は白く、 根は細く頼りない。 葉と花(ワインと一緒に飲む)は、ヘビに噛まれた時に効果がある。 それは万能薬ヘラクレイオン(panaces heraclion:ヘラクレスの万能薬)と呼ばれ、他の人はそれをクニラ(cunila)、そしてニカンドロス コロフォニウス(nicander colophonius.)と呼んでいる。』

 

これで何とかオレガノの呼称については決着が付いたようです。

 

今日のお昼はナポリピッツァ、マリナーラを作ってゆっくりと過ごすことにしました。実のところ、オレガノの名前が一段落してホットしたのです。

捏ねたドウの上にトマトソース(トマトパッサータ)を塗ってオーブンに入れて焼きます。あっさりとしたお味でお腹にもたれません。オレガノは乾燥させても香りに変化はなくかえって匂いが強くなるようです。トマトは勿論のこと、バジルやニンニクとの相性も良く、一緒に使うと味に深みが加わります。マリナーラはチーズをのせないピッツァです。(ブログの最後にレシピをのせて置きます。)味と見た目にメリハリがもう少し欲しいとお思いの方は、アンチョビ或いはオリーブをのせるとbene pizza marinara(上等のマリナーラ)になります。

 

それでは、皆様「ボナペッティ!!」

 

 

 

  -般名称        学名             生育地        

  オレガノ      Origanum vulgare.         地中海沿岸         

                   Origanum vulgare   (オレガノ)   2017/4/23 

Origanumという名前は、古くは北アフリカ由来でしょうが、解っている範囲内で言えば、ギリシャ語の、oros(山)とganos(喜び)に由来し、オレガノが生えている美しい丘の中腹を表します。タイムやフェンネルの学名にも使われている種小名の “vulgari” は “common” の意です。

 

 

 

    

耐寒性があり、日当たりと乾燥を好む。高温多湿を嫌い、蒸れると根元から枯れる。種蒔きは4 - 5月、9 - 10月頃が適期。4 - 5月頃に株分けするか、挿し芽で増やす。日照不足、長雨、肥料過多で香りが薄れます。

 

 

テオプラストスは、

と述べています。

マジョラムは他のハーブに比べて古くから文献に取り上げられており、カト ケンソリウスは ”農業論” の中で、マジョラムの処方を取り上げています。

 

カトの農業論から;

『消化不良と有痛性排尿の治療法には、開花したザクロの花3ミナエ( 0.95lb/mina )を壺に入れる。 古いワイン1クオドラント ( 25.9 litres/quadrantal )、砕いたフェンネルの根1ミナを入れる。容器を密封し、30日後に開いて使う。食べ物を消化して排尿したいときは、好きなだけ自由に飲むことができる。このようにブレンドすると、同じワインで条虫と胃虫を取り除くことができる。患者に夕方の食事を控えるように指示し、翌朝、粉砕した香を1ドラクマ(drachm/3.34g)、ゆでた蜂蜜を1ドラクム、およびワイルドマジョラムのワインを1セクスタリウス( sextarius/ 540.3 ml )を浸漬する。食事前に彼に投与し、子供には、年齢に応じて、3オボルス( obolus/0.57g )と1ヘミナ ( hemina/273ml ) を投与する。 彼には柱を登って10回飛び降りて、歩き回ってもらう。』

 

占星術師ニコラス カルペッパーは、マジョラムをSampsucumとも呼び、『傷や潰瘍をきれいにする。オレガノをローマ人はクニラと呼び、ギリシャ人はHeracleotic marjoramと呼ぶ。塩を加えると目に効く。穀物、油、酢をスープに混ぜると 咳や肝臓の不調、脇腹の痛み、特に蛇の咬傷を和らげる。』と述べています。

 

 

  主な有効成分  カルバクロール     チモール    ロスマリン酸     

              抗菌性      抗真菌作用    抗炎症作用      

カルバクロールは、モノテルペンのフェノール誘導体で、オレガノの特徴的な刺激臭

はこの臭いです。強い抗菌性、抗ウイルス性、駆虫効果があります。

チモールもモノテルペンのフェノール誘導体で歯磨き粉、軟膏、石鹸、駆虫剤、鎮痛外用剤、洗口液等に使われているとおり防腐、殺菌性があります。

ロスマリン酸は抗酸化物質であり、フリーラジカルによって引き起こされる損傷から保護してくれます。

 

