1443年、ヴラドの父ドラクール二世はワラキア独立を目指してトランシルヴァニアと同盟関係を結んだ。トランシルヴァニア公フニャディ=ヤーノシュの反トルコ十字軍に加わるため、彼は人質になっている息子たちを見捨てた。
同年末のトルコとの戦では、ポーランドとハンガリーの支援を受けたワラキア・トランシルヴァニア連合軍は勝利を納めた。
翌年、彼らは大敗を喫したが責任をドラクール二世と長男ミルチャはヤーノシュになすりつけ、連合軍の軍法会議で死刑を宣告した。功績が勘案されて助命嘆願により命拾いしたヤーノシュは、それ以来彼らを深く恨むようになった。
1447年11月、トルコと和平協定を結んだヤーノシュが、昔年の怨みをはらすべくワラキアに攻め込んだ。同年、ドラクール二世は、ワラキアの王権をめぐって貴族の一人に毒をもられて死んでしまう。
さらに、翌1448年、トルコとワラキアの間で激しい戦闘が始まり、王子であったヴラドとラドウの幽閉が解かれる事件が起きた。
ある夜、何かとヴラド兄弟を気遣ってくれる看守バサラがやって来た。
「さあ、坊主たち、早く逃げ出すのだ」
「何を言っている。頭でもおかしくなったのか?」
「そうかも知れぬ。だが、戦争に従事する人間にまともなものなどおらぬ」
「一体、何があったのだ?」
「トルコとワラキアは、戦闘状態に入った。幽閉されたままでは、間違いなく死ぬぞ。お主たちも、もう17才と15才だ。必死で闘えば、国元までたどり着けるかもしれぬ」
「俺たちを脱獄させたりして、お主の立場は大丈夫なのか?」
「心配するな。わしにもお主たちと同じくらいの息子がいたが、幼くして亡くした。お主たちのような子供が命を失うのを見るのには耐えられない。それに長患いで寝ていたかかあが、昨晩、息を引き取った。もう誰も心配しなくてよくなった。わし一人くらい、どさくさまぎれに生きて行けるわ」
鍵を空けて、さあ、早く逃げ出せと二人をうながそうとした時。
バサラがくずおれた。
「ここ数日どうも様子がおかしいので見張っていたが、人質を解放しようとは。とんだとばっちりを喰うところだった」
バサラの後ろから、ツルゴが現れた。
その手に持つ刀からは、まだなま暖かい血がしたたっていた。
「貴様!」ヴラドが鍵の空いた牢屋から、飛び出した。
アポロノミカンを見せられてからの変調のせいで横になってばかりいたが、この時ばかりは怒りで全身に力がみなぎっていた。
だが、襲われるのを予想していたツルゴは返り討ちとばかりに剣をヴラドの腹に深々と突き刺した。
「腹を刺されて死ぬ気分はどうだ? 心の臓をさされるよりも、ずっと苦しいだろう。どうやらお前はドラゴンにも悪魔にもなれなかったようだな」
「クッ」苦しい息の下、ヴラドが言った。「こんなところで死ぬものか。まだ、まだ死ねぬ。このままでは・・・・・・生き地獄で苦しむワラキアの民を救わずに死ねるものか」
そんなセリフも、ツルゴのサディスティックな感情を喜ばせただけだった。
ランキングに参加中です。はげみになりますのでクリックして応援よろしくお願いします!
にほんブログ村