30代前半の頃、ある都市での仕事に行くことになった。
「予定はおそらく2~3年。単身で行く、それとも一緒に行って住む?」
「一緒に住みたい」とRoseyが言い、マンションの一室を借りての二人暮らしが始まった。
或る日、東京の本社から仕事上の用件で、部長Bさんと係長Kさんが来た。
用件を片付けるのに意外と手間取り7時ごろになった。
「疲れた、疲れた。ちょっと一杯、行こうか」とBさんのお誘い。
3人連れで、Kさんが一度来たことがあるというカラオケ・スナックへ。
「課長のあんたには、面倒なことばかりやらせて済まんね」
(だったら人をもっと寄越して、少しはラクさせてよ!)
「ま、人の数は限られているし、誰かがやらないきゃいけないんですから・・・」
「悪いね。ところで話は変わるけど、あんたの奥さん歌が上手いんだって?」
「私もそう聞きました。ぜひ聞かして欲しいですねぇ、部長」(黙れ、タイコ持ち)
時計を見たら9時近い。まず来ないだろうと思ったが無下に断るのもねぇ。
「電話してみますよ」と店のピンク電話を借りて家へ。
ワケを話して一応場所と店の名を教え、あとは小声で「無理しなくていいからね」
それから10分経たずしてRoseyが店に入って来たのには私もビックリ!
「宅の主人がいつもお世話になりまして Bさん有難うございます。Kさんも」
(何でアンタが人並みの挨拶できるんだ? どこで練習した?)
「いやあ奥さん、ご主人にはほんとに助けてもらってます。
それに、今日はこんな遅い時間に来てもらって恐縮です」
(いい加減にしろ、あんたが呼べと言ったんだろ)
しばし歓談ののち、「それじゃそろそろ奥さんに歌って貰いましょうか」とKさん。
「わたし、カラオケって殆ど歌ったことないんです。アカペラでいいですか?」
店の人から渡されたマイクを返すRosey。
「Bさん 何かリクエストありますか? 知っている歌なら歌いますけど」
(何もそこまでサービスしなくていいぞ。<内助の功>の真似事か?)
「ちょっと古いんだけど、<水色のワルツ>って知っています? できればリクエスト!」
「う~ん 何とか歌えるかしら・・・。それではみなさん歌います」
ガヤついていた店内が急に静かに。そこへRoseyの声が響き渡る。
「君に逢ううれしさの 胸に深く 水色のハンカチを ひそめるならわしが・・・」
Roseyは小柄なんだけど、どこからあんな声が出てくるのか不思議。
聴きながら、多摩川の河川敷で歌っていたRoseyを懐かしく想い出していた。
Roseyが歌い終わって束の間の静寂が訪れ・・・すぐ店内は拍手やブラボーで騒然。
そのあとの店内はカラオケ・スナックから歌声喫茶の雰囲気に一変した。
歌声喫茶ももう廃れていた頃だと思うが、なぜか皆さんそうしたムードに。
Roseyは物怖じしない性格、初対面の人とでも簡単に仲良くなれる。
この時も、水割りのグラスを手に持ちながら幾つかある客のテーブルへ。
「ねえ、一緒に歌いましょうよ。何ならデュエットでも。さあ前へ」
客を前に引っ張り出しては、一緒に歌ったり、時にソロで歌ったり・・・
知らない曲でも平気。途中からハミングやスキャットでハモっていたから。
最後は客も店の人たちも一緒に肩を組みあい「青い山脈」でお開き。
「それではみなさん、お休みなさい」(もう12時すぎているぞ)
帰りのタクシーでは、歌い疲れ、飲み疲れのRoseyが私の膝枕でぐっすり。
この夜もまた生涯忘れらない想い出になった。
今日のビデオ
「水色のワルツ」の歌と歌詞。歌は鮫島有美子さん。
[Rosey]