エリザードの瞳は期待に潤み、全身から血を垂れ流す男の身体にそそがれる。身悶えしながら両の乳房を揉むと、全身から麝香の香りがただよいだす。
すでに恍惚となった表情で捕虜の血を大量に吸うと、“ドラクール”一族の血の契りの儀式を始めた。
こうして増えた下部(しもべ)たちは、ヴラドとラドウ兄弟と同じ特注の鎧に身を包んだ不死の戦士としてワラキア公国親衛隊員となっていった。
ヴラド・“ドラクール”・ツェペシュ大公と美男公ラドウ。
二人の関係は、変わってしまった。
ラドウが夜の顔エリザードを持ったためにもたらされた悲劇のせいであった。これぞマクミラが一度のぞき見て以来、二度と見まいと決心した“ドラクール”が味わった生き地獄であった。
だが、誰も予想しなかった二人が仲違いする日が、近づいていた。
1476年のある夜。
真夜中こそ、ヴァンパアが最も輝く瞬間。
今宵もエリザードは波立つ美しい赤毛にブラシをかけながら、爛々と瞳を輝かせていた。血の色の口紅を塗ったような唇は、見る者がいたならば、ゾッとさせると同時に心を引き寄せたはずであった。
だが、エリザードはいらだっていた。
豪奢な寝間着に身を包み妖しい色気をただよわせても、“ドラクール”はけっして指一本触れようとしなかった。
彼は、じっと何かを考えていた。
「昼に誰より猛々しく敵を屠るのは、あなた様のため。なぜ、夜にあなた様を待ちこがれる誰より美しい私を抱いてはくれないのです?」
鎧に身を包む昼の顔ラドウはたくましい筋肉で敵を屠る狂戦士でありながら、夜の顔エリザードになった時には悩ましいほどに美しい肢体を持ったヴァンパイアになる。
「エリザードよ。寝屋を共にしているのは、愛からではない」
「では、いったい?」
「哀れみじゃ」
「・・・・・・」
「お前の真の姿は、我が弟ラドウ三世。血肉を分けた兄弟同士が、獣のごとく愛しあうなど神の摂理にかなうことではない」
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