「俺がこんな騒ぎを起こしたのに…」
慌てて諒は、
「いやそれは、その…麻也さんが入院したってことは問題にならないんだ。気にしないで」
「いやそんなこと…」
「いや本当にそれは大丈夫なの。
ただ時間があまりになさすぎるから今から俺達メンバーも動かなきゃいけないって言われたんだ」
「で、ライブはいつ?」
「来年のバレンタインデー」
「はあ?」
そこで諒はいいことを思いついて、含み笑いをしてしまった。
「うふ、俺は発想の転換って感じ。麻也さんのこの部屋から仕事に通…いや麻也さんがやるって言わなければドームの話はなくなるよ」
急だし、夢みたいで…
諒も混乱しているが、麻也はそれ以上に混乱しているようだった。
「何でまた急にドームなの?」
「棚ぼたなの…」
諒はちょっとかわいこぶって言ってみた。
「たなぼた?」
少し麻也の様子が柔らかくなった。
諒は少しほっとして、
「最初はね、ある外タレバンドがやるはずだったんだって。でもできなくなって、西園寺さんに話がきたんだ」
ところが、西園寺ほどの大御所になるとスケジュールもセットも何もかも間に合わず…
「…周囲の人と話し合って、若手に譲ろうってことになって、それで俺たちを指名してくれたの」
麻也は口をあんぐりと開けたままだ。
「なぜ…?」
「俺たちをかってくれたんじゃない? 直人は、すごく気に入られてるって話だし」
そして麻也の反論を閉じ込めるように、
「西園寺さんは、何を言われても、実力あるんだから気にするな、って言われたんだって」
「…実力か…」
麻也の繰り返したその言葉の重さが心配になって諒は、
「みんなが心配しているのは、やっぱり麻也さんの体だけだから。もちろん気持ちと言うか、心の健康状態も。ただドームは…」
そこで諒は泣けてきた。
「…でも麻也さんが連れてきてくれたドームなんだから、俺が最初に報告できて良かったとは思う…」
そう言いながらも、どう言うのが正解なのか、どう決定するのが正解なのか諒にはわからなくなっていた。
本当は麻也をドームに立たせたいが…
するとようやく麻也が、
「諒が手伝ってくれるなら」
かすかな笑みを浮かべ諒を見てくれた。その表情は諒が愛らしいと思えるものだった。
しかし、麻也はすぐに困ったように目を伏せた。
諒は驚きとまどって、でも嬉しくなって思わず麻也の腕を掴んでしまった。
「俺が手伝えるようなこと?嬉しいな」