裁判官は、鎧を脱ぎ黒いビロード服に体躯を包んだヴラド・“ドラクール”・ツェペシュ。隣には、宝石と絹のきらびやかな装束に身を包んだエリザード。
彼女が「ラドウの夜の顔」と夢にも思わぬ人々は、これほど美しい奥方を、いったいいつヴラドが娶ったのかと思った。
爛々と光る独裁者の両眼に睨まれると、申し立てできる捕虜や犯罪者などはほとんどいなかった。それでも、敵兵の中には命知らずがまざっていることがあった。
「さあ、殺すなら殺せ」全身に刀傷を受けて、血まみれになった捕虜が言った。「辱めを受けるくらいなら、誇り高いトルコ兵として死ぬのが最後の望み」
「その強がり、どこまで持つものか」エリザードの声は氷の刃がつきつけられたように、受け取ったものの背筋をぞっとさせる。「我が試してやろう」
「さあ、この者の足の爪を一枚ずつ剝がすのじゃ」
苦悶の表情を浮かべながらも、捕虜はエリザードを睨みつけている。
「うれしや。いたぶりがいがある。次は、指の爪を一枚ずつ剝がすのじゃ」
最初の拷問に耐えた捕虜は、両足をつぶされ、両腕を砕かれ、最後に全身の皮膚を剝がした上で、塩水をかけられ、無限に続くほど鞭で打ち据えられる。
ほとんどの捕虜たちは、あまりの苦痛と屈辱に耐えきれずに呪詛の言葉を吐きながら死んでいく。
まれに最後まで耐え抜く者がいた時、エリザードが両眼は輝きだす。
「お前にできるのはこの程度か? 俺が死んだら地獄の悪鬼にワラキアの独裁者は、たいしたことがなかったと言いふらしてやるわ・・・」死の間際にあっても、毫の者らしく憎まれ口をたたいた。
「皆の者、人払いじゃ」そうした勇者に出会った時、エリザードはヴラドの側を離れて捕虜に近づいていく。
「すばらしや。さあ、血の契りの儀式を始めようではないか」
豪華な衣装が、スッと音を立てて床に落ちた。
額にかかったみどりの黒髪。
これから始まる儀式への興奮で開いた鼻孔。
ぬれたように真っ赤な唇が、ゆっくりとつり上がった。
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