政治家カトと占星術師カルペッパーだけの証言では不安ですから、プリニウスの言葉も借りて古代ギリシャ・ローマ時代のオレガノ処方とすることにします。

 

プリニウス

『LXVII. 私が言ったように、野生の味でクニラに匹敵するオレガノは、薬として役立つ品種が多い。 1つは、ヒソップとは異なるオンチスだ。 その特別な用途は、胃痛や消化不良を起こした時に温水で、そしてクモやサソリに刺されたときに白ワイン入れて、捻挫や打撲傷には酢と油と(一緒に)羊毛に浸して適用する。』

 

臨床研究では、オレガノを毎食後に3か月間服用すると、高コレステロール血症の人の低密度リポタンパク質(LDLまたは「悪玉」)コレステロールが減少し、高密度リポタンパク質(HDLまたは「善玉」)コレステロールが増加することが示されています。 (ただし、総コレステロールとトリグリセリドのレベルは影響を受けません。)

オレガノのオイルを6週間摂取すると、寄生虫の(アメーバ性下痢の病原体)ブラストシスチスホミニス、(非病原性の共生寄生虫)エンドリマックスナナを殺すと言われています。

オレガノ抽出物を1日2回、軽度の皮膚手術後最大14日間皮膚に塗布すると、感染のリスクが軽減され、瘢痕が改善されます。

 

これらの薬効はオレガノに含まれているカルバクロール、チモール、ロスマリン酸に依ります。

 

目に対する効果に対して現代医学は答えてはくれていません。古代社会における眼病とは角膜の炎症から白内障までの目の症状の内、どの程度のものを指すのでしょうか。ここで指す眼病とは角膜炎程度の炎症に対してでしょうか。完治したか否かは大いに疑問ですが、白内障は当時外科手術が行われていました。

 

 

オレガノは大量に長期間使用すると肝障害、皮膚刺激性が現れますが、通常の摂取では、心配することはありません。オレガノオイルを摂取したり、大量のオレガノを食べる機会や理由は無いからです。しかし、人間と一緒に暮らす犬や猫は思わぬ行動を取ることがあります。次のような症状が現れたとき、動物のオレガノ中毒を疑ってみてください。

 

 

 

 栽培       4-5月、9-10月に種子、挿し木、葉挿しまたは根の分割        

スイートマジョラムの栽培についてテオプラストスは次のように述べています。

『スイートマジョラムは、引き裂かれた破片(枝)、種子のどちらからでも殖やす事が出来ます。繊細な、香りがよい大量の種子を作るが、それを植えて殖やすこともできます。』と述べています。

又、カトは、

『医師ディオクル ( Diocles of Carystus ; ca. BC375~ca. BC295 ) とシチリアの人々はエジプトでサンプスカムとして知られていた植物をスイートマジョラムと呼んでいた。 それは、種子と枝の挿し木からの2つの方法で殖やす。』と述べています。

 

発芽適温は15℃~20℃で春、秋が適期です。多湿には弱いので適宜、剪定、切り戻し、間引きをして風の通りをよくします。葉は常に収穫ができますが、花が咲いてしまうと香りが弱くなります。株分け、挿し木、葉挿しで殖やします。多肥は葉を枯らすので注意です。

 

 

 キッチンカウンターから  独特の香りはイタリア料理には欠かせません      

花が咲く頃のオレガノは葉も柔らかく、香りも優しいような気がします。 ‎2021‎/‎6‎/‎20‎

スープの中に入れてもトマトの香りと上手く馴染んでくれます。

 

チリの量は手加減をして入れてください。脂肪分がないので諸に効きます。解らない程度に入れるのがミソです。チーズがない時は塩を少量入れて下さい。

 

 

 


フェンネル

2021年07月31日 | ハーブ

                                            4  フェンネル

 

             フェンネル   2021/3/30

 

3月末のフェンネルです。深い鉢に一度種を蒔いて何世代もそのままの状態です。だんだんと細い株になって。「今年こそは植え替えよう」と思いつつもう何年もそのままです。それでも春になると律儀に芽を出してくれます。左の方に茶色く見えるのは4-5年 ? 前の古株。秋の終わりに刈り取るとその横から毎年新しい芽が出てきます。フェンネルは精油などの濃縮された商品を摂らない限り毒性を心配しなくてもいいハーブです。                 

 

