
亡き次男に捧げる冒険小説です。
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二六
テーリが先導して洞穴を進む。洞穴の中は《魔法技師》の《ライト》(光の呪文)で明るく照らされていた。向かって左側の《ウォーグ》のねぐらに向かった。鼻につくカビと腐肉の匂い。空気は澱み吐き気を催す。枯れ草や旅人の衣服などで作られた簡易的な寝床は特に匂いが酷かった。ナーレは中に財宝がないかなと手を伸ばしかけたが、あまりに不潔な宝の山を前に手を引っ込めた。
向かって右側の《ゴブリン》のねぐらに入る。こちらの部屋の方が遥かに広く、空気も良い。綺麗に片付けられねぐらと言うよりも客間のような清潔さと気品が感じられた。
「妙な部屋だ。とても《ゴブリン》が自分たちのために使っていたとは思えない格調高さだ。」
貴族のハーラは自分の屋敷を思い出していた。高価に見せようと無理に装飾を施した調度品が散見される。誰か高貴な人物がこんなところを訪れるものなのか。得体の知れない違和感に、ハーラの背筋に冷たいものが流れる。多少の路銀になりそうな家具が据えられていたが持ち歩くには大き過ぎ、戦利品にする気も起きなかった。
「実入はゼロかぁ。」
残念そうに甲高い声でナーレが嘆く。踵を返し部屋を出ようとするナーレをハーラが止めた。
「待てナーレ。テーリの様子がおかしい。」
テーリは這いつくばり洞穴の床の匂いを必死に嗅いでいた。この部屋は空気に澱みがない、テーリは入った時から違和感の出所を探っていた。新しい空気は床から立ち上ってくる。どこかに通路でもあるのかと、空気の流れを感じながら、床を叩いて音を確かめていく。コーンと響く床を見つけた。明らかに材質が違う。床板が薄い。周りを探ると巧妙に隠された持ち手を見つけた。何が飛び出してくるかわからないと、ハーラに大剣を掲げさせテーリは床板を持ち上げた。溢れ出る光。床下には緑に輝く広大な空間が広がっていた。
【第2話 二七に続く】
毎週 月水金曜日
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ハテナ義兄弟の初冒険を見守る視線に彼らは気付かない。チッチとマッマの胸に去来する思いとは?