NHK「その時歴史は動いた」で、稲尾和久さんの驚異的な投手魂を扱っていた。
昭和33年の日本シリーズで500球以上を投げ、0勝3敗からの大逆転勝利を呼び込んだという伝説を持つ投手。当時は私はまだ生まれていないので実際に見たわけではないが、野球好きならば自然と耳に入ってきた「神様、仏様、稲尾様」。
先の見えないバッティングピッチャー時代、自分を磨く方法を見いだした前向きさ。長嶋封じのための「ノーサイン投法」ができる技術。ボールを握れないほど握力が落ちたのに9回を投げきる精神力。どれも圧倒される。
その伝説の日本シリーズの連投のくだりでは、「もう体を壊しちゃうからやめて~。誰か他に投手はいないの?」と泣きそうになった。でも、当時は国民がみな、「一つのことにバカになりきった者が勝つ」という稲尾に自分を重ねていたというから、マウンドを降りることは考えられなかったのかも知れない。
野球は時代を映す鏡でもあったのだなと思う。今でも、例えば「分業の中で自分の仕事を、らしく、キッチリやり遂げる」など、野球は時代を映し、いろいろなお手本を示していると思うのだが、哀しいかな、この週末、セリーグ頂上決戦ですらテレビは放送してくれなかった。もったいない。……嗚呼脱線。
「10勝を20年続けても『勤続表彰』はしてもらえても、『神様、仏様』とはならなかった」とは、肩を壊して32歳の若さで引退したときの稲尾さんの言葉。ピッチャーとしての強烈な自負が感じられる。何の後悔もないのだろう。ここまでの誇りを持てるものがある人を、うらやましく思う。