ドイツ、フランス、ウクライナ、そしてロシアの首脳が2月11日からベラルーシの首都ミンスクで会談、15日から停戦に入ること決めた最大の理由はEU 内部でアメリカへの従属に反発する声が高まっていることにあるのだろうが、それだけでなく、キエフ軍の崩壊を恐れているということもあるはずだ。
ウクライナの東/南部でキエフ軍は早い段階から劣勢で、要衝と言われるデバリツェボではナバロシエ(ルガンスク人民共和国とドネツク人民共和国)軍に包 囲され、投降するか全滅するかという状況に追い込まれていた。撤退ではなく投降だということだ。全滅させて全てを失うより、投降させて交渉の余地を残す方 が良いとEUやペトロ・ポロシェンコ大統領は判断したのだろう。あわよくば、包囲された状態で「待った」し、反撃の準備をしようとしたのかもしれない。ネ オ・ナチ(ステファン・バンデラ派)は現地の部隊に投降を禁止していたとも言われている。
右派セクターを率い、東部で民族浄化作戦に参加している議員のドミトロ・ヤロシュは停戦を拒否すると宣言、アメリカ議会ではジム・インホフェ上院議員は アメリカの軍事介入を本格化させるため、2008年にグルジアが南オセチアへ奇襲攻撃した際に撮影された写真などを振りかざしてロシア軍がウクライナに軍 事侵攻したと主張していた。アメリカの好戦派とネオ・ナチはロシアとの戦争に向かい、突き進んでいたわけだ。
キエフ政権もアメリカ政府もロシア軍がウクライナへ入っていると根拠を示すことなく主張、その嘘が次々に暴露されてきた。ロシア軍の存在を主張するのは 自分たちが敗北している弁明であり、アメリカ/NATOが軍事介入を本格化させる口実にしたいのだろうが、実際にはロシア軍がウクライナにいないため、ア メリカとしては大きく動くわけにはいかなかった。
アメリカが行ったことと言えば、傭兵を送り込んだほか、FBI、CIA、軍事顧問団を派遣し、武器を提供する程度のこと。ミンスクでの停戦合意後、
高性能の武器を提供するようにアメリカ政府へ求めるとネオ・ナチを率いるひとりのアンドレイ・パルビーは語っていた。反撃作戦を相談することも目的だっただろう。
パルビーは1991年にオレフ・チャフニボクとネオ・ナチの「ウクライナ社会ナショナル党」を創設している。この名称はナチス(ナショナル社会主義ドイ ツ労働者党)を連想させるということもあり、アメリカ側の指示で2004年に「スボボダ(自由)」へ名称を変更している。この年、ウクライナのネオ・ナチ はバルト諸国で軍事訓練を受けるようになった。
前の停戦をキエフ側は体勢の立て直しに利用していたが、パルビとアメリカ政府との話し合いが間に合わず、命令に背いて現地のキエフ軍は投降、撤退するこ とになった。当初からキエフ軍は食糧も不十分な状態で、「現地調達」で戦うことになっていて、兵士に報酬もまともに払えず、
制圧した東部の土地は無償で提供するという話に なっていたようだ。この結果、キエフ軍は押し込み強盗のようになり、住民との敵対関係は強まる。旧日本軍と似たような状況だ。事実を見ないのか、一度描き 出した構図を修正できないのかわからないが、この旧日本軍的なキエフ軍をいまだに「解放軍」とでも思っているらしい団体が存在する。
アメリカが参加しなかった今回の停戦合意をヤロシュたちは拒否、その一方でパルビーはアメリカ政府へ高性能兵器の提供を求めるとしていた。ネオ・ナチは 戦争を継続する意思を鮮明にしていたということだ。そして戦闘は続くのだが、独仏の首脳がロシアのウラジミル・プーチンと会う前からデバリツェボは人民共 和国側に包囲され、勝負は決していた。
