直人が某ブランドの香水のキャラクターになっていたこと、ロックの大御所・西園寺勝輝のミュージックビデオに役者として出演していたこと…
「カッコ良かった?」
「なんだ、お前、まだ見てないのか。カッコ良かったぞ。黒い真っ直ぐな髪なびかせちゃったりしてさ」
あれなら男の子にもウケるんじゃないかな…の言葉に、二人はこの日初めて大笑いした。
しかし、それで父は諒のことを思い出してしまったらしく、困った顔で、
「あれから諒くんとは話とかしてるのか?」
麻也は少し答えに困った。どうにか、
「次の曲を書くことになりそうだって言ってたよ」
麻也は今回の事件の真の原因を、当然両親には話していない。麻也のかつてのあの「事件」を知っているのは、恭一と諒と、きっと真樹だけだ。
諒は麻也の病室を訪れ続けていた。
迷惑だったら言ってね、と本来ならば言うべきなのだろうが、諒はあえて言わなかった。
言ってしまえば2人のこの微妙な関係が崩れてしまうようで…
そのことには触れず、ベッドの脇の椅子に座って、麻也の手を優しく取った。
この日はまだ10日目だというのに、諒は麻也の手を強く握ると、
「ごめん、麻也さん。俺100日ここに通うつもりだったんだけど…」
「えっ…?」
麻也の顔がみるみる曇る。それを見て諒は少しほっとしながらも…自分もちょっと涙目なのを感じている。
どう切り出したものか…
「いい話だよ。あのね、その、俺が最初に話していいか分からないんだけど…実は俺たちに、ディスグラに、東京ドームでやらないかっていう話が来てるのね…」
「えっ?」
麻也は驚いて諒の顔を見つめるばかりだった。
そして、やっと、
「えっ? 東京ドーム?」
そして暗い表情になると、
「…何でそんな名誉なことが? 俺がみんなに迷惑かけてるのに…」
諒が長くなりそうな説明に口ごもった時に、麻也はかすかな声で呟いた。