四回目にはフェンネルを取り上げました。

ハーブを詳しく知るためには名前を調べることから始めます。Wikiでフェンネルを引くと、「ウイキョウ(茴香、学名: Foeniculum vulgare)は、セリ科ウイキョウ属に分類される、多年生の草本植物である。ウイキョウ属唯一の種で、英語名からフェンネルともよばれている。伝統的なハーブの一つとしても知られ、甘みのある香りと樟脳のような風味があり、古くから香辛料や薬草などとして用いられ、栽培も行われてきた。」と出てきます。これは手ごわそうです。何故なら、たった4-5行の中にフェンネルの名が3つ、それに「古くから栽培もされてきた」とあるからです。聖書の中にも登場するかも知れません。調べて見ました。残念。見あたりません。フェンネルによく似たディルは、出てくるのですが。(二つを混同しているだけではなく、何か理由があるのかも知れません。)

 

マタイによる福音書23.23には、

『偽善な律法学者、パリサイ人たちよ。あなたがたは、わざわいである。はっか、いのんど、クミンなどの薬味の十分の一を宮に納めておりながら、律法の中でもっと重要な、公平とあわれみと忠実とを見のがしている。それもしなければならないが、これも見のがしてはならない。』とあり、『いのんど』はディルのことで、これで税の一部を払っていたようです。

 

生活に密着しているハーブは、地域によって、時代によって様々な名前が付けられています。現在の名前とは全く異なる名が付いていることもあります。そこで一番頼りになる手掛かりは学名です。

名前がわかったら、古い文書の中に、どのような取り上げられ方をしているのか時代順に調べていきます。ヒットすれば最高に幸せな気分になります。紀元前の本の中にその名前を見つけたら其れこそ天にも昇る気分です。フェンネルは地中海沿岸が原産です。古代エジプトや古代ローマで栽培され、現在は世界各地で植えられています。フェンネルは様々に名前を変えたハーブの一つです。

 

原産地の地中海沿岸では、古代ギリシャ人が空腹を抑えるためにフェンネルの実を食べ、古代ローマ人は野菜としてその実、蕾、花、葉、茎を食べていました。フェンネルの果実は8-10月に、果実の表面が緑色から黄色に変わって縦縞の線が現れてきたものを収穫、乾燥保存します。

                               2021/7/28

3月の末ではまだ新芽を出したばかりだったフェンネルが7月の末には実(果実)をつけるまで大きくなりました。果実はまだ緑色ですが、縦縞の線が入り始めました。咬むと独特の甘みが口の中に広がります。

 

 

   -般名称        学名           原産地       

    フェンネル   Foeniculum vulgare Mill     地中海沿岸       

         Foeniculum vulgare Mill( フェンネル) 2021/7/1

 

別名、Fenkel, Sweet Fennel, Wild Fennel、セリ科のウイキョウ属に属する多年生の草本植物。草丈は1 m~2 m。 花は目を惹く鮮やかな黄色で、古代ローマでは料理のデコレーションにも使われていました。

 

 

              

生息地;地中海沿岸。古代ローマ人は、フェンネルの葉が乾燥すると干し草に似ているところからフェンネルをラテン語で(foenum:干し草)に由来するfoeniculumの名で呼んでいました。(属名になっています。)後に、foeniculumが訛って古英語ではfenol / finolになりました。古代ギリシャではフェンネルをMarathronと呼んでいます。「エッ!」とお思いでしょうが、「マラソン」の名は、BC 450/9/12に、アテナイの名将ミルティアデスがマラソンに上陸したペルシャの大軍を奇策で撃退した“マラソンの戦い”を思い起こさせます。この地には、「フェンネルがいっぱい」生えていたらしく、それで昔からこの町を(古代ギリシャ語で)マラソン(μάραθον)またはマラトス(μάραθος:marathos)と呼んでいました。”Marathron” は “フェンネルでいっぱい” の意です。

              

れる事になった。その結果、フェンネルの汁は、特に人間の眼のかすみをも取り除くことができると推測されている。この汁は、茎が膨らんで芽を出すときに集め、天日で乾燥して、蜂蜜と混ぜて軟膏として塗布する。最も質が良いものは、流れ出る雫を集めたスペイン産で、それは、新鮮な種子と発芽が始まったときに根を切って集めたものだ。』と述べています。

 

 