そこで、ポロシェンコ大統領は人民共和国軍の攻撃を停戦合意で止める一方、国連やEUに平和維持部隊の派遣を求める意向のようだ。自分たちに有利な状況 を作りたいという計算だろうが、ロシアはOSCE(欧州安全保障協力機構)をないがしろにする行為だと反発している。OSCEには西側の情報機関と結びつ いたグループが存在しているが、全般的には公正な活動をしてきた。
すでにアメリカ/NATOはキエフ政権に対する軍事的な支援を行っている。例えば、アメリカやポーランドの傭兵会社から戦闘員が数百名の単位でウクライナへ入って戦いに参加、アメリカ政府は
FBI、CIA、そして
軍事顧問を 派遣している。1月21日にキエフ入りしたアメリカ欧州陸軍司令官のフレデリック・ベン・ホッジス中将を中心とする代表団は国務省の計画に基づき、キエフ 政権の親衛隊を訓練するためにアメリカ軍の部隊を派遣する意向を示している。すでに武器も供与されている可能性がきわめて高い。(例えば、
ウクライナのテレビ局、
反キエフ軍の説明)
それにもかかわらずキエフ側は負けているわけで、少々のテコ入れで戦況を変えることは難しい。平和維持軍という名目でNATO軍を入れようとすれば、ロ シアとの軍事衝突から核戦争へ発展する可能性が出てくる。これまでロシアは自重して軍隊をウクライナへ派遣しなかったことから開戦は避けられてきたが、こ れまで以上にアメリカ/NATOの挑発が強まれば、どこかの時点で火がつくだろう。
アメリカの好戦派にとってシリア情勢も頭が痛いところ。反シリア政府軍が拠点にしているアレッポに政府軍が迫っているのだ。アメリカ/NATO、ペル シャ湾岸の産油国、トルコ、イスラエルなどがシリアのバシャール・アル・アサド政権を倒そうとしてきたが、プラン通りには進んでいない。
リビアのムアンマル・アル・カダフィ体制が倒された後、アル・カイダ系の武装集団がシリアへ移動、イラクで戦っていたアル・カイダはAQIからISI、 そしてIS(イラクとレバントのイスラム首長国。ISIS、ISIL、IEILとも表記)へと名称を変更、シリアへ乗り込んだ。アル・カイダ/ISの背後 にアメリカが存在することは本ブログで何度も書いた。イランの義勇兵組織、バスィージのモハマド・レザ・ナクディ准将は、
イラクのアメリカ大使館がIS(イスラム国。ISIS、ISIL、IEILとも表記)の司令部だと語っている。
ISがイラクのファルージャとモスルを制圧した際、その動きをスパイ衛星や通信の傍受などで把握していたはずのアメリカが反応していないことに疑惑の目 を向ける人も少なくない。サウジアラビアなどからISへ流れている資金を断ち、石油や天然ガスの密輸ルートを止めるだけでも組織を維持できなくなりそう だ。
現在、シリアで実際にISと戦っているのはシリア政府軍とヒズボラ。アメリカを中心として行われている空爆に疑問があることも本ブログで何度も指摘して きた。イスラエル軍はISと戦うシリア軍とヒズボラを1月18日に攻撃、イラン革命防衛隊のモハメド・アラーダディ将軍を含む幹部を殺したと伝えられてい る。
シリアで反政府軍が劣勢になる中、戦闘が激しくなっている場所がある。リビアだ。
アル・カイダ系のLIFGがNATOと手を組んでカダフィ政権を倒したのだが、無政府状態の中、ISが活発に動いているという。
ここにきてロシアと接近しているエジプトはリビアの状況に危機感を持っているようだが、EUへの影響を警戒するべきだとする意見もある。リビアの隣国、 チュニジアはかつてカルタゴと呼ばれた都市国家があり、ローマと戦ったことは有名。地図を見ても明らかなように、シチリアを経由すれば容易にイタリアへ入 れ、モロッコからポルトガル/スペインというルートもある。アメリカの支配層に背いたEUに対し、ISを使って報復するという推測だ。