無理を重ねさせるのも嫌だったし、今の麻也は体が気持ちに付いてこないだろう。
「すぐに準備は始めなきゃいけないが…」
社長はうつむいてそう言った。
諒はすぐに、
「まずは俺から取材とか受け始めるから麻也さんはあまり気にしないで休んでて」
と言って諒はしまったと思った。
(これじゃあドームを引き受けるって言ってるようなものじゃん…)
しかし麻也ははにかんだような可愛い表情を浮かべると、窓の外に一瞬目をやり、それからみんなに、
「…やらせてください…お願いします」
と社長達に向かって頭を下げた。
これにはみんな嬉しくも驚いていてようやく、社長が、
「いいのか、麻也?」
須藤は、
「麻也さん、体の方は? 先生は今のところ何て言ってるんですか?」
「…それはこれから訊いてみます…」
諒の恋人としての部分が不安を覚えた。まあミュージシャンとしての部分は、喜びを感じていたが…
「そんなことでいいの…?」
「だってドームのことはさっき諒から聞いたばかりだし…」
人前ということもあるだろうが、こんなにほわんとした可愛いまやの笑顔と笑い声は久しぶりで、諒はすぐに胸を突かれて笑えなくなった。
涙が溢れてしまいそれを皆に見られた諒はそれをドーム決定のせいにしたというか、せずにはいられなかった。
諒も当然そこでドームに立つと宣言したが、社長たちはもうすでに真樹と直人の宣言は受けていたということで、 ディスグラは最初の東京ドームに立つことと、ずっとドームのアーティストであり続けることを誓うことになったのだった。
となると諒は、ドーム発表を伏せたまま翌日から取材を受けることになってしまう
今回のこの事件も、同居人として色々尋ねられるだろうし…
しかし諒は、
「でも麻也さんには毎日会いに来るからね」
「いいよ諒。そんなの無理だよ」
確かにそうだ。
しかし諒の困った表情を見た麻也はこの場を収めるべく、
「俺、いつもの病院、近所に転院できないか相談してみます」
すると社長は乗り気で、
「それはありがたいな」
麻也も調子に乗って、
「でも、いっそダメ元で自宅に戻っていいですかって聞いちゃおうかな」
それはちょっと…と諒も含めて皆がざわつく。
「俺が仕事出てる時に、麻也さんをひとりにするわけにはいかないもの…」
すると鈴木が、
「もし麻也さんがマンションに戻るというなら一人の時間はずっと僕が付き添いますよ。何なら住み込んじゃおうかな」
すると今度は社長が、
「何なら俺の家でもいいぞ」
「あ…考えます…」
「何だよ、それ…」
諒が何か言いたそうなのを我慢しているのが目に入って、麻也は楽しい雰囲気を壊さないようにしているようだった。
「とりあえず後で先生に相談してみます」
と麻也は答えた。
「うん、訊いてみてくれ。今日は疲れさせてごめんな」
と、社長たちはそれ以上の話はせず、引き上げていった。