 主な有効成分   アネトール      フィトエストロゲン   ルテオリン                                                    

        平滑筋弛緩、抗炎症性   エストロゲン効果    抗酸化作用                                              

フェンネルの精油には、アネトール(又はアネソール)が多く含まれ、アニスアルデヒド、モノペルペンであるリモネン、ピネン、ミルセン、フェンコン、チャビコール、1-8シネオールが含まれています。

果実には、モノペルペンであるフェンコン、α-ピネン、カンフェン、フラボノイドのケンペロール、ケルセチンが含まれています。精油は3~8%含まれ、その内、アネトールが50-60%、レモン臭のするdl-リモネンも含まれています。

 

フェンネルの精油に含まれるアネトールは平滑筋を弛緩し、抗炎症性、弱い抗菌性があるため、咳止め、去痰剤として使用し、痙攣性の胃腸、風邪の咳に効果があります。ルテオリンは、抗酸化物質活性、炭化水素代謝の促進、免疫系の調整、2型糖尿病の治療等の作用を持つ可能性が示されています。エストラゴールは多量に摂ると発癌性や遺伝毒性があると考えられています。

フェンネルの果実には(草食動物の過剰繁殖に対抗するため雄の妊性をコントロールする自然の防御システムの役割としての)フィトエストロゲンが含まれており、女性の更年期障害のほてり、不眠、不安の症状の改善に効果があるとの報告があります。

このような、植物が自家防衛のために産生した物質を使う時には細心の注意が必要です。フィトエストロゲンについては後でもう少し詳しく述べます。

 

       6-7月になると花を付けます。    2019/6/19

 

GBIF(地球規模生物多様性情報機構)が提唱するフェンネルの効用は次の通りです。

『潰した葉の汁は尿機能、尿路感染症を改善します。果実は、催乳薬、胃腸薬として又、果実に含まれるオイルは、鼓腸、胃腸の治療成分です。水に一晩浸したフェンネルシードの水抽出物を摂ると、解熱、去痰、鼓腸、咳、吐き気、嘔吐に効果があります。沸騰したお湯に浸して冷やしたお茶は、疝痛や消化不良の赤ちゃんに与えられます。半熟のベルノキ(Aegle marmelos)の果実と一緒に粉砕したフェンネルは、消化不良と下痢に効果があります。フェンネルと砂糖の等量混ぜた飲み物は目の感染症の治療薬として就寝時に摂ります。』

 

ディオスコリデスの解説は『根を細かく砕いて蜂蜜と混ぜたものは犬の咬傷を癒す。』というくだりを除いてGBIFと同じです。古来、狂犬病は恐ろしい、何としてでも逃れたい疫病でした。Dog roseの例を引き合いに出すまでもなく、「犬」の名の付く薬草は藁にもすがる思いで付けた狂犬病治療薬です。フェンネルにも同じ思いが投影されたのでしょう。

 

EMAはフェンネルの使用に当たって次のコメントを出しています。

フェンネルの果実(フェンネルの種、正確には果実)については現在の科学的方法では十分に調査されていませんが、伝統的に次の3つの目的で使用されてきました。

  1. 腹部膨満や鼓腸を含む軽度のけいれん性胃腸の愁訴の対症療法。
  2. 月経期間に関連する軽度のけいれんの対症療法。
  3. 風邪に伴う咳の去痰薬として。

 

フェンネルの水溶液はカスミ目、視力の回復に効果があることは、ディオスコリデスだけでなく、古代ギリシャ時代からずーっと言われてきたことです。

EMAは目には触れていませんが、GBIFは目の感染症に効果があると述べています。

フェンネルの水溶液に含まれる何が目に影響を与えるのでしょうか。網膜細胞にやさしいビタミン類でしょうか、それとも平滑筋弛緩作用、抗炎症作用でしょうか。いずれにしても詳細は今後の研究にかかっています。

 

栽培              春に種を直まき                          

フェンネルは直根性のため移植を嫌うので、できるだけ植え替えをしないように種を直まきします。日当たりと水はけの良い場所に元肥を入れて株間50cmで植え付けます。また周囲にパクチーなど同じセリ科のハーブ類がない場所を選びます。

 

