川端康成の「山の音」(新潮文庫552円)を読みました。
良い作品です。
死の恐怖や老いに苛まれながら生きている「信吾」の姿に共感できます。
老境にあっても息子の嫁「菊子」に淡い思いを寄せ、菊子も信吾に心をかよわす。
二人の間には「特段の出来事」は無いのですが、会話や何気ない仕草の描写から、返ってエロティシズムを想起させられます。
これを進めて行くと、後の「眠れる美女」にたどり着くのではないでしょうか。
信吾は、妻保子の姉を以前好いていました。
姉は夭逝してしまうのですが、信吾は老境の今まで姉の幻想を抱き続けています。
その代償として精神的に菊子を求めてしまうのか・・・・・
「伊豆の踊子」「禽獣」「雪国」等々の主題が「山の音」で変奏され、繰り返されているように思われます。
そう言う意味でも「山の音」は大変読み応えがある作品。
大したカタストロフィーがあるわけではない、多かれ少なかれ誰の身にもありそうなことを淡々と描いています。
それでいて、読み終わりたくない、このまま小説が続いて欲しいと願ってしまう作品。
向田邦子はこれをどう読んだろうか? 小津安二郎は? などと思いを巡らしました。