チームのひとりで主任外国特派員のリチャード・エンゲルは翌年の4月号のバニティ・フェア誌で政府軍と連携している武装勢力が実行したと主張していたのだが、ここにきてエンゲルはその主張を取り下げ、反シリア政府軍につかまっていたと認めた。拉致グループは自分たちを親政府軍であるかのように装っていたので間違えたというのだ。
しかし、解放された直後から拘束したのは反シリア政府軍ではないかという報道もあった。 エンゲルたちが携帯していたGPSでNBCの幹部は拉致を察知、その場所が反政府軍の支配している地域であることも認識していたという。解放後にエンゲル も知らされたはず。しかも、拉致したグループと救出したグループの指揮官は一緒だったことが判明している。つまり、バニティ・フェア誌の記事は「誤解」で なく嘘だった可能性が高いということだ。その当時、アメリカ/NATOはシリアに対する直接的な軍事攻撃の準備をしていた。こうしたことを考えても、湯川 遥菜(湯川政行)と後藤健二の事件も「政府公認の見解」は信じない方が良いだろう。
シリアのアレッポで殺された山本美香は反政府軍でアメリカ/NATOから支援を受けていたFSAに同行していたようだが、同じようにFSAの案内で取材していたイギリスのテレビ局、チャンネル4の取材チームも間一髪のところで命拾いしている。
取材チームの中心的な存在だったアレックス・トンプソンによると、彼らは反政府軍の罠にはまり、危うく政府軍から射殺されるところだったという。彼らをFSAの兵士は交戦地帯へと導き、政府軍に銃撃させるように仕向けたというのだ。イギリスやドイツなどの情報機関から政府軍の位置は知らされているはず。意図的だったとしか考えられない。西側は「ジャーナリストの犠牲」を演出しようとしていたのだろう。
2013年3月19日、シリア政府はアル・カイダ系のカーン・アル・アッサルが化学兵器を使ったと発表、国連に対し、すみやかに調査するように要求している。また、この事実をシリア政府から得ているとロシア外務省は発表、懸念を表明した。
これに対し、反政府軍は政府軍が使ったと反論するが、この攻撃で被害が出ているのは政府軍側。イスラエルのハーレツ紙も書いているように、シリア政府に責任を押しつけるのは無理がある。国連独立調査委員会メンバーのカーラ・デル・ポンテも反政府軍が化学兵器を使った疑いは濃厚で、しかも政府軍が使用したとする証拠は見つかっていないと発言した。そうした状況の中、エンゲルは自分たちを拉致したのが政府軍側だと主張する記事をバニティ・フェア誌で書いたわけだ。
イラクでISIとして戦っていたアル・カイダ系の戦闘集団が2013年4月からシリアでの戦闘に参加、それにともなって名前を「イラクとレバントのイスラム首長国(IS、ISIS、ISIL、IEIL、ダーイシュとも表記)」に変更している。
7月31日にサウジアラビアのバンダル・ビン・スルタン総合情報庁長官がモスクワを秘密裏に訪問してウラジミル・プーチン大統領と会談したが、その際、 シリアから手を引けば、ソチで開かれる冬季オリンピックの襲撃を計画しているチェチェンの武装グループを押さえると持ちかけ、逆に激怒させることになる。
ダマスカスの近くで化学兵器が使われたのはその翌月、8月21日にこと。西側の政府やメディアはシリア政府軍がサリンが使ったと主張、シリアへNATO 軍が直接介入する動きを見せるのだが、このストーリーはすぐに崩れ始める。例えば、国連のシリア化学兵器問題真相調査団で団長を務めたアケ・セルストロー ムは治療状況の調査から被害者数に疑問を持ったと語っている。(PDF)
おそらく、最も早く西側の主張に反論したのはロシア政府だ。シリアの体制転覆を目指す勢力がシリア政府のサリン使用を主張する中、ロシアのビタリー・チュルキン国連大使はアメリカ側の主張を否定する情報を国連で示し、報告書も提出した。
ロシアが示した資料の中には、反シリア政府軍が支配しているドーマから2発のミサイルが発射され、毒ガス攻撃を受けたとされるゴータで着弾していることを示す文書や衛星写真が含まれていたという。
ミサイル発射から間もなくして、化学兵器をサウジアラビアを結びつける記事がミントプレスに掲載された。デイル・ガブラクとヤフヤ・アバブネの名前で書かれたもので、後にガブラクは記事との関係を否定する声明を出すのだが、編集長のムナル・ムハウェシュはその声明を否定する。
編集長によると、 記事を28日に編集部へ持ち込んだのはガブラクであり、同僚のヤフヤ・アバブネがシリアへ入っているとしたうえで、反政府軍、その家族、ゴータの住民、医 師をアバブネが取材した結果、サウジアラビアが反政府軍に化学兵器を提供し、それを反政府軍の戦闘員が誤って爆発させたと説明したという。一連の遣り取り を裏付ける電子メールが残っているともしている。その後、カブラクからの再反論はないようだ。
昨年10月に入ると「ロシア外交筋」からの情報として、ゴータで化学兵器を使ったのはサウジアラビアがヨルダン経由で送り込んだ秘密工作チームだという話が流れた。アフガニスタンの反政府軍支配地域で「第三国」がアル・ヌスラなどシリアの反政府軍に対し、化学兵器の使い方を訓練しているとする報告があるとロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は語る。
12月に調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュもこの問題に関する記事を発表している。反政府軍がサリンの製造能力を持ち、実際に使った可能性があるというのだ。国連の元兵器査察官のリチャード・ロイドとマサチューセッツ工科大学のセオドール・ポストル教授は、化学兵器をシリア政府軍が発射したとするアメリカ政府の主張を否定する報告書を公表している。ミサイルの性能を考えると、科学的に成り立たないという。
ユーゴスラビアにしろ、アフガニスタンにしろ、イラクにしろ、リビアにしろ、シリアにしろ、ウクライナにしろ、アメリカは嘘を口実に戦争を目論み、実際 にいくつもの国を破壊してきた。この嘘が判明しても知らん振りしているのが日本の政府やマスコミ。嘘にも続いて「集団的自衛権」を発動、破壊と殺戮を繰り 広げたあとで嘘がわかったときも知らん振りなのだろう。「大東亜共栄圏」の賛成し、侵略、破壊、殺戮、略奪の片棒を担いだ人びとと何ら変わらない。