 用途    クールドリンク    ワインカクテル      軟膏                   

フェンネルのカクテルは、フェンネルのシロップ作りから始めます。普通、これにリレ ブラン、或いはペイショーズ ビターズ等を入れてカクテルを作るのですが、リレ ブランにフェンネルシロップを入れると非常に甘くなるのでウオッカで薄める(?)と飲みやすくなります。体内に入れたアルコールの量をコントロールできる者のみが飲むことの出来る、大人の飲み物です。

 

 フェンネルは、4歳未満の子供への使用に関する十分な情報がなく、子供への使用は推奨できません。フェンネルの投与量とその頻度は、目的にもよりますが、一般に1日3〜4回の服用、1〜2週間以内に止めておく必要があります。フェンネルには多くの成分が特定されていますが、各成分の作用を正確に把握できていません。又、成分間の作用に関する情報は十分ではありません。限られたフェンネルの臨床試験と、伝統的な薬用例から、(フェンネルから単離された成分に関する研究では、)「フェンネルのいくつかの成分が一緒に作用してそれらの効果をもたらす。」と考えられています。

妊娠中または授乳中のフェンネルの効果を調べるテストは行われていないため、一般的な予防策として、妊娠中または授乳中の女性は使用しないでください。

 

プリニウス (AD 23/24 – 79) が『博物誌』を書く際に参考にしたと言われているカト(Marcus Porcius Cato , BC234-BC149)の『農業論』の中に次のようなくだりがあります。

 

『牛やその他の四足動物が蛇に噛まれたときは、フェンネルの花1アセタビュラム(acetabulum/68g) を、これは医師がスミルナエウム( Smyrnium olusatrum. セリ科. 二年草)と呼ぶもので古いワイン1ヘミナ ( hemina/273ml ) の中に入れる。 鼻孔を通して投与し、傷には豚の糞を使う。 要に応じて人も同じように手当する。

消化不良と有痛性排尿の治療法には、開花したザクロの花を3ミナ(mina/436.6g)集めて壺に入れる。古いワインを 1クオドランタル ( quadrantal/25.9 litres )、きれいに砕いたフェンネルの根1ミナを入れて密封し、30日後に使用する。食べ物を消化して排尿したいときは、好きなだけ自由に飲むことができる。このようにブレンドしたワインで条虫と胃虫を取り除くことができる。患者には夕方の食事を控えるように命じ、翌朝、粉砕した香料1ドラム ( drachm/4.3g )、ボイルした蜂蜜1ドラム、ワイルドマジョラムを1セクスタリウス ( sextarius/546ml ) のワインに漬ける。大人には食事前に投与し、子供には、年齢に応じて、1トリオボルス ( triobolus/2.16g ) と1ヘミナを投与する。柱に登らせて飛び降りることを10回繰り返し、歩き回らせる。』と述べています。

 

フィトエストロゲンについて;

植物は、牝の動物の出産を制御することにより、草食動物の過密に対する自然防御の一部として植物エストロゲンを使用するという説があります。

動物の雌に多く分泌されるエストロゲンと植物エストロゲンの分子レベルでの類似性により、穏やかにエストロゲン様作用を発揮したり、時にはエストロゲンに拮抗して作用することがあります。 植物エストロゲンは1926年に発見され、 1940年代から1950年代にかけて、自家受粉する地下クローバー(Trifolium subterraneum)とレッドクローバー(Trifolium pratense、ムラサキツメクサ、植物エストロゲンが豊富な植物)の牧草地が放牧羊の繁殖力に悪影響を及ぼしていることが明らかになりました。

 

レッドクローバーはフィトエストロゲン量が特に多く、栄養補助食品から得られた抽出物では、発疹のような反応、筋肉痛、頭痛、吐き気、女性の膣からの出血、および遅い血液凝固を引き起こす可能性がみられました。レッドクローバーには、植物エストロゲンであるクメストロールが含まれています。エストロゲン受容体に対する活性のため、レッドクローバーは、乳がん、子宮内膜症、卵巣がん、子宮がんの病歴のある人には禁忌です。咳止めや口内炎の痛み止めに効き、服用すると気管支炎、湿疹、外傷、瘰癧(るいれき)に対する治療効果があるとされ、うがい薬としても使用しています。その花はしばしばゼリーやチザンを作るために使用され、エッシアックレシピで使用されます。それらのエッセンシャルオイルは、独特の香りをアロマテラピーに使っています。

 

アメリカ国立生物工学情報センター(アメリカ合衆国の国立衛生研究所下にある国立医学図書館の一部門) May 17, 2021. 改訂にフェンネルの情報がありましたので一部分引用しておきます。

授乳中の摂取について;

フェンネル(Foeniculum vulgare)の種子には、主に植物エストロゲンであるアネトールと、フェンコン、エストラゴール、1,8-シネオール(ユーカリプトール)などの成分で構成される揮発性オイルが含まれています。アネトールは母乳に排泄されます。フェンネルは催乳薬と称されており、母乳の出が良くなるとの宣伝のもとに、いくつかの製品に混入されています。

 

食品医薬品局(FDA); 幼児の疝痛の治療のために、単独で、又は他のハーブと一緒に安全かつ効果的に使用されているため、母乳には少量含まれるだけなので通常の母体投与では有害ではない可能性があります。一部には、治療期間を2週間に制限することを推奨しています。フェンネル、アニス、その他のハーブを含むハーブティーを母親が過度に使用すると、母乳で育てられた2人の新生児に毒性が生じました。フェンネルとアニスに見られるアネトールによる毒性と一致していました。

 

フェンネルは、経口または局所使用後に、光線過敏症を含む呼吸器系または皮膚に影響を与えるアレルギー反応を引き起こす可能性があります。下痢と肝腫大は、フェンネル、フェヌグリーク、ガレガ(フレンチライラック、イタリアンフィッチ、マメ科、マメ亜科の催乳薬)、フェンネルを含むマザーズミルクティーバッグ(母乳用ハーブティーとして市場に出回っている)を飲んでいる別の女性で肝酵素の上昇が起こった。このハーブを使用している間、過度の日光や紫外線への露出を避けてください。母親は、交差アレルギー※の可能性があるため、ニンジン、セロリ、またはセリ科の他の植物にアレルギーがある場合は、フェンネルを避ける必要があります。

 

交差アレルギー※

口腔アレルギーを例に取ると;

リンゴやメロン、バナナなどを食べて、口の中がかゆくなったり、蕁麻疹が出たり、花粉症と同じような眼のかみゆやくしゃみ、鼻水などを経験することがあります。果物や野菜の中には、花粉症の原因となる物質と同じものが含まれる場合があり、それらを食べると、花粉と同じ抗原だと勘違いして、アレルギー症状が出ることがあります。唇の腫れ、口の中の痒み、腫れ、くしゃみ、目のかゆみなどの症状です。ひどい時には、吐き気、腹痛、また喘息のある方の場合は、呼吸困難、いわゆるアナフィラキシー状態でショック死することがあります。

ブタクサアレルギーの場合;ウリ科の野菜:メロン、スイカ、きゅうり、バナナなど

ヨモギアレルギーの場合:セリ科の野菜:キウイ、ピーナツ、ニンジン、 セロリ 、りんご、パセリ など、スギ、ヒノキアレルギーの場合:トマトなど、これらを交差アレルギーと言います。

 

フェンネルの根を使ったレシピは、この書物がヨーロッパの混沌期に書かれたことから引用することを少し躊躇われたのですが。ケネルム ディグビー卿(1603-1665、英国の廷臣、外交官)が著した“The Closet of Sir Kenelm Digby Knight Opened. 1669”から、フェンネルの果実と根を使ったレシピを取り上げました。ディグビーはメセグリン(蜂蜜酒)のレシピに異常な程の情熱をかけており、これを無視することが出来なかったからです。

 

『女性の(腎)疝痛と石(腎臓結石)のための蜂蜜酒

蜂蜜1ガロン、水7ガロンを沸騰して漉す。ペリトリーオブザウオール(Parietaria Officinalis )、サキシフラージュ(Pimpinella saxifraga)、ベトニー (Stachys Officinalis)、パセリ、ノボロギク、それぞれ一握り、パセリの種子、ネトル、フェンネル、キャラウェイシード、アニスシード、グルメルシード(Purple Gromwell Seeds, Lithospermum Officinale,の誤り?)各2オンスを用意する。 パセリ、アレクサンダー、フェンネル、マロウの小さく切った根、各2オンスを酒が3ガロンになるまでボイルする。次に、火から外し、冷えるまで放置する。漉してきれいな容器に入れて、ナツメグ4つ、ジンジャー1 1/2オンス、半シナモン1/2オンス、クローブ12を細かく切って袋に入れ、容器の中に吊す。二週間経つと毎朝飲むことが出来る。』

 

彼は、フェンネルの果実と根を使い分けています。ディグビーは数えきれないほどの蜂蜜酒のレシピを書き残しました。今となってはフェンネルの果実と根の使い分けの理由を聞き出すことはできませんが、尋ねることが適えば彼は必ずや 『根と果実はその働きが異なる。』と滔々と説明を始める事でしょう。

 

 

 キッチンカウンターから      フェンネルのペスト スープ                    

 

6月、鉢に植えたバジルの葉は既にペスト ジェノヴェーゼにして食べ尽くしてしまいました。再び食べられるくらいに大きくなるには時間がかかりそうです。傍らには、フェンネルの葉が勢いよく茂っています。バジルの代わりにフェンネルを使ってペストを作ろうと思い立ちました。「木の実はやはり松の実がいいかな。」とか・・・・・・・・・いろいろ考えたその結果、ハーブを代えただけで、残りのレシピはバジルのペストと同じになりましたが、フェンネル特有のムッとした青臭さはチーズとオイルにかき消されて、(少しはしますが、)。バジルの葉が大きくなるまでの代役にしては、味も色もOK。同じように、春先には、春菊の若芽を使ってペストにすると春の息吹を感じることが出来ます。春の青臭さと苦味が、大人の味。お薦めです。

 

 

加熱時間にも依りますが、少しドロッとした感じに仕上がります。お好みで水の量を調整してください。ジャガイモや生クリーム中心のスープではなく、ニンジン主体のスープにしました。しかし、ニンジン臭さのない、フェンネル臭さのない、オリーブが程よい味を醸し出すスープになりました。

 

素敵なリキュールグラスで1ショット。ハーブの息吹をお楽しみ下さい。(少量でもかなり来ます。飲む量には注意してください。)

 

 


サンドライトマトを作る

2021年07月22日 | ハーブ

サンドライトマト

 

暑いですね。こんな時は暑さを利用してドライトマトを作ります。バットの上に半切りにしたチェリートマトを置いて、塩を振りかけて2-3日。太陽の下に置いておくと、3日程経つと急に赤くなって美味しそうなドライトマトが出来上がります。110-120℃のオーブンに入れて1時間位加熱するのも良いけれど、こっちの方が部屋も暑くならないし、香りのよいドライトマトが出来ます。

1日目のトマト

2日目のトマト。よく見ると少し縮んでいます。

3日目のトマト。3日目になると急に赤くなります。指で触ってみて硬さを確かめます。

食べた時の触感を想像して、もっと干すかどうかを決めます。(今回はオイルに付けて2-3か月で食べきる目的で作りました。湯で戻さなければならないほどに乾燥させると日持ちはいいのですが、食感と香りが減退します。)

120個ほどのトマトがこんな量になってしまいました。160ml入りのビンに2本。それも瓶の中に80%ほどしか入っていません。これを冷蔵庫で保存します。量が少ないのでその必要もないのですが、このほうが安心して食べることができます。オリーブオイルに対して等量のヒマワリ油を混ぜて瓶に入れます。こうするとオリーブオイルが変質せずにおいしく頂けます。

 

サラダやサンドイッチに使うと味が濃縮しているサンドライトマトはとても美味しいですが、サンドライトマトをつかったレシピを一つ御紹介しておきます。イタリアのレシピの良いところを取って作り直しました。

 

    ----スパゲッティのドライトマトミスコラール(2人分)----

 

ドライトマトのオイル漬け    8-10個

バージンオリーブオイル     30ml

ベーコン            20g

ガーリック           1片

パセリ             1枝

スパゲッティ          160g

塩                15g

 

トマトをオイルから出して粗切りしてボールに入れます。刻んだベーコンを炒めてトマトと混ぜます。このときパセリの葉も刻んで混ぜておきます。オイルを鍋に入れて粗切りしたガーリックとパセリの枝をゆっくりと炒めます。オイルの中にガーリックとパセリの味と香りを溶け込ませます。パスタを濃いめの塩水で茹で、取り出す直前に、ガーリックとパセリを取り除いた鍋にレードル約半分のゆで汁を加えて加熱します。水気を切ったパスタを鍋に入れ、強火にしてかき回します。油の乳化作用を利用してパスタにガーリックオイルのコクをまとわりつかせます。トマトとベーコン、刻んだパセリの葉を入れたボールに入れて混ぜ、お皿に盛るとできあがりです。