蚤の心臓

先のショートホールで誰もニアピンが出ず、ニアピンの持ち越し二階建てホール。
一番バッターの有様のボールが、グリーンの中央部にナイスオンした。ニヤリ。

「もう少し奥を狙ったんだがなあ５mは有るなあ!」とか言って、喜びを隠す。
「さあ、お前らの番だ。これ以上近づけるなよ、頼むぜ!」と心の中で祈る。

二番手がショットする。スライスしている。
「乗るな ! 近づくな ! バンカーに入ってしまえ!」と人の不幸を祈る。

皆さんは如何ですか? こんな時は皆考えることは一緒なんでしょうね?
「もっと近くに寄れ!」とは祈らないでしょう?

３人目が打つが、少し飛距離が足らず、ショートして乗らず。
有様の顔の筋肉が思わず「ニヤッ」と緩んでくるのを隠すのに苦労する。

あと一人ぢゃ。彼の実力からは多分乗らないだろう。ニアピン賞は頂きだな。
４人目がショットするとグリーンオーバーして、結局有様一人がナイスオン。

乗ったのは有様だけで、距離は関係なく乗っただけでニァピンでした。
「よっしゃー、ニアピン二階建て頂き!」

キャディさんも「有様ナイスオンでした!」と絶賛してくれる。
キャディさんよりパターを受け取り、足取り軽く悠々とグリーンに向かって歩く。

３人がアプローチで、ピンにピタッと１パット圏内に寄せる。
「おめーら、気の毒だがパーだな!　よーく見ておけよ有様がバーディ挑戦ぢゃ」

気合を入れすぎた所為か、アドレナリンが一気に噴出したのか、約5mのパットがきつい傾斜の上へ1.5mオーバーしてしまった。

「ゲーッ!　締まった」狙わずに安全に手前でパットしてパーを取れば良かった。
他のメンバーは楽々先にパーをキープして、有様のパットを見つめている。

有様は「奴らは外せ!外せ!と願っている筈だ。絶対入れてやる」と気持ちを引き締める。
慎重にパーパットを打つ。ボールはトロトロと転がってカップの淵を舐めてクルリッと回っただけで「カラン」と言う音は聞こえない。

情けないワ。ボギーぢゃ! 他の３人の頬が緩んで、笑いをかみ殺して慰を言う。

クソーッ!　我々のルールでは、3パットはニァピン権利なし。しかも、罰金ぢゃ。

蚤の心臓の有様でした。