筋書きのないドラマ、筋書きのあるドラマ

ロッテ戦を中心に、野球を好き勝手な視点から見るブログ

「幻夜」 たぶん「白夜行」第二部

2009-07-31 14:23:52 | 小説

「白夜行」は、大好きな東野圭吾さんの代表作

ドラマ化されたものは、最初にいきなり種明かししちゃったり、純愛を前面に出したいがためにあまりにちゃちな二人のベタベタ感ばかり目立ったりと、ゲンナリだった 原作の良さが半分も出ていなかった

原作は、私は純愛だとは思わなかったのだけれど、東野さんご本人が究極の純愛だとおっしゃってたらしいのでそうなのでしょう。でもそういう読み方以外でも、「白夜行」は面白さがたっぷり

例えば、主人公達の生きていた時代の背景にある犯罪史は、そういえばこんな事件があったよね、と現実のその頃を思い起こさせる
主人公達の心理描写がないので、いろいろな登場人物の目線から読み手が事実を想像する。その中で、あれもこれもこう繋がってるんだ、と自分で気付けるので、ニンマリしちゃうわけである

面白すぎて何度も読み返しているのだが、実は私はこの主人公の女性、あまりのジコチューさに全く共感できない
一方相棒の男の方は、頭が切れて冷静で先見の明がある。裏の事情にも通じ、ダークな仕事にも強いという、これが誠にカッコイイのです。ドラマでは軟弱男に描かれてたけどね


で、最近「幻夜」を読み直した。

最初読んだときには解説を読むまで気付かなかったのだけれど、これは「白夜行」の続き、らしい。第二部、ということだろうか。
ただ、「白夜行」を知らなくてもつながっているわけではないので、単体で読んでも大丈夫

今度は背景は阪神淡路大震災。そのどさくさで邪魔者を殺してしまった男と、それを見てしまった女。二人はペアを組む。
またも壮絶なだまし討ち、の話である
多大な数の人間を不幸に突き落とし、自分がのし上がっていく女。

すごくスリリングで面白すぎるのだけど。。。読み終えた後の感想は、友人がいつか私につぶやいたのと同じ。
「誰かあの女に天誅を」

あの結末は、切ないよ。
第三部を考えているのかな、東野さん。


余談ですが、この「幻夜」に出てくる舞台の一つ、「華屋」という高級宝石店は、東野さんの別の作品「ウインクで乾杯」に既出ですね
これは、コンパニオンと刑事のでこぼこコンビが連続殺人に挑む、軽快な本格推理もの。初期の頃なので作風は違うけど、これもとても好きな作品です


「空飛ぶタイヤ」 読み応えあり、読後感も良し、リアルな企業小説

2009-07-23 18:05:41 | 小説

トラックのタイヤ脱輪事故で、幼い子供を残して母親が死亡。トラックの運転をしていた赤松運輸は、車両整備不良ということで社会的に責めを負う。主要取引先が去り、銀行から融資を引き上げられ、社員も転職していく苦しい状況の中、整備に不備がないと信じる赤松は、大企業ホープ自動車の欠陥隠しに立ち向かっていくのだった……

下敷きは三菱ふそうのリコール隠し。ここまであからさまに事情を語ってしまっていいの というくらい大自動車会社の腐敗に迫っている  一応フィクションではあるのだが。

悪役はもちろん大自動車会社。けれど、その中でも品質管理部という事故の調査をする部に所属する社員や、クレーム対応に当たる社員のそれぞれの事情、気概。事故を起こしてしまった悲劇に立ち向かう一中小運送会社社長の苦悩。更に自動車会社とグループ企業であるがゆえに持ちつ持たれつの銀行の中でも、それに違和感を感じる銀行員のプライド

こんな様々な視点から、とてもわかりやすい文章で、大がかりで悪質なリコール隠しがだんだんと暴かれていく様子が描かれる。それはもう骨太でスリリングで切なくてリアル

作者は元銀行員という経歴の池井戸潤さん。企業を見る目がとても客観的な感じがするのも、銀行の事情に詳しかったりするのもうなずける。そしてときどき差し挟まれる例えが、とても効果的で洒落ている

かなりボリュームがある本ではあるが、読み出したら止まらない それほどに先に進みたくなる。考えさせられる。何もかもを放り出して没頭したくなる面白さ ラストも期待通りの読後感の良さがある

ちなみに最近wowowでドラマ化されたとか。
これは見たい
主役の赤松運送社長は仲村トオル。大自動車会社のクレーム窓口で、腐った企業倫理に振り回される社員に田辺誠一。グループのもたれ合いに疑問を投げかける銀行員に萩原聖。リコール隠しの黒幕に國村隼
このキャスティングを見ただけでワクワクする  DVDになったら即見ですね


読み応え満足 「オリンピックの身代金」

2009-06-24 16:37:35 | 小説

吉川英治文学賞作品。著者は「ガール」「空中ブランコ」などの奥田英朗さん。

私はこの方、初読だったんですが、すごく満足しました。他の作品もぜひ読んでみたいと思います。

東北の貧しい村出身の東大生国男は、義理の兄の死をきっかけに、彼の仕事だった末端の労働者になる。オリンピックを控えた東京の華やかさとは裏腹な地方の貧しさ、インテリとプロレタリアートの格差が身に浸みる。そして行き着いたのは、オリンピックを人質に国から身代金を奪うことだった……

奥田さんは1959年生まれだということなので、一応東京オリンピックの時にはお生まれにはなっているが、でも5歳。この本に書かれている詳細な当時の景色や環境をおぼえてらっしゃるわけではないと思う つまり綿密な調査の上で書かれているのでしょう(巻末の参考資料の数はものすごかった)。当時の雰囲気や時代背景、地図まで浮かんできそうな描写のすごさ

構成も凝っていて、起きた事件が先に描かれ、時間が戻って主人公のそこまでの状況や心境が書かれるというのがちょこちょこ繰り返される作り 最初は全体像がつかめなかった私は、何だかわからず進まなかったが、そこがわかってくると読書スピードが加速した もう最後まで一気

国男の欲のない身軽さ頭の良さ、相棒のおやじとの不思議な信頼関係、刑事とのスリリングな戦い……面白いです 引き込まれてのめり込んじゃいました。ラストは……ちょっとあっさりだったかも

しかし、結構分厚い2段組のハードカバー。なので時間がかかってしまい、図書館期限オーバー。一度「200人待ちなので早く返して下さいね~」とクギを刺されたのだが……待ち行列だったみなさん、ごめんなさい

次は奥田さんの本、買ってゆっくり読んでみようと思います


読みごたえありの「そして、粛清の扉を」

2009-03-30 18:37:56 | 小説

第一回ホラーサスペンス大賞受賞作品。作者は黒武洋さんという方。

冴えない女教師が一転、問題児クラスを人質に取り、次々冷徹に殺していくという衝撃作。

これは無責任で非道な少年達とその被害者達との戦い。

そのスプラッタな殺戮はえぐいのだけど、女教師の言い分には共感できるところが多々あるし、緊迫感いっぱい。

ただ、所々感じた、あまりに一方的すぎる感は、巻末で宮部みゆきさんが批評している、あえて境界線を踏み越えているというところなのかもしれない。

それと、途中から彼女があまりに銃や格闘や情報収集に長けすぎているのに違和感が…。

しかししかし。それは全部ラストで説明がつく。納得がいくかというと、そううまくいくものかな?とは思ったけれど。

けど、後半辺りから加速度がついて止まらなくなるのは間違いなし。二転三転意外な事実も明らかになっていく。

「乍ら」「所為」「心算」などのあまり見慣れない漢字表記の多用に、ちょっと読みにくさを感じはしたが。

元のタイトルは「ヘリウム24」とか。私的にはそっちの方が合ってる気がするけど…タイトルから内容がわかりにくいから変えたということなのかな。

衝撃的で読みごたえたっぷり、そして強烈な問題提起作。しっかりした小説を読みたいと思った時には、お勧めかと思います♪


灰谷健次郎「兎の眼」

2009-02-07 11:33:24 | 小説
NHK朝のBSで、「私の一冊 日本の百冊」という番組がある。著名人の方々が、「これ」という一冊を紹介するものだ。

その中で、有森裕子さんが紹介されたのがこの「兎の眼」。中学生向きとされている本である

大学出たての小谷先生は、小1の担任。その中の鉄三の、カエルを引き裂いたりなどの行動に手を焼き、すぐ泣いてしまう。が、同僚の足立先生などから「宝物を持っている子」と言われ、歩み寄っていく

なぜ鉄三がそんな行動に出たのか。それを理解しようと頑張る小谷先生と、だんだんと心を開いていく鉄三の成長が丁寧に描かれていてさわやか 作者の灰谷さんは17年間教師だった方だというので納得。教師のやりがいと、子供の持つパワーが力強く伝わってきて元気が出る。

ただ、後半は鉄三たちの住んでいる処理所移転の話がメインになる。個人的には前半の鉄三らと教師の交流物語の方が好きだった

有森さんは、この本を子供の頃に読んで鉄三に感情移入し、今再び読んで教師側に感情移入したとか。

本にはそういう、読み手の成長によって読み方が変わるという楽しみ方があると思う。私はこの本、子供の頃には題名しか知らずに通り過ぎてしまった。子供時代にもっともっと色々な本を読んでおけばよかったと思っている


ちなみに私のイメージキャストは、
   小谷先生:綾瀬はるか
   足立先生:佐藤浩市
                    でした