(マーメイドの小娘と冥界の神官を競わせたゲーム、聞いておるぞ。なかなかおもしろい展開になっているではないか。どうじゃ、新たなゲームを始めぬか? 人類絶滅は魔界にとっても望ましくはない。
だが、いたぶる相手がいなくなっても魔界が滅びるわけではない。人類が滅びて真に困るのは神界の方ではないか? 人類が絶滅したなら奴らをいたぶる代わり神界との争いを再び始めてもおもしろい)
(ほう、ゲームと言うからには双方が何かをかけるのか?)
プルートゥがまんざらでもない顔になった。
いつの間にかユピテルとネプチュヌスまで身を乗り出している。
(神界が魔性討伐に失敗したならばアポロノミカンを魔界にいただく。つまり、魔界のものが人間界でアポロノミカンを手に入れる手助けをしてもらう)
(・・・・・・)
(この条件を飲むなら、神界が魔性討伐に成功したあかつきにはシュリリスが持ち出したパンドラの筺を返してもよい)
パンドラの筺!
思念を受けた瞬間、最高神たちの目が見開かれた。
アポロノミカンが天界最高の機密なら、パンドラの筺こそ冥界最高の機密。
神話では、寒さに震え野生動物たちにおびえる人間たちのためプロメテウスは神界の火を盗んで与えてしまう。怒ったユピテルは彼らに災厄をもたらすためヘーパイストスに人類最初の女パンドラを粘土で作らせた。
彼女は、「ありとあらゆる」を意味するパン、「贈り物」を意味するドラの名に恥じぬように神々からすべてを与えられた。知恵と闘いの神アテナから機織の能力、美の神アフロディーヌから男を苦悩させる魅力を、泥棒の神ヘルメスから狡猾さを与えられた。そして、「なにがあっても開けてはならぬ」と言われた筺を持って、プロメテウスの弟エピメテウスの元に送り込まれた。
兄の「ユピテルからの贈り物は絶対受け取るな」という言葉にもかかわらず、エピメテウスはパンドラの美しさに負けて結婚してしまう。彼女の持って来た筺には、人間界のありとあらゆる災厄、悲嘆、悪意が詰まっていた。筺を開かない限り、災いは筺に閉じ込められて人間たちは幸福な人生を送ることができたはずであった。
だが、彼女が好奇心から筺を開いた時、ありとあらゆる災いが世界中にばらまかれた。その結果、人間たちは、常に戦争、飢餓、疫病、嫉妬、悪意に悩まされることになった。
パンドラがあわてて筺のふたを閉じた時、「わたしも外に出してください」という声が聞こえた。それが希望であった。そのために、人間たちは、絶望の縁に瀕しても希望を持つことができるはずであった。
本当は、パンドラの筺とは、宝物殿に隠されたプルートゥの秘宝であった。
その筺を収めたヴラド一族の紋章コウモリの形をした宝物殿の鍵は、かつては冥界最高位の神官マクミラが、現在では継いだ妹ミスティラが持っていた。
宝物殿は人間たちの執着がうずまき、並の魔力では押さえられない。
過去に扉があやまって開いてしまった時、一緒に「パンドラの筺」も開いてしまった。それが、人間界に神話として知られるようになったのである。
四人の魔女の一人、闘いの神カンフの娘ライムがオルフェウスの竪琴を宝物殿から盗んだ時に、いきがけの駄賃とばかりに「パンドラの筺」も盗み出した。
行方がわからなくなっていた筺がどこでどうしたものか魔界にあったと言う。それが本当ならば、冥界は「パンドラの筺」を絶対取り戻さねばならなかった。
一度開いた「パンドラの筺」は、今度は別のものを集め始めていたからであった。
ランキングに参加中です。はげみになりますのでクリックして応援よろしくお願いします!
にほんブログ村