一匹の深紅の龍が、ナオミを睨み付けていた。
孔明によく似た見事なたてがみ、背びれ、鱗を持っていた。美しいブラウンの瞳が、龍が雌であることを語っていた。
マーメイドの感覚がよみがえってきたナオミは、易々と龍の攻撃をかわすことができた。だが相手もスムーズな動きをするので、打ち込んでも拳や蹴りを当てることができない。初めての相手のはずなのに、旧知の相手と組み手をしているような錯覚に陥った。
そうだ。あの時は、孔明の逆鱗に触れてしまったんだった。
孔明をつかまえて離さない憤怒を弾き飛ばすために、たしか・・・・・・
記憶がよみがえってきたナオミは、弓を引き絞るポーズを取ると、生体のエナジーをため込んだ。次に、身体を一回転半させて、得意の後ろ回し蹴りでミドルキックを打ち込む。あの時は、孔明にふしぎな表情が浮かんで、信じられないようなスキができた。同じように、蹴りを放った。
今回は、ナオミの後ろ回り蹴りを予測していたように、赤龍も全身を一回転させて回り蹴りで対抗してきた。4年前は、マーメイドの蹴りが決まって孔明の身体が数メートルも先のコンクリートの壁に打ち付けられた。
だが、今度は相打ちだった。
幻視が終わった。ナオミはシャトル左端に弾き飛ばされていたが、チャイナ服の可憐な少女も右端に弾き飛ばされていた。
立ち上がったナオミが近寄ると、彼女の顔色は人形のようになっていた。
その時、頭の中に祖母トーミの声が聞こえた。
ナオミよ、この龍、身体は眠っておるが、魂は起きてもおる。
今は、動くためのエネジーが弾き飛ばされた状態じゃ。
おばあさま・・・・・・本当にお久しぶり。
ナオミよ、今宵はあまり時間がない。再び、トーミの声が聞こえてきた。
ほんの少しでよい。この目を開いたまま夢を見ているお嬢ちゃんに、おまえのライフ・エナジーを打ち込むんじゃ。
わかったわ。ポンと軽く肩を小突くようにすると、眠眠の目の焦点があった。
「ありがとう」
「ありがとう?」
「さすが、お兄ちゃんの最愛の人。試しがいがあったよ」
「最愛の人? 試しがい